77.魔法
ガイアス様の加護を得て、変わったこと。
まずノームたちの数が増えた。
大地の加護を得たことで、精霊にとってもこの村は周辺の森の中でもかなり特別な土地になったらしい。
そういうわけで今まで森で暮らしていた何人かのノームたちがここに住みたいと打診してきた。
森で暮らしていたとは言っても、今までに何度も手伝いに来てもらっているし、よく知った間柄なので大歓迎だ。
ノームたちの集合住宅を新たに二棟建設する。集合住宅とはいえ人間たちと比べたらサイズも小さいし、簡単な作りなのですぐにできるそうだ。
新メンバーはトウリョウに頼んで各帽子隊に振り分けてもらい、それぞれ仕事をしてもらう。
家屋作り担当の赤帽子、青帽子、黄帽子隊、そして資材加工の橙帽子隊に入ったそうな。
新しく帽子も作ってやらないとな。
神殿の塔が増えた。
これは言うまでもなく、シリウスの塔だ。
シリウスは魔力のコントロールに長けていたため本当なら塔を建てる必要はなかったのだが、水龍の塔があるのに地龍の塔がないってのもあれだしな。
シンボル的な存在にもなるし、休憩室として使ってくれ。
というか、同じ龍でも魔力操作の熟練度にはかなり差があるんだな。
なんとなく同じ龍種なら同じレベルだと思いこんでいた。
ドワーフやエルフがやる気になった。
これは別に以前が怠けていたとかではないが、やはり自分たちの種族の祖であるガイアス様に会ったことにより、かなり刺激を受けたらしい。
ヴェンデリンは早速ガイアス様の姿を象った見事な石像を作り上げ、神殿の広間に祀った。
背が高く、知的で堂々とした佇まいがよく表れている。毎日、エルフやドワーフ、ノームたちがことさら熱心に祈りを捧げているよ。
以前にもまして神殿は人が来るようになり、アヤナミも気合を入れて掃除をしてくれている。
そして変わったと言うか、気付いたこと。
俺は魔法が使えたらしい。
なぜ今まで使わなかったのか。答えは簡単、自分は魔法が使えるということを知らなかったからだ。
「ケイ様は水、土の龍の主です。主とは支配者。つまり水と土の力を使うことができるのですよ。」
「へぇ。そんなもんなのか。」
「勿論、魔法を使うにはもともとの資質や熟練の度合いも大いに関係しますので、今すぐに全ての魔法を自由に……というわけには行きません。しかし、魔法を使うための魔力においては、ケイ様に限っては気にする必要はありません。ケイ様が魔法を使うときは、我々龍の体内の魔力を借りて魔法が発動されます。そのため我々二人が死なない限りはケイ様の魔力は無限と言えるでしょう。」
「俺が勝手に二人の魔力を借りても二人は大丈夫なのか?」
「我々は龍ですから。そもそもの魔力量が違います。ですからお気になさる必要はありませんよ。」
そんなもんなのか。まあ、たしかにアヤナミも、魔石が勝手にできるほどの魔力を垂れ流していてもケロリとしていたしな。
人間のそれとは次元が違うということなのだろう。
……そんな別次元の存在から無限に魔力をもらえるというのも怖い気がするが。
「だとしたら、使ってみたいな。」
「でしたら、土魔法を使ってみましょう。手をかざして、『石礫』と唱えてみてください。」
言われたとおり、手を前にかざして唱えてみる。
初めての魔法……心臓がドキドキしてきた。覚悟を決め、いざ。
「『石礫』!!」
……ぽろっ。
「……」
米粒大の石ころが一粒、地面に落ちた。
「……お見事です。」
「いや絶対思ってないだろ!気を使われて逆に傷つくわ!!ってか、地味っ!」
もっとこうさ、手のひらから無数の石の礫が放たれるイメージだったんだけど。
石ころ一粒落として、何がしたいんだよ。
「初めてにもかかわらず魔法が発動するのはお見事ですよ。さすがは我が主です。では、今度は『天地返し』と唱えてみてください。」
「そんなもんかぁ?てか、普通に『耕せ』とかじゃないんだな。」
『天地返し』って畑を耕すあれだろ?畑を作り始めたばっかりの頃にロベルトさんに教えてもらったことがある。
名前だけ聞くとかっこいいよな。
まあ、魔法なんだからこういうかっこいい要素も必要だよな。それに畑を耕す魔法はライアが使っているのをみたことがあるし、使えるようになったら何かと便利だと思う。
今度は手のひらを下に、心を落ち着けて唱える。
「よしっ、『天地返し』!!」
……ぽこっ。
「……」
モグラの穴、いや、アリの巣穴の入り口くらいの大きさで土が盛り上がった。
うん、なんとなくわかってたよ、こうなるってことは。
「相性は悪くないはずなのですが……では水魔法はどうでしょう?『水球』と唱えてみてください。」
「……『水球』!!」
……じわっ。
「…………」
手のひらの湿度があがった……気がする。
手汗をかいたときみたいな。
うん。地味。
「……俺、ひょっとして才能ない?」
「うーん。魔力は十分なはずなのですが、何しろ私も人間に魔法の指導をしたことがないもので……あ。」
「どうした?」
「もしかすると、力の巡らせ方が良くないのかもしれません。」
「巡らせ方?」
「はい、魔法を使う際には、魔力を体内に巡らせる必要があります。精霊や龍族は常に魔力を巡らせているため失念しておりました。」
「失礼致します。」といって、俺の手を取るシリウス。
そのままスルリと指を絡ませ、いわゆる『恋人繋ぎ』の状態になった。
他人とこんなつなぎ方をしたのは初めてなので思わずドキリとする。
落ち着け俺、相手は男だ。ものすごく整った顔立ちではあるが、男だ。
「私の手に意識を集中して、感じてみてください。」
きゅ、と軽く握られた手に意識を集中させる。
というか、嫌でも意識してしまう。くそう、なんで初めての相手が男なんだ。いや、シリウスは真面目にやってるんだから、集中集中…………。
「…………」
しばらく意識を集中していると、かすかに何かが流れ込んでいるような感じがした。
温かくも冷たくもない。液体でも気体でもない。これはなんだ?
もう少し意識を集中させる。その『何か』は握られた手を伝い、俺の手の甲、手首、腕と徐々に上がってきている。不快感はない。
…………サラサラ……?
なんて表現したらいいのかわからないが、イメージとしては砂時計みたいな感じだ。いや、少し違うか?
そうだ、以前塩作りに海へ出たときの砂浜。あのサラサラした砂に触れたときの感触に少し似ている。
「わかりますか?」
「なんか砂みたいなのが流れてる感じがするな。」
「それが魔力です。その人物の特性によって質感や形は多少変化します。」
「へぇ、おもしろいな。」
「ケイ様が力を巡らせるときには、ご自身のやりやすいイメージで結構ですよ。」
「村長。こちらにいらしたんですね……って、あ……」
声がしたほうを振り返るとサラが立っていた。
その視線は俺とシリウスのしっかりと繋ぎあった手に注がれている。
「し、失礼いたしました!どうぞ、ごゆっくり……!」
サラは慌てて頭を下げ、逃げるようにその場を去った。
「いや、ちょ、違うからなぁぁぁぁああ!!!」