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58.専属メイド

「では妾は帰る。その後レヴィアタンが娘を連れて行くだろう。くれぐれも我が眷属たちを頼むぞ。」


 そう言ってアクエラ様は龍に変身したレヴィアタンさんの背に乗った。

 レヴィアタンさんはふわりと浮き上がったかと思うと、あっという間に空の彼方に飛んでいった。

 あれ、乗っているアクエラ様は振り落とされたりしないんだろうか。まぁ、俺が心配するまでもなく大丈夫だと思うけど。

 というか、勢いでOKしちゃったけど、娘ってどんな感じなんだろう。

 性格がレヴィアタンさんに似ていればいいけど、万が一アクエラ様みたいな龍が現れたらこっちの気が持たない。どうかどうか…………。


 そんな事を考えながら待っていると、上空に豆粒ほどの点が見えた。かと思うと、豆粒は一気に大きくなり、二頭の龍だということがわかった。二頭の龍は俺の前に着地すると、すぅっと音もなく人間の姿になった。


「お待たせいたしました。こちらが我が娘、アヤナミです。どうぞよろしくお願いいたします。」

「アヤナミと申します。」


 レヴィアタンさんに紹介され、アヤナミと呼ばれた少女がペコリと頭を下げる。

 ふんわりとウェーブがかかった銀髪が風になびいている。

 レヴィアタンさんとはあまり似ていないな。レヴィアタンさんはクールな知的美女って感じだけど、こちらは可愛らしい雰囲気だ。


「あ、えっと、よろしく、アヤナミさん。」

「娘のことはアヤナミ、とお呼びください。敬語も不要です。私のこともレヴィアタンで結構です。」

「あなた様のことは、なんとお呼びすれば良いですか?」


 アヤナミさん、もとい、アヤナミに問われて迷う。なんて呼んでもらえばいいんだ?みんなは村長って呼んでるけど…………

「『ケイ』でいいよ。よろしくね、アヤナミ。」

「はい、一生懸命お仕えいたします。ケイ様。」


 うん、なんでサラリと『様』をつけた?

 まあいいや、好きに呼んでもらおう。まだ慣れてなくて緊張しているのかもしれないしな。

 紹介が終わると「では。」と手短に挨拶をしてレヴィアタンは行ってしまった。

 おいおい、娘を預けるのにそんなにあっさりしてていいのかよ。

 というか、いくら主人の命とはいえ会ったばっかりの男に娘を託していいのか?

 そんな事を考えている間も、アヤナミは微動だにしない。

 ……しょうがない、村のこととか色々説明していかないとな。


「とりあえず行こうか、この村のこととか、色々紹介するよ。村の人たちにも紹介しないといけないしね。」

「かしこまりました。」


 アヤナミはきちんと背筋を伸ばし、俺の後ろを大人しくついてくる。

 メイドみたいになってるけど、龍、なんだよな…………?

 俺を守るとか言ってたけど、かなり上位の存在っぽいし……どう扱うのが正解なんだ?


「アヤナミは今は人間の姿だけど、龍なんだよな?その、寝床とかどうしたらいいんだ?うち、あんまり広い水辺無いんだけど…………。」


 オンディーヌの水辺はオンディーヌたちが潰れてしまいそうだし、溜池もちょっとな…………用水路は……うん、無理。

 となると近くの川から通ってもらうとか?


「ご心配には及びません、ケイ様のお世話をしている間は、特に命令のない限り人間の姿でいます。寝床もどこでも構いません。壁と屋根があればありがたいですが。」


 あ、そうなの。安心した。

 ってか、壁も屋根もない寝床ってどんなだよ。流石にこんだけ建物があるのに一人野宿しろとか言うわけ無いだろう。

 とりあえず、空いてる家を一つあげよう。

 龍だし誰かと相部屋だと色々気になるかもしれないしな。……主に相部屋の住人が。


 それから村のいろいろを紹介し、家をあてがい、村人に紹介し、気がついたら夜になっていた。

 ちなみに今日もまだ宴会中だ。なんてったって、水の大精霊の加護を受けることになったんだものな。

 村長の俺も例外なく参加。というか、俺がいないと始まらないとか言ってむりやり連行された。

 アヤナミのことが気になったが、すんなりと馴染んで料理なんかの給仕を担当している。

 いや慣れるの早っ!


 ようやく宴会が終わると、片付けを終えたらしいアヤナミが「今日も一日お疲れ様でした。」と声をかけてきた。


「ああ、お疲れ様。というか、アヤナミはすごいな。あっという間に皆に溶け込んで仕事をこなして。」

「ゆくゆくはアクエラ様の下に仕えるのですから、これくらいは当然です。とはいえ、今はケイ様が主です。これからケイ様の身の回りのお世話をさせていただき、何があってもその身をお守りしますのでご安心くださいね。」

「あ、ああ。ありがとう…………。」


 どうやらアヤナミは俺の専属メイドになる気満々のようだ。

 相手は龍だし、おそらくそのために来ているんだろうから余計なことは言わないでおこう。

 それにこんな美少女が専属メイドなんて、男として嬉しくないはずがない。

 俺の秘書をしていたサラはなにか言いたげな目をしていたが、結局何も言わずに立ち去った。


「それでは、おやすみなさいませ。」

「ああ、おやすみ。」


 俺の家の前までついてきたアヤナミは丁寧に頭をさげる。

 俺が扉を閉めるまで頭を上げる気はないようだ。

 しょうがないのでさっさと扉を閉めると、足音が遠ざかるのが聞こえた。


 森を開拓していたはずが、村長になって精霊の加護が付いて龍のメイドができて。

 …………なんかどんどん変なことになっていくなぁ。

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