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64.ドワーフの里

 あっという間にドワーフの里に到着した。

 想像では木や石でできた家に住んでるはずだったんだが、なんと彼らの里は地下にあった。

 石を加工してできた門を抜けると、地下へ続く階段があり、そこを降りれば里に着く。

 地下なのにほんのりと明るいのは、『ヒカリゴケ』という発光する苔や発光する鉱石なんかを壁に塗り込んでいるかららしい。

 カンッ、カンッ、と鉄を打つ音が響き、あちらこちらで炉の光が揺らめいている。

 換気は大丈夫なのかと思ったが、無数の穴が空いているから大丈夫とのことだった。


 ドワーフの里の長に会う。

 筋骨隆々で白ひげがもじゃもじゃの爺さんだ。爺さんと言ってもディミトリオス様とはぜんぜん違う。荒々しくてthe・親方といった、違った意味で迫力のある佇まいだ。

 突然来た俺たちに驚く様子もなく、話し始める。

 よく通る渋い低音ボイスだ。


「……ジークベルトか。久しぶりだな。穴蔵でふてくされていたときよりも元気そうではないか。」

「おかげさまでな。おかしな派閥も無いし、なかなか快適じゃ。」

「フン。隣りにいるのが最近酒や食べ物で儂らを釣り上げたという人間か。」

「あ、はい。村長のケイといいます。あなたがドワーフの王ですか?」

「儂らは王を持たない。一応長という立場ではあるがな。故に敬語も不要だ。ここのドワーフたちもそれは同じ。儂のやり方が気に入らなければ食って掛かるも自由、納得できぬならその座を奪うも自由、それで滅びるならそこまで。誰かに従属し、庇護してもらおうとは思わんよ。」


 ほー。ドワーフのことはよく知らなかったけれど、彼らは彼らなりに気高く生きているんだな。

 まさに我が道を貫く職人って感じだ。


「そして……後ろにいらっしゃるのは水龍様ではないか。なぜこのような場所においでに?」


 さすがはドワーフの長。一瞬でアヤナミを龍だと見抜いた。

 そして今までにない丁寧な口調。

 やっぱりドワーフにとっても龍って言うのは雲の上の存在なんだな。


「私はケイ様の護衛です。」

「水龍様が人間の護衛をするとは。我らを懐柔する手腕といい、見かけによらず特別な人間と見える。」


 低く響く声で笑い、値踏みをするように俺を見る長。

 別に俺が特別なわけではないと思うんだけどな。


「して、今日は何の用だ?」

「実はうちの村で働いてもらう職人を募集しててさ。希望者があれば面接のお知らせを____」


 俺は手短に説明をする。

 長は黙って聞いていたが、「フン、まあ、いい機会だろう。」と言うと、


「ちゅうもおぉぉぉおおおく!!!!!!!!!!!!」


 地下に響き渡る大声でみんなに呼びかけた。心なしか地下の壁がビリビリと揺れたような気がする。

 う、うるさ……!どっから出してんだよその声。

 耳がキーンとなり、頭の中でぐわんぐわんと何かが響いている。

 思わずジークを見ると、ちゃっかり耳を塞いでいた。

 おい〜、こうなること分かってたなら教えろよ!

 この薄情者め。

 てか、大声のせいで崩落とかしないよな?


「例の村から伝令だ!この度職人を募集する!内容は屋敷と神殿の建築!選考の期日は五日後!腕に覚えのあるやつは行って来るがいい!!!以上!仕事にもどれぇぇええ!!!!!」


 ビリビリと響く声で俺が言った内容を告げる。

 ってか、連絡ってこんな感じなの!?なんつー原始的な…………。


 一瞬の間の後、それぞれ仕事に戻るドワーフ達。金属音や話し声など、賑やかさが戻ってくる。

 と、とにかく用事は済んだってことでいいんだよな?

 ジークを見ると黙って肩をすくめた。


「客人よ。他の種族であれば客をもてなし宴会でもするのだろうが、生憎我々にそんな習慣はない。そもそもこんな場所にわざわざ来るような奇特者も少ないからな。まあ、せっかく来たのだから自由に見て回ると良い。こんな暑苦しい場所に興味があれば、の話だがな。」

「いや、気にしないでくれ。せっかくだから少しだけ見せてもらうよ。実はこういう職人技って結構好きなんでね。」


 俺はジークの案内のもとドワーフの里を見て回った。

 鍛冶場はもちろん、いろいろな種類の工房がある。

 金属や宝石、粘土に石、後はよくわからない物質。

 いろいろなものがあり、職人たちによって溶かされ、曲げられ、延ばされ、磨かれ、形作られていく。

 俺たちには目もくれずに炉に向き合うもの、鉄を叩き続けるもの、炉の熱気と職人たちの熱気で息が苦しい。

 所々に出来上がった武器や防具、日用品、宝飾品が並べられている。

 それはまさに芸術と呼ぶにふさわしい物たちだった。


「すごいな……。」

「ふん!こんなのはまだまだ序の口、わしからしたら素人に毛が生えた程度よ。」

「……ジーク師匠?ジーク師匠ではないか!?ここ数十年姿を見なかったというのに、急にこんな所まで来てどうしたんだ!?」


 俺たち、というかジークの声を聞いて、駆け寄ってくるまだ若そうなドワーフ。

 話の流れからするとジークの弟子か?というか、数十年姿を見てないってことはこのドワーフも結構な年だな。

 どうやらジークが引退する前の弟子の一人で、金属加工を専門にしているとのことだった。


「最近は派閥の奴らがやれ酒だ食い物だと躍起になっていたが、まさかジーク師匠が噛んでいたとはな。」

「ふん!わしは関係なかろうが。あやつらはいつもそうじゃったわい。」

「まあ確かに。だが、以前より人間に売る数が増えてな。人間たちからの注文も増えてきとる。少しではあるがこっちにもおこぼれが回ってくるのはありがたいこった。ま、ドワーフ製というだけで粗悪なクズ鉄にすら金を出す見る目のない輩だ。あまり相手にする気にはなれんがな。」

「ただのカモ相手に金をまき上げるのもよいが、自分の腕を存分に披露する場があるというのも悪くないぞ。

 まあ、そういうわしも気づいたのは最近じゃがな。」

「ほー。あの尖りきっていたジーク師匠が変わったものだな。

 ……いや、変わってないか。俺はアンタのそういうものづくりに対する情熱に惹かれて弟子入りしたんだからな。」

「……ふん。」


 ジークは「もう行くぞい。」と言って早足に行ってしまったが、少し顔が赤いような気がする。炉の光のせいか?とにかく置いていかれてはたまらないので、弟子には「ペコリ」と会釈をし、ジークの後を急いで追いかける。


「そんな置いてくなよ。ただでさえわかりにくい道なのに。」

「ぼーっとしとるのが悪いんじゃ。しっかりついてこんか。」


 明かりがあるとはいえ薄暗い地下の洞窟だ。しかもかなり入り組んでいる。住み慣れたジークはどうってことない道でも、俺にとっては迷路みたいなもんなのだ。

 まあ、俺たちもあんまり長居するわけにも行かないし、長に挨拶をして帰るとしますか。

 そういうとジークは黙って長のもとへと歩き出した。




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