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61.領主の館

 新しい俺の家が完成した。

 完成と言っても、形ができて一応住める状態になっただけで、細かい工事や細工はこれからも続くらしいが。

 丘の上にどーんと構える姿は、家というより屋敷だ。というか、城?

 まあ、来客用の迎賓館も兼ねているのでこれくらいでいいのだろう。

 うん、これくらいでいいんだ、と自分に言い聞かせる。


 トウリョウに案内され、屋敷の中を見て回る。装飾に関わったらしいドワーフたちも点検がてら同行。

 見上げるほど大きな両開きのドア。

 入ってすぐのホールは吹き抜けで、魔法だろうか、シャンデリアのようなものが宙に浮いている。

 来客用のもてなしの場も兼ねているらしく、ホールの左側には応接間のような空間がある。細やかな彫刻の彫られたマントルピースやテーブル、椅子など、これでもかと見栄を張った作りだ。

 ところどころやりかけのような箇所があるので、これから更に意匠を施していくのだろう。

 左奥には会議室。大中小様々な会議室がある。村民会議などはここでやることになる。


 ホールの右側は大食堂だ。

 長テーブルと椅子が立ち並び、奥には厨房もある。厨房は地下にもつながっているらしい。

 これ、何人が厨房で働く想定なんだろう?



 ホールの中央階段を上がり、左側にはこれまた広い空間。

 どうやらギャラリーらしいが、今の所何も飾られていないのでガランとしている。

 隣にはたくさんの棚のある部屋。これは図書室や遊戯室になる予定らしい。

 というか、なんでそんな部屋の存在を知っているんだ?

 そう尋ねると、ヴェンデリンがフフンと鼻で笑う。


「なぜじゃとは呆れた質問じゃな。その昔、ヴァメルガ帝国の侯爵邸の数ある彫刻を施したのはこのワシじゃ!部屋の造りを知っとるのは当然じゃろう!」


 めちゃめちゃドヤ顔だ。ていうか、帝国の侯爵邸を任されるなんて、こう見えてすごかったんだな。

 まてよ、てことは、ここって帝国の侯爵邸をモデルにしてんの!?

 国どころか森の中のただの村なんですけど。


 左奥には来客用の寝室が並んでいる。ミニ応接室のような部屋もあり、まあ寝る前に談笑でもするんだろう。

 誰が使うのかはしらんけど。


 二階の右側が主に俺の居場所だ。

 執務室に私室、さっきのよりは小さめの食堂。どうやら普段の食事や家族のみでの食事はここで食べるらしい。

 家族いないんですけど、俺。未来の村長のためにってことか?

 同じく家族のための個室に風呂やトイレ。倉庫や資料を置くための部屋。


 三階の屋根裏が使用人たちの部屋らしい。屋根裏と言ってもかなり広い。

 俺も屋根裏で充分なんじゃないかな?

 そういうと「村長ともあろうもんが何を言うとるか!」と怒られた。


 地下には洗濯室や食料や掃除道具などの各種倉庫、使用人の部屋がある。

 何でも上級使用人は屋根裏で、下級使用人は地下が普通らしい。

 そういうのあんまり好きじゃないんだけどな。

 屋根裏も十分広いし、地下の使用人部屋はなにか違う用途で使おう。


「ふむ、細かいところはこれから仕上げていくとして、大本はこんなもんじゃろう。」

「ああ、後は素材が揃えば彫刻でも調度品でも金銀細工でも、いくらでも作れるわい。」

「まあ、最低限の家具はできとるわけだし、来客の間から取り組もうかの。家主の分は後でもいいじゃろう。」


 一通り案内を終えてホールに戻ると、ドワーフたちが早速思ったことを言い合う。

 ていうか、家主は後でって、なんか大事にされてんのかされてないのかわからんな。

 どうやらこの先一番最初に来るであろうドワーフの商隊に一泡吹かせたいらしい。

 移住先にこんなに素晴らしい屋敷が建っていると自慢したいんだろう。


 とりあえず、俺は今日からここで寝ることになった。

 今日は屋敷の完成を祝して大食堂での食事会だ。

 というのは建前で、広い食堂に一人で飯を食うのが寂しかっただけだ。

 厨房には水道が完備されている。というか、この屋敷全体に上下水道が完備されている。

 屋敷を建てるにあたって、本格的な上下水道の設置に取り組んだ成果だ。

 厨房で料理を作るアヤナミを手伝ってくれているマリアたち女性陣は、蛇口をひねれば水が出ることに感動していた。

 この屋敷で上下水道がうまくいくようなら、村の建物にも順番に取り付けていきたいな。


 大変な工事になりそうだけど、この屋敷に入って自分たちの生活水準の向上に目覚めたのか、ノームやドワーフだけでなくみんなやる気がみなぎっている。

 まあ、できるところから少しずつやっていこう。


 夜になり、村のみんなは自分たちの家に戻っていく。アヤナミも塔に戻って行った。

 一人になった屋敷はガランとしていて寂しい。

 みんなの住宅からは少し離れた丘の上にあるので、窓からはポツポツと明かりが見える。

 おそらくみんなの家の明かりだろう。

 離れたところにある明かりが余計に寂しさを掻き立てる。


 うーん、このまま寝るのもなんだかなぁ。

 そう思い、もう一度屋敷を見て回ることにした。

 ノームやドワーフたちのすばらしい技術を見ているのは好きだ。この屋敷はまさに彼らの技術の結晶である。

 それに、家主なんだから家のことを隅々まで知っておかないとね。

 俺は明かりを手に屋敷内を歩き出した。





 明かりを手に、一人屋敷内を歩き回る。何しろ広いので、何度も迷っては戻りを繰り返してしまった。

 そして歩き回って気づいたことがある。

 確かに広いんだけど、なんか外から見た感じはもっと大きかったような気がするのだ。


 壁を厚くしてあるのかな?

 そう思ったが、見つけてしまった。


 屋敷内にある無数の隠し扉に隠し通路、そして隠し部屋の数々。

 俺の執務室はもちろん、私室にも隠し扉があり、通路を通っていけば裏口や地下に繋がるものまであった。


 一体何を想定してあるのだろうか。

 この世界ではこれが普通なのか?


 というか、作るのは良いとしても、先に教えておいて欲しい。

 夜、一人でこの通路を見つけた時の俺の気持ちと言ったら。

 我ながらよく一人で入ったなと自分の勇気を称えたい。


 そして極めつけは、地下牢だ。

 なんだよ!なんで地下牢なんて作ったんだよ!!

 そしてなんで秘密にしてるんだよ!!!

 ひんやりとした石の床に鉄格子、壁に埋め込まれた鎖。

 これを見た時は思わず「ひえっ」と声が出てしまった。

 こればっかりは俺のせいではない。

 誰だって悲鳴をあげるだろう。


 もはやこれ以上見回る気力も無くなっていた。

 足早にベッドに戻り、布団を被って目を瞑る。


 領主の館とは、俺が思っていた以上に恐ろしい場所だった。

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