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51.洞窟

「鉱脈を探しに行くぞい!!!」


 突然、しびれを切らしたかのようにゲオルグが言った。

 あ、そういえば春になったら一番に鉱脈探しに行きたいと言っていたっけ。

 冬の間もずーっと情報収集してたもんな。うん、いいんじゃないか。


「そうだな。もう雪も降らないだろうし、新たな資源探しに行くのもいいと思う。」

「そうと決まれば早速出発じゃ。」

「まあまあ、まずどこに行くのか、誰が行くのかとか決めないと。一人でさまようわけにもいかないだろ?」

「ぬう。」

「冬の間に色々考えてくれてたみたいだし、俺たちにも教えてよ。」


 そう言うと、ゲオルグは手製の地図を広げてみせた。

 ゼノのマップをもとに、ドワーフやエルフたちの知る周辺情報を書き足したものらしい。


「ワシがいま睨んどるのがこことここ、そしてこの辺りじゃ。」


 ゲオルグが指をさす。ギア山脈の麓と、南西のオリーブ林の向こう側と、東の海岸沿いか。

 ん?南西…………そういえばディミトリオス様も「南西にいけ」って言ってたよな。


「だったら、この南西の方に行ってみないか?」

「ん?なにか知っとるのか?」

「そうじゃないけど、ディミト……神様からの天啓で、南西の方角に行くといいことがあるみたいに言われたんだ。」

「なんと!それはぜひとも行かねば。」

「神様の天啓なら間違いありませんね。」

「どんなものが見つかるのかしら?楽しみねぇ。」


 『天啓』という言葉を聞いて、近くにいた大人も会話に加わってきた。

 ディミトリオス様の『天啓』の効果は凄まじいな。それだけ信心深い人が多いんだろう。

 俺も地球では神様なんて信じてなかったし、初詣とかで神社に行くのすら興味なかったというのに、いつの間にか一年のはじめに挨拶をしてお供えまでしてるんだからなぁ。


「よし、じゃあこの辺りを探そう。あ、俺もついていくよ。あと何人かいるといいと思うんだけど。」

「まぁそうじゃな。一人より二人、二人より三人のほうが効率は良いに決まっとる。」

「じゃあ、わしも行こう。ゲオルグほどではないが、よい素材にかけては鼻が利く。」

「ワシもじゃ。素材は彫刻における命じゃ。良い石はこの目で見たいからのう。」

「自分たちも手伝います。」


 結局、俺、ゲオルグ、ジーク、ヴェンデリン、ジェイク、ガルク、ダリオの七人で探しに行くことになった。

 シャベルやツルハシなどの道具を積んでいざ出発。荷車はエルフたちのキャタピラ付きを借りた。これを作った人は本当に天才だと思う。


 森の中をひたすら進んでいく。目指すは南西、オリーブを見つけた場所、通称「オリーブの林」を目指す。

 この辺りは木材の調達や樹木の移植なんかでよく利用するからなんとなく道っぽくなっている。

 二時間ほど歩くと、あたりの木々はオリーブが多く見られるようになった。


「そういえば、シルキィを見つけたのもこの辺だったっけ。」


 シルキィはこの辺りでオリーブの実を食べていたところを捕獲した。

 ということは、またこの辺りを探せばシルクスパイダーがいるかもしれないな。

 とはいえ、今日の目的はあくまで鉱脈探し。シルクは今すぐ必要なわけではないし、またの機会にしよう。


 オリーブの林を抜け、一行はさらに南西に進む。段々と勾配が急になり、森の散策と言うより登山のようになってきた。

 ここらへんにあるのだろうか?それともまだ先か?俺には検討もつかないので、先頭のゲオルグについていくしか無い。


「む?」

「どうかしたのか?」

「におうな。この辺りになにかありそうな気がするぞ。」

「におうということは、獣の死体でしょうか?」

「バカモン。ワシ等は何しに来たと思っとる。鉱石じゃ。この辺りに良さそうなもんが眠っとるとワシの勘が告げておる。」


 あ、におうってそういうことか。わかりにくいわ。

 というか、鉱石の臭いなんて嗅ぎ取れるもんなのか?

 ちらりとジークを見ると、「わしにもよくわからんが、ゲオルクはいつもそうやって最高の素材を引き当てとる。馬鹿にはできんぞ。」と肩をすくめて言った。


 それならば、と、全員でこの辺りを探索する。岩肌を削ってみたり、石ころを拾ってドワーフに見せたり、鉱脈の探し方なんてわからないのでしらみつぶしだ。

 ふと、遠くの方で声がした。


「おーい!皆さん!こっちになにかあります!」

 ダリオが手を降って呼んでいる。

 急いで全員ダリオのもとへ集まった。

 そこには、蔦に覆われてほぼふさがっていたが、ポッカリと穴が空いている。洞窟だ。


「ほう。こういった洞窟は素材の宝庫であることが多い。いってみようぞ。きっと何かあるはずじゃ。」


 ゲオルグはいつになく上機嫌だ。ということは、ここが当たりっぽいな。

 鬼人たちに蔦を引きちぎってもらい、出入り口を確保する。ジェイクでも屈まずに入れるほどのかなり大きな入口だ。

 野生動物や魔物、なにがでてくるかわからないのでジェイクを先頭に慎重に進んでいく。

 入り口に比べ中は狭くはなっていたが、人が出入りするには充分な広さだ。

 一時間ほど進み続けた。とは言っても、慎重に少しずつ進んだから実際には大した距離は進んでないと思うが。

 エルフの魔法で作った明かりがなかったら何もわからなかっただろうな。魔法様々だ。


「これは…………!」


 先頭のジェイクから声が聞こえた。

 ゲオルグがいち早くジェイクのもとへ行く。

 下りになった斜面を慎重に降りていくと、大きな空間に出た。


「すごい…………。」


 俺も思わず声が出る。

 広い空間には赤、青、黄、白っぽいものから透明なものまでこれでもかというほど様々な鉱石が露出していた。


「これはすごいぞ!こっちはアメジスト、こっちはサファイア、これは金じゃな…………」


 ゲオルグがライトを当て、一つ一つ確認していく。

 えええ!?アメジスト!?サファイア!?俺でも知っている宝石の名前がどんどん出てくる。


「おい、こっちには鉄もあるぞ!銀も銅もじゃ!」

「ここは素晴らしい鉱脈じゃぞ!まさに宝の山じゃ!!」


 ドワーフたちは大興奮だ。

 鉱石のことはよくわからない俺でも、彼らの興奮具合でそのすごさがわかる。

 しかしさすがは職人集団、喜ぶばかりでは終わらない。とっとと仕事モードに切り替える。

 できるだけ早く本格的な調査をして採掘をしたいというので、今回はとりあえず一旦帰宅。

 勿論いくつかの石のサンプルを持って帰ることも忘れない。


 数日後には、ドワーフと鬼人、そしてエルフによる調査隊が洞窟に向かった。

 エルフの男性の中に鉱物に詳しいものがいるということで急遽呼び出し、彼にも同行してもらう。

 調査の結果、金銀などの高価な鉱石は勿論、大量の鉄や銅が含まれているということだ。

 つまり安定的な鉄の入手が可能になる。

 そこからのゲオルグの仕事は早かった。鬼人を始めとする力自慢たちを連れて採掘にでかけ、大量の鉄や銅などを持ってきた。

 聞くところによるとゲオルグはまるで洞窟内の鉱脈が全て見えているかのような的確な指示で、彼の指示通りに掘れば百発百中でアタリが出たと言う。


 素材が手に入ったことで、工房はますます忙しくなった。

 エルフたちもそれに負けじとさらに研究に取り組んでくれる。


 おそらく、というかほぼ確実に、ディミトリオス様の言っていた「いいもの」ってこれなんだろう。

 いいものどころではないとんでもないものだけれど。

 とにかくありがとうございます。これを使ってますます発展させます。

 俺は天に向かって手を合わせた。


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