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62.忘れてた

 村長の館が無事に完成したものの、ここで問題発生。


 アヤナミの生活についてだ。

 専属メイドなんだから当然住み込みになる。

 しかし、アヤナミが来た時にはまだ住める状態ではなかったため、他の家をあてがった。

 そして魔力を開放する場所を作るため、神殿のそばにアヤナミ専用の塔を建てた。

 その結果、専属メイドがまさかの通いになってしまったのだ。


 いや、まあ、これはしょうがないと言うか。

 誰が悪いとかでもないもんな。

 タイミングが悪かっただけだ。

 決して俺が館の存在を忘れていたせいではない。うん。



 でも、どうしよう。

 通いでも悪いことはないのだが、アヤナミは一日中俺の世話をする気だ。

 それこそおはようからおやすみまで。当然朝早くから夜遅くになる。

 いくら近いとはいえ、通いは大変かもしれない。

 何より、夜遅くに女の子を一人で帰すのははばかられる。


「あの、せっかく作っていただいて大変申し訳無いのですが、やっぱりお仕事のことを考えると同じお屋敷で暮らしたいです……。」


 アヤナミが申し訳無さそうに小さな声で言う。

 やっぱりそうなるよな。


「でも、ずっと魔力を抑えるのは辛いだろ?」

「はい。でも、別に塔で寝る必要は無いといいますか……。」


 アヤナミによると、魔力を開放できる場所があれば、一晩過ごすのではなく短時間でも充分らしい。

 だから普段は館の使用人部屋で寝泊まりをして、やばくなったら塔に行くというわけだ。


「俺としてはやばくなる前に行って欲しいところだけど、それで本当に大丈夫なのか?」

「はい、私はそれで大丈夫です。でもせっかくみなさんが作ってくださったのに、無駄にしてしまうみたいで申し訳ありません。」

「そこは気にしなくていい。短時間だろうが長時間だろうが、アヤナミが魔力を開放して楽になれる場所を作るのが目的だったしな。」

「ありがとうございます。ではこれからはそのようにいたします。神殿が完成しましたら、神殿の掃除のついでにササッと寄るようにしますね。」

「いや、ササッとじゃなくてもいいよ。せっかくの休憩室なんだから、のんびり過ごしてくれ。」

「ふふっ。ありがとうございます。」


 流石にササッと寄るだけの休憩室だけだとアレなので、魔石の保管庫としても活用してもらうようにした。

 アヤナミのおかげでタダで手に入るとはいえ、本来であれば高価なものだし、そのへんに放置しておくよりは良いだろう。

 龍の結界に守られた部屋なんて、世界で一番安全な保管場所じゃないか?

 他にも大事なものがあったら置かせてもらうことにしよう。





 こうして、屋敷での俺とアヤナミの二人暮らしが始まった。

 そして俺は、アヤナミの有能さを目の当たりにすることになる。


 まず、朝起きて着替えをすると、ちょうど良いタイミングでアヤナミが「朝食の用意ができました。」とやってくる。

 一階の大食堂ではなく、二階の食堂で食べるのだが、一人でどうやって用意したんだというくらいのメニューが並べられている。

 品数も多く、盛り付けもきれい。味も文句なしだ。

 中には俺が地球から伝えたばかりのメニューもあるというのに、一度食べたり教えられたりしたものは再現してしまう。

「すごいな。」と感心していると、「龍ですから。」と笑顔で返ってきた。

 すごいな、龍。さすが大精霊の世話係だ。

 一つ気になることといえば、俺が食べている間、アヤナミはずっと後ろに立っていることだ。もしくは皿を持ってきたりお茶を淹れたりといった給仕をしている。

 一緒に食べようと誘っても、「メイドが主と食事をともにするなんて。」と断られてしまった。

 俺にはよくわからないが、大精霊の世話役として色々とルールが有るのだろう。

 あんまり無理強いしても可哀想だし、修行の邪魔になると悪いので諦めた。

 じゃあいつ食べるのかと聞くと、俺の部屋に来る前にすでに済ましているとのこと。

 なんだか申し訳ないが、「それがメイドというものです。」と言われてしまったのでしょうがない。


 食事が終わると俺は歯を磨き、村の方に出る。

 アヤナミは俺が歯を磨いている間にテーブルを片付け、食器を洗い、鞄や上着など俺の出かける準備まで終わらせている。

 歯磨きって、せいぜい十分かそこらなんだけど……。

 一体どうやっているのかと聞いても、「龍ですから。」と笑顔で押し切られてしまった。

 まあ、魔法でどうとでもなるんだろう。

 なにせ魔王を防ぐようなレベルの結界を一人で簡単に張ってしまうような子だ。





 村では、俺は畑の様子を見たり、建築の様子を見たり、色々と歩き回っている。

 村長の仕事は全体を把握することとロベルトさんに教えられたので、できるだけ色々見て回り、各部署の代表者と話をする。

 まだまだ村は発展途上のため、やれあそこの建築作業がどうの、やれ畑の野菜がどうの、やれ新しい素材がどうのと毎日忙しい。

 俺は必要に応じて指示を出したり、他の部署の代表者に知らせたり、場合によっては地球から取り寄せたりするのが主な仕事だ。

 ちなみにサラが他の部門との架け橋になってくれるので、いちいち伝書鳩みたいなことをしなくていいのがありがたい。

 仕事中はアヤナミの代わりにサラが俺について回り、秘書として色々と調整を図ってくれる。

 アヤナミはその間に館の掃除や洗濯をしているらしい。




 昼食の時間、この時間はいろいろな人の報告を聞くことが多いため、大食堂の方で摂ることにした。

 昼食時間という名の報告時間が終わったら会議。昼食までに挙がった問題点や前日の話の続きだ。

 関係各所にはサラが調整を図ってくれており、館の会議室で話し合う。

 村民会議のような代表全員参加のものは少なく、建築班や研究班といった小さな会議が多い。

 必要に応じて現場を見に行ったりもする。

 アヤナミは話の邪魔にならないちょうどよいタイミングでお茶を持ってきたり、館内の掃除や洗濯をしながら周辺に異変がないかを監視しているらしい。

 館の規模的に一人じゃ絶対に無理だろうと思うのだが、普通にこなしている。

 龍ですから?ああ、そうですか。




 夜、仕事が終わると夕食の時間。

 村の各家にキッチンは作ってあるのだが、当然得意不得意のばらつきが大きいため、マリアさんが食堂でたくさん作っている。

 アヤナミを応援に向かわせ、ついでに俺も食堂で夕食。

 ここはみんなとの団らんの場となっていてにぎやかで楽しい。

 人数によってはちょっと手狭だけどね。

 村にあと数人料理人が欲しいところだよなぁ。




 夕食の片付けまで終わったらそれぞれの家に解散。俺とアヤナミも館へ戻る。

 アヤナミがいつの間にか沸かしてくれた風呂に入り、就寝。

 ちなみにオンディーヌと同じ疲労回復効果のある湯だ。水龍もオンディーヌも同じ系統だもんな。

 というか、序列の上ではアクエラ様>水龍>オンディーヌらしいので、オンディーヌにできることは当然アヤナミもできるということだろう。

 館が常にきれいなのも浄化の魔法を使っているのかもしれない。



 部屋に戻ると明日の分の着替えが用意されている。


「今日も一日、お疲れさまでした。」


 アヤナミが笑顔でねぎらってくれる。


「ああ、アヤナミもお疲れ様。いろいろとやってくれて助かるよ。」

「もったいないお言葉です。それでは、おやすみなさいませ。」

「ああ、おやすみ。また明日もよろしくな。」


 こうして一日が終わる。

 え?夜伽?そんなものはないよ?


 いや、別にアヤナミが好みじゃないとか、俺がアッチ系なわけじゃない。

 ただ一日中働きっぱなしの彼女をベッドに誘う勇気はなかった。

 それにエルフたちのお誘いを断った手前、なんとなく俺から誘いにくいものがある。

 それにほら、相手は龍だし、アクエラ様やレヴィアタンに知られたら恐ろしいし。


 ………………ここで男になれないところが、恋愛経験者と俺の違いなんだろうなぁ。


 のそのそとベッドに入り、目を閉じる。

 はぁ、明日も頑張ろう。




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