67.忙しさと利便性があがってきた
春も終わりかという今日この頃。俺達の村は忙しく過ごしていた。
飼っていた牛と羊が一斉に出産に入ったからだ。
春にお腹が大きくなったのは知っていたが、まさか同じタイミングで出産に入るとは思わなかった。
ロベルトさんを始め、鬼人やエルフがバタバタと行き交う。
おかげで子牛が一頭と子羊が三頭、みんな無事に誕生した。いや良かった良かった。
生まれたばかりの子牛や子羊はとても可愛い。
子牛はつぶらな瞳で母牛のお乳を飲んでいるし、子羊は人懐っこく、メェメェ言いながらトコトコ追いかけてくる。
みんなメロメロで競い合うように世話をした。
ココトリも卵が孵ったり新たに連れてきたりで十羽になった。
家畜エリアもにぎやかになってきたな。
牛たちの出産だけではない。
種まきした野菜たちが収穫時期を迎えたり、新しい家屋や施設ができたりもした。
ドワーフたちが神殿や屋敷を作っていた頃、エルフたちはそれぞれの研究を進め、早いところではそれなりの成果を出している。
薬学研究班は各種ポーションや毒消しなどを調合し、ある程度保管できる量まで生態体制を確立した。
この世界の薬草は『ヒールフラワー』や『解毒草』といった俺の知らないものもあれば、ラベンダーやローズマリーといった知っているものもある。
『薬草』とはハーブ類のことも含めた総称らしい。
さらに研究班によって精油やハーブウォーターの抽出も行われた。ラベンダーやローズマリーのハーブウォーターはリラックス効果もあるし、確か姉貴が化粧品云々って言ってた気もするな。
本格的にやってみてもいいかもしれない。
後は植物や鉱物から特定の成分を取り出したり、その成分の効能を調べたりしている。
詳しいことは説明を聞いてもよくわからなかったが、すごいということだけはわかる。
魔導人形研究チームはゴーレムを完成させた。
ちなみに今作っているのは『刈り取り式収穫用魔導人形三号』らしい。要は小麦やイネなんかを刈り取るゴーレムだな。
アヤナミによって魔石の問題が解決したことで試作品づくりがどんどん進んでいるらしい。
ちなみに『もぎ取り式』や『引き抜き式』もある。
春の収穫の一部をこのゴーレムたちにやらせてみたところ、やや時間はかかったが一応は収穫できた。
あとは収穫残しをなくしたり、作業スピードを上げたり、動力の軽減化等の改善に取り組むらしい。
なにはともあれ、全て人間の手でやっていたものが機械化できるのは良いことだ。
おかげで春の収穫は全員総出の必要がなくなった。
大イベントがなくなったといえば寂しく感じるが、産業の発展と機械化は切っても切れない関係だ。素直に喜びたい。
また、機械研究班と俺の『賢者の書』の知識により、風力による製粉施設もできた。
風力はシルフたちがいるので、彼らに風車の周りにいてもらうだけでよい。
何ならシルフたちが寝ている間に製粉ができてしまうのだ。
シルキィに関しては、期待が外れた。
子どもを生んでもらえるか打診しようとしたところ、「この子はオスですね。」と言われた。
シルキィ、お前オスだったのか。なんとなくメスだと思いこんでいたよ。
ということで、シルキィによる繁殖計画は断念。そのうち新しいシルクスパイダーを手に入れよう。
とはいえ、シルキィは優秀だ。相変わらず大量に食ってはシルクの布を織り上げている。
俺たちが廃棄する動物の内臓なんかも喜んで食べてくれるからありがたい。
もはや村に欠かせない存在である。
しかし、糸や布を作らせた割に全く使おうとしない俺たちを見て業を煮やしたのか、「なんか使えやオラァ……!」と圧がすごい。
仕方なく、俺の村長用の服を作った。主に対外向けだな。
こんな辺境の村の長がシルクの服を着ているのはどうなんだと思ったが、別に無駄遣いというわけでもないし、まあいいか。
さすがに貴族用のガウンとかは遠慮した。というか、この時代の貴族のデザインがわからないから無理。
シャツとパンツにベストくらいのカジュアルフォーマルで仕立ててもらったよ。
デザインは毎度おなじみ姉貴監修だが、村のみんなにも好評だったので良かった。
まあ何にせよ、エルフ様々である。彼らの研究のおかげで、俺たちの仕事が少しずつ楽になった。
やっぱりエルフたちを引き入れたことは正解だな。
ちなみに真夜中までに寝るようになったことでエルフたち全体が来たときよりも健康的になり、仕事の能率が上がったそうだ。
睡眠は大事、これが証明されたな。
「村長はこれを見越して我々に……!?」と感激されたけど、残念ながらそうじゃない。君たちが死にそうだったからだよ。
ま、そこらへんは都合よく解釈をしてもらうとしよう。
これからもより良い村づくりのために頑張ってほしい。
服作りも順調だ。
というのも、フランカを始めとする女の子チームが糸の紡ぎ方をマスターしたので、テレサが機織りや服作りに集中できるようになったからだ。
子どもたちが糸を紡ぎ、テレサを筆頭に鬼人の女性陣が機織りから仕立てまで。
今ではシンプルなシャツくらいなら十日に一着ほどのペースでできているらしい。
とはいえ、服飾は人手も少ないしまだまだ時間がかかる。
ミシンでもあればな。確か昔は電気を使わない足踏み式ミシンとかいうのがあったはずだ。
今度地球に戻ったら調べてみよう。設計図なんかがあればいいけど。最悪現物を一台持ち込むか。
…………所持金が足りるかが心配だ。