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52.いたずらの犯人

 ____最近、物がよく失くなる。


 昨日は作っておいたジャムが失くなっていたし、一昨日は棚に保管しておいた蜂蜜が消えていたらしい。

 更に今朝、養蜂小屋に行くと、採取用の蜂蜜瓶が失くなっており、床が蜂蜜だらけになっていたらしい。


 泥棒か?でもここには人がほとんどこない。泥棒だったらもっと人のいる裕福な町に行くだろう。

 てことは村人の仕業?いや、ここにそんなやつはいないはずだ。それに、そもそもみんなに振る舞うために用意しておいたのだからわざわざ盗む必要がない。

 聞き取りをしたいところだが、あらぬ疑いをかけられてると思われるのも申し訳ない気がする。

 人が来ない以上真っ先に思い浮かぶのは仲間の犯行なのだから。

 それにただでさえ人が少ないのだ。住民同士で疑心暗鬼になってギスギスするなどゴメンだ。



 …………ちょっと張り込んでみるか。




 夜、俺はこっそりベッドを抜け出した。目指すは養蜂小屋だ。

 蜂蜜やジャムなど甘いものが狙われている。一番犯人が来る可能性が高いのはやはりここだろう。

 ハチたちはみな巣に帰ってぐっすり寝ている。この生活に慣れ、野生での警戒心など失ってしまったらしい。

 風がヒュウヒュウと吹いており、甲高い笑い声にも聞こえる。

 ふう、夜風は冷えるな。ここで一晩…………頑張らないと。



 明け方になり、小屋の中も徐々に明るくなってきた。

 もう明かりなしでもうっすら見える。

 あてが外れたか。それとも今日は何も盗まなかった?


 ゴトリ。


 小屋の奥から物音がした。

 間違いない。いる!


「だれだ!?」


 俺は持っていたクワをかまえて大声で言った。

 音のした方を見ると…………


 ____羽の生えた子どもが蜂蜜瓶から顔を出した。


「え?子ども?てか、羽??」


 身長はノームたちと同じくらいか。ぱっとみた瞬間オンディーヌたちかと思ったが、顔立ちも違うし羽の形も違う。

 オンディーヌは身長は小さくても顔立ちは若い女性だ。

 しかしこいつらは完全に子どもだった。

 俺と目があった謎の子どもは慌てて逃げようとする。


「あっ!待て!!」


 追いかけようとした瞬間、何かに足元をすくわれ思いっきり尻餅をついてしまった。

 そしてその隙に逃げられてしまった。


「あーくそっ!いてて……。」


 結局なんだったんだ、あれ。

 ちなみに蜂蜜は半分ほどやられていた。









「ライア?ちょっと話があるんだけど。」


 俺は世界樹に向かって呼びかける。

 謎の羽の生えた子ども。あれは明らかに人間じゃなかった。だとしたらライアに聞くのが一番手っ取り早いだろう。



「どうしました?」

「実はさ…………」



 俺は最近の不可解な出来事について話した。

 そして今朝見た生き物のことも。


「このくらいの大きさでさ、トンボの羽みたいなのが生えてたんだ。ライア、何か知らないか?」

「それは『シルフ』ですね。」

「シルフ?」

「はい、風の下級精霊です。風を操る精霊なんですが、どうにも子どもっぽくいたずら好きなところがあって……きっとケイさんの尻もちの原因も風のせいだと思われます。」


 そういえば、最近やたら風が強かったっけ。


「蜂蜜の件もそうだけど、またあんなふうに誰かが怪我をするようなことをされたら困るな。」


 俺の尻、まだ若干痛むもんな。

 もしフランカやマリアさんが同じように転ばされたら怪我をしかねない。


「そうですね。いちどしっかり言い聞かせなければなりません。……本来は風の大精霊が責任を持たなければならないのですが…………」


 コホン、と咳払いをすると、威厳のある凛とした声で言った。


「シルフ、すぐに出てきなさい。」


 するとあちらこちらから小さなつむじ風がが起き、今朝見た羽の生えた子どもが十人ほど現れた。

 ライアの前にきれいに整列し、深々と頭を下げる。


「最近、この村のものを勝手に盗み、この方を転ばせたのはどなたですか?」


 ライアが問いかける。

 シルフたちは先生に叱らせた子どものようにしゅんとなり、六人がおずおずと手を上げた。

 こんなにいたのかよ。どうりで大量の蜂蜜やジャムが消えるわけだ。


「あなたたちは私の友人たちが大切に育てた物を盗み、小屋を汚し、そして村長に怪我をさせるところでした。……これがどういうことかわかりますね?」


 シルフたちはうつむいたまま、小さくうなずいた。よく見ると半泣きだ。

 こうみるとほんとにただの子どもみたいだな。


「犯した罪に対して責任を取らねばなりません。あなたたちはこの村で村人たちのために働きなさい。そしてあなたたちが転ばせた方……ここの村長の言うことに従うのです。」


 威厳たっぷりにそう告げるライア。シルフたちの涙にもものともしない。

 シルフたちは涙をこぼしながらコクコクと頷く。


「あの、ライア。そんな罪っていうほどじゃ……もちろん簡単に許すのも良くないと思うけど。」


 子どものしたことにそんなに目くじら立てるのもなぁ…………。

 というか、普通に働いてくれたら甘いものくらいやるけど。ノームやオンディーヌたちにもやってるんだし。

 俺はシルフたちに語りかけた。


「えっと、俺はケイ。一応ここの村長をしてる。物を盗むのは良くないけど、そんな泣くなよ。別にひどい目に合わそうってんじゃないんだ。ただ、もう勝手に物をとったり、誰かが怪我をするようないたずらはしないって約束してほしいだけ。それに、俺たちの手伝いをしてくれるなら、蜂蜜だけじゃなくて甘いものや果物とかちゃんと分けてやるから。な?」


 俺の言葉に、半泣きで何度も頷くシルフたち。

 うん、俺ももうこれ以上追求はしない。


「よし、じゃ、仲直りだ。これからは仲間としてよろしくな!」


 俺が手を差し伸べると、一斉に飛びついてきた。

 素直にしてれば可愛いもんじゃないか。


「あ、そういえば風の精霊ってどんな事ができるんだ?」

「基本的には、風を操る魔法ですね。風に乗せて物や人を運んだり、服を乾かしたり。あとは空間支配による幻惑や結界魔法が使えます。」


 え、結構すごくないか?子どもだからって侮れないな。


「じゃあ、これからは洗濯と運搬を手伝ってくれよ。報酬は甘い物中心として……寝床はどうする?」

「彼らは基本風に漂って寝ます。なので屋根の上とか、高い場所を好みますね。」

「ふーん。じゃあ、シルフたちのために小さな塔でも立てようか。ノームやオンディーヌたちに寝床があるのに、シルフたちだけ屋根の上にいろってのも可哀想だし。」


 さっそくノームたちに建築の相談だな。あ、それとみんなにも紹介しないと。

 俺の言葉を聞いて、嬉しいのか、シルフが一斉にまとわりついてくる。色んな方向から風が吹き抜けているような不思議な感じだ。


 こうして、風の精霊シルフが仲間になった。









 いたずら好きの精霊シルフだが、実はかなり有能だった。

 シルフは十五センチほどの背丈で、中性的な子どもの姿をしている。背中にはトンボのような二枚の翅がある。

 つむじ風から生まれ、風や空気を操り、空間に溶け込むように生活をしている。ノームやオンディーヌと違って特定の棲家を持たず、それぞれ気に入った場所で漂っているんだとか。


「自由」という言葉を具現化したような彼ら(彼女ら?)だが、風を操る力で大量の荷物を一度に運んでくれる。

 今までは鬼人に任せていた資材運びもシルフたちが加わったことで倍以上の速さになった。物を浮かせるも移動させるも自由自在なので、ノームと協力して家造りなんかをすると早い早い。ついでに洗濯物を乾かすのにも一役買ってくれていて、洗濯物と一緒に漂って遊んでいる。

 無邪気すぎる性格もあって最初は戸惑うこともあったのだが、小さい子どもに接するようにすればうまくいくとわかった。

 今では村の子どもたちの良い遊び相手にもなっている。

 流石に風で子どもを空に飛ばす遊びをしていたときは、テレサが「落ちて怪我でもしたらどうするの!?」と激怒していたが…………。





 

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