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79.トマトの可能性を考えてみる

 アヤナミとシリウスの指導のおかげで、俺の魔法もだいぶ上達した。

 基本の『石礫』や『水球』は大きさや形、数などもコントロールできるし、『浄化』まではいかないが、『洗浄』の魔法が使えるようになった。簡単に言えば掃除の魔法だな。『浄化』の下位版みたいなもので、菌を殺したりまではできないが、衣服の洗濯や部屋の片付けくらいには使える。

 範囲は広くないが『天地返し』もできるようになったので、畑を耕すときには活躍できそう……と思ったら、エルフたちが大活躍していたので俺の出る幕はなかった。

 ま、ここらへんは練習あるのみだ。


 いつの間にやら夏はすぐそこ。真っ昼間の太陽の下は流石に暑い。テレサたちが作ってくれた麻の服が役に立つ。

 足踏み式のミシンを導入し、コツコツと作ってくれたおかげで、無事、村人に一着ずつくらいは支給することができた。

 ちなみに足踏み式ミシンは地球で調べたアンティークミシンをもとに、ノームが作ってくれた。

 なかなか設計図まで書いた資料がなくて苦労したが、姉貴が服飾の歴史関係の本に分解図が載っていたのを見つけたらしい。

 さすがその道の専門家、グッジョブ、姉貴。


 畑の方も青々と茂っており、白や黄色の花が目立つ。

 本格的な夏になったらトマトやキュウリなどの収穫が待っている。

 ガイアス様の加護ももらったことだし、今年も豊作だといいな。


 そんな事を考えながら畑を見ているとなにやら大きなかたまりが落ちているのを発見した。

 石にしては大きいし、こんなところにあるのは不自然だ。


 野生動物でも入り込んだか?


 慎重に近寄ってみると、畑にしゃがみこんでいるフランカの姿が見えた。


「フランカ、どうしたんだ?」

「……トマト見てるの。」

「トマト?フランカはトマトが好きだもんな。」

「うん……」


 そういうフランカは浮かない顔だ。

 大好きなトマトなのに。

 どうしたんだろう。


「何か心配なことがあるのか?」

「んー……トマトがもうすぐ沢山食べられるようになるでしょ。」

「そうだな。楽しみだな。」

「でもクラリスがトマト嫌いって言うの。」

「そっか……美味しいのにな。」

「それにね、沢山取れても早く腐っちゃうから……私はちょっとずつ大事に食べたいけど、それは出来ないって……」


 なるほどな。

 確かにトマトは保存向きではない。傷みが早いから、自然と早め早めに食べなければという意識が働いてくる。

 世界樹の加護で収穫期は長いものの、一年中食べられる地球とは違い、ここでは夏と秋限定の味覚だ。

 しかもトマトを使った料理はサラダ(生のままかじる)か、スープ、あとは俺が作ったピザくらいしかレパートリーがなかった。


「クラリスはなんでトマトが嫌いなんだろうな。」

「うーん、なんか酸っぱいし、中のどろどろが嫌なんだって。美味しいのに。」

「そっか……じゃあさ、トマトを使った他の料理を考えてみるよ。マリアさんにも相談してさ、クラリスが美味しいって思えて、長い間とっておけるようなものを作ればいいんじゃないかな?」

「……うん!フランカもいっぱい考える!」

「よし、じゃあフランカがもし思いついたら俺かマリアさんに教えてくれ。」

「わかったー!ありがとう!」


 フランカは元気を取り戻したのか、笑顔で走っていった。


 ふむ。トマトレシピか…………。

 ぶっちゃけ俺もパッと思いつかない。

 今まで食べたトマトを使った料理だろ?


 マリネだっけ?確か酢を混ぜるやつ。

 完熟トマトのハヤシライスとかもあったな。

 ミネストローネ……は似たようなスープを今も作っているしな。

 ピザはもう紹介済みだし。


 なんか思い出そうとすると出ないもんだな。

 つか、出てきたところでレシピがわからん。


 これはあれだな。俺の必殺技。

「地球の知識に頼る」

 うん。そうしよう。


 前回帰ってからかなり日にちが経ってる。前は二、三日に一回、下手すりゃ毎晩のように帰っていたというのに。

 いつの間にか、俺もここでの生活に慣れてしまったんだなぁ。











 ――――目を開けると、現代的な白い天井。

 お久しぶりの地球だ。

 こっちの時間では二時間しか経ってないけど。


 早速パソコンを開く。

「トマト レシピ」で検索。

 ふむ。やっぱり基本はサラダやマリネか。

 生の玉ねぎをスライスして、オリーブオイル、酢、砂糖、塩か。

 うん、これなら向こうでも簡単に出来そうだ。

 玉ねぎはみじん切りにしてもいいし、バジルなんかを加えてもいい。


 あとはカプレーゼか。

 これも似たようなもんだな。酢を除いてチーズを加えるくらいか。トマトとチーズの相性は抜群だから、これもみんな喜ぶだろう。


 生で食べる他にも、ざく切りにして玉子と炒めるだけでも美味しいよな。

 これもメモメモ。


 あとはトマトソース。これは大いに使える。

 トマトソースにすれば料理の幅もグッと広がるし、生のトマトが嫌と言っていたクラリスもソースなら行けるかもしれないからな。

 ピザも美味そうに食ってた記憶があるし。

 ただ、ぶっちゃけ俺がピザ用に作ったトマトソースは潰して煮つめただけだからな。


 調べてみると、トマトだけではなくて玉ねぎや人参、セロリ、ニンニクなど色々なものが入っていた。

 さらに煮詰める時間や、保存用に脱気する方法もメモしておく。

 ……俺がドヤ顔で教えたトマトソースは、本当にただの「トマト」だったんだな。美味しい美味しいと言ってくれたみんなの優しさが染みる。


 もっと美味いものを普及させるから待ってろよ。


 あとはケチャップ。

 これもトマトソースと似たようなもんだが、舌触りが滑らかになるように裏ごししてスパイスを加えるらしい。


 他にもいくつかのレシピを『賢者の書』に綴じておいた。

 とりあえず、これでフランカの憂いが晴れると良いが……。





 病室から再び転移し、すっかり慣れた場所となった屋敷のベッドで眠りにつく。

 翌日、俺は早速マリアさんの元へ。

 昨日のうちに話はしてあるし、マリアさんもいくつか考えてくれたらしい。


「これはトマトとナスを炒めたもの、これはトマトの上にチーズをのせて焼いてみたの。村長のピザからアイディアを得たのよ。」


 次々と出されるトマト料理。

 中でも目を引くものがひとつ。


「これは?」

「これはフランカちゃんのアイディアなの。トマトを器に見立ててみたんですって。」


 フランカ考案というトマトレシピは、トマトの中をくり抜いて器状にし、中に肉や野菜を詰めるというものだった。


 おお、これはなかなかいいんじゃないか?

 フランカいわく、「中のどろどろが嫌って言ってたから、中だけ違うのにしたらいいと思った」らしい。

 なかなかセンスがあると思う。


 俺が調べてきたマリネや炒め物、トマトソースのレシピもマリアさんに渡し、この村におけるトマトの可能性がグッと広がった。


 トマトソースやケチャップは大量のトマトを使うから、本格的な収穫期に入ったら作ってみるわとの事だ。







 その日のランチは新たなトマト料理を振る舞ってみた。

 クラリスも、フランカ考案のトマト包み焼きを恐る恐る口にする。

 固唾を飲んで見守るフランカ。


「……おいしい。」


 クラリスの口元にゆっくりと笑みが広がる。

 それを見たフランカは「やったー!!!」とクラリスに飛びついた。

 その後は「ここはねこういう風にして――」「これはフランカがね――」と自慢げに語り続けた。


「ふふふ、フランカちゃん、良かったわねぇ。」


 キッチンから顔をのぞかせたのはマリアさんだ。


「マリアさんの料理の腕があったからこそだよ。」

「そう言って貰えると嬉しいわぁ。さあさあ、どんどん美味しいものを作らなくちゃねぇ。」



 「まだまだ作っちゃうわよぉ」と袖をまくり直し、マリアさんは笑顔でキッチンに消えていった。


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