71.城壁
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神殿を後にし、俺は館の会議室へ。
すでに他の面々は揃っていた。
「悪い。遅くなった。村の被害状況は?」
「はい。入り口の柵が倒され、堀が踏み荒らされた以外は特に被害はありませんでした。」
「侵入者も入り口の者たちのみで、他にはいないようです。」
「人数も装備も最低限でしたし、単に様子見のつもりだったのでしょう。」
鬼人たちから次々と報告が上がる。
どうやら大した被害はなさそうだ。それもこれもアクエラ様のおかげだな。
「逃した奴らはいかが致しましょう?また反撃に来ることも考えられます。」
「いや、それはない。奴らは全員死んだらしい。」
「死んだ!?」
「森に火を着けたんだ。それでアクエラ様の怒りに触れた。火はアヤナミが消し止めたから心配はいらない。ここの存在が知られることもないだろう。」
とはいえ、あそこの領民とラジスラフの後任はこれから大変な目に合うんだろう。
本人たちは何も知らないのにな。アホな領主を持つと苦労する。
まあ、よその心配をしていられるほど俺たちの村に余裕があるわけじゃない。俺は俺の仕事、この村を守ることを第一に考えなければならないのだから。
「しかし、今後もこういったことは充分に考えられますね……。」
ガルクがつぶやく。
確かにそうだ。ここは人間がほとんど寄り付かない土地ということだったが、来ようと思えば来れないことはないというのが立証されてしまった。しかもここから一番近いノーラッド王国以外から。
これは無視できない問題である。
「ちなみに、奴らが言っていた『コンラッドレ王国』というのはどういうところなんだ?」
本人たちにも言ったが、異世界人である俺はコンラッドレ王国なんて言われても全くピンとこない。
そんな俺の質問に、ロベルトさんが答えてくれた。
「コンラッドレ王国はノーラッド王国と隣接する小国の一つじゃ。ノーラッド王国と同じ山沿いに位置するが、決して豊かとは言えん国じゃな。王の力も弱く、場所によっては各諸侯等の方が力があるとまで言われておる。噂によってはもう長く無い国とかなんとか。」
なるほど。だから子爵程度があんなでかい顔でやってきて、勝手に領地を広げるなんて言い出したのか。
国家自体も破綻寸前で、なりふりかまってられないと言ったところか。
「ノーラッド王国の近くとはいえ、人がやって来れると証明された以上、人間の侵入者を想定したほうが良さそうですね。」
サラの意見に俺も同意だ。
やはり人間の侵入者を想定した作りにしないとダメだな。
これまで野生動物の侵入くらいしか想定していなかったため、村の周りも堀と柵で囲うくらいだ。
しかも堀も柵もそんなに高くない。柵や堀で動物たちが諦めれば良し、たとえ諦めなくとも時間を稼げれば鬼人に狩られて終わり。
そんな甘い考えでいたのだ。
しかし、今日のことで痛感した。人間が殆どこないと言っても、絶対ではない。
侵入者もあれば侵略者もいる。もしかしたら次に来るのは軍勢を率いた奴らかもしれない。
その時に再びアクエラ様がタイミングよく現れてくれるとは限らない。
「……城壁を造るか。」
「……そうした方が良いじゃろうな。」
「大変ですが、安全には替えられません。」
話し合いの末、石造りの城壁を造ることになった。
ルミエール村や鬼人の里では木の柵だったらしいが、丈夫なことに越したことはない。
それに神殿や俺の館の工事で石造りの技術は浸透しているし、記憶が新しい分ノームたちも作りやすいだろう。
まずは俺の館と神殿の周りから作り始めることになった。
その二箇所はいざというときの避難所の役割もあるからな。早めに守りを固めておきたい。
俺の館と神殿を囲む壁、これを内壁とし、その外側にもう一つ外壁を造る。
外壁は村全体を囲む形で、俺の都市計画案に合わせて正方形に。ここまで来たら「村」ではなく「町」といってもいいんじゃないだろうか。
城壁の指揮はトウリョウに。
トウリョウは「まかせろ。」と言うように大きくうなずく。相変わらずのいぶし銀だ。
内壁の周りには堀も造る。
今までのようなただの深めの穴ではなく、中に水を引き込んだ形だ。
水路としても活用できるかな。
これは力仕事なので鬼人が中心となってくれる。指揮官はエルドにお願いした。
こうして、数年に及ぶ大計画は動き出したのだった。