78.魔力の形
それからサラを追いかけ、説明すること数分。
ようやく誤解は解けた。
「なるほど!魔力を読み取っていたんですね!」
「そう。全く、変な勘違いしないでくれ。」
「す、すみません。でもあんな場面に遭遇したら……」
気持ちはわからんでもないけどな。
ともあれ、俺はストレートだ。残念ながら男に興味はない。
「丁度良い機会ですし、サラ殿の魔力の形も示していただけませんか?」
シリウスが提案する。
「私ですか?」
「はい、様々な人物の魔力をみてもらったほうが、ケイ様もイメージしやすいと思うのです。」
「確かに。サラ、いいか?」
「あ、はい。村長がそうおっしゃるのであれば……」
少し緊張した面持ちで「失礼します」と俺の手を握るサラ。
細くしなやかな指を絡ませてくる。
や、やわらかい……ってなんで俺まで緊張してんだよ。変なこと考えてないで集中しろ。
魔力を感じるんだ、魔力、魔力――――。
「……どうですか?」
「ん……もうちょっとまってくれ。」
集中したいのは山々だが、緊張のせいかさっきほどうまく行かない。
目を閉じて、サラの手に集中する。何かが流れるような感覚――――――あった。
シリウスとは違う、かすかに温かく、柔らかい霧?湯気?のようなものが伝ってくる。
静かで、繊細。
「あったかくて、やわらかいな。」
「エルフの里に出る朝靄が私の魔力のイメージなんですよ。」
「温かいのは私も意識していませんでした」と語るサラ。
なるほど、砂に霧、魔力と言っても形は様々なんだな。共通のイメージは流れるってことか。
「では、今度はケイ様がサラ殿に魔力を流してみてください。」
「俺が?」
「はい。イメージは何でも良いので、身体中を巡らせ、手先からサラ殿に流し込むように。」
「うーん。」
俺の魔力のイメージか。
なんだろう?流れるもの、川?水?
体内を巡らせる……なんか違うな。
他に、流れるもの……体内をめぐるイメージで……血液とか?
なんか物騒だな。イメージはしやすいけど。
「――あっ……」
「え?来た??」
「はい……熱いものが流れてきます……」
おお。できた。
「いいですね。ではその状態を保ったまま、『石礫』と唱えてみてください。」
「――『石礫』!!」
ビシッ
小さな石のかけらが数個、俺の手のひらから放たれた。
まだしょぼいけど、さっきと比べたら段違いの出来だ。
「お見事です。力の巡らせ方をマスターできれば、弾数や勢いなども自在に調整できますよ。」
「村長、すごいですね。一回目からこんなにうまくいくなんて。」
「いや、でも常に巡らせた状態を保つってのは難しいな。多分、もう一発やろうと思ってもできるかどうか。」
「しばらくは力を巡らせる練習を重点的にやると良いかもしれませんね。」
「ああ、そうするよ。ありがとな。」
「いえ、お役に立てて何よりです。」
「私も、村長のお役に立てたのなら嬉しいです。」
それから俺は一日中、暇があれば魔力を巡らせる練習をした。
シリウスの砂やサラの霧に比べ、血液って言うのがなんとも物騒だが、それが一番イメージしやすかったのでしょうがない。
練習していくうちに段々と自分自身の魔力を感じ取れるようになってきた。
勿論ずっとでは無く、短い間、途切れ途切れに、だが。
だけど、それを魔法として放つってのがいまいちなんだよな…………。
「ケイ様?」
夕食を終え、そんなことをボーッと考えていると、不意に顔を覗き込まれた。
「ん?ああ、アヤナミか。どうした?」
「いえ、今日はなんだかぼんやりとしていらっしゃるので……おつかれですか?」
「いや、それがさ……」
俺の話を聞いたアヤナミは、「でしたら……」と言って俺の手をきゅっと握ってきた。
「は?えぇっ!?」
突然のことに素っ頓狂な声をあげてしまった。
仕方ないだろう、アヤナミのような可愛い子にいきなり手を握られるなんて。
体温が上がるのを悟られないように、深呼吸で気持ちを落ち着ける。
「ど、どうしたんだ?」
「相手がいた方が、ケイ様もやりやすいと思うのです。」
確かに、出来ているのかどうかの判定を他人にしてもらえるとわかりやすい。
昼間、サラにもやって貰ったしな。
「じゃあ、頼むよ。」
「はい、いつでもどうぞ。」
笑顔で俺の両手を握るアヤナミ。
傍から見ればイチャついているように見えなくもない。
……そりゃサラも勘違いするか。
いや、さっきは男相手だったんだけど。
それから数日の間、魔力のめぐらせ方についてはアヤナミが相手をしてくれることになった。
おかげでだいぶ慣れてきたと思う。
困ったことといえば、
「ケイ様……出してください……」
「もっとです……」
「あ……良いです……その調子で……」
アヤナミの返答がなんだかな……。
別に変な事は一切していないのだが、なんだかいけないことをしている気分になる。
一日の終わりに女の子と手を握りあって(魔力を)感じあっているってのも以前の俺からしたらかなり刺激的だ。
目を閉じて、時折きゅっと握られる手がまたなんとも……。
……今なら俺は、もう一歩を踏み出せるのでは?
男になるのか?なってしまうのか?俺!
「かなり上達しましたね。ケイ様、そろそろ実践に移っても大丈夫でしょう。」
………………。
シリウスよ。
このタイミングで声掛けるか?普通。