50.新年のご挨拶
おかげさまで50話突入しました。
飽き性の私がここまで毎日投稿して来れたのには自分でも驚きです。
いつも読んでくださりありがとうございます!
これからも気ままに頑張ります。
だんだんと寒さが和らいできた。
どうやら冬は終わったらしい。まだまだ冷えはするものの、雪が積もるなんてことはなくなった。
植物たちにも若葉が見え始めている。
春か。
春といえば入学式や新入生、新社会人。なんとなく「新しい一年」というイメージが強い。
俺がこの世界に来たのは初夏に入るかという頃だったから正確にはまだ一年が経ったわけではないが、気持ちも新たに頑張ろうと思う。
俺がこうしていられるのもあと九年とちょっとだからね。
思えば突拍子もない話だよなぁ。いきなり死ぬなんて言われて、いきなり異世界に飛ばされて、村を発展させろだなんて。
よくすんなり受け入れたよ。
我ながら自分の順応の早さにびっくりする。
…………いや。違うな。最初は正直諦めていただけだった。
どうせ死ぬんだから。どうせ病院ぐらしなんだから。どうせ未来は変わらないんだから。
そんな思いがあったから、「異世界」なんていわれても「はいはい。」と受け入れたのだろう。
でも、今は違うと思う。この村のみんなといるのは楽しいし、自分の力で何かを作って変えていくのが楽しい。
姉貴とも前より仲良くなったと思う。
それもこれも、俺に転移の能力を貸してくれたディミトリオス様のおかげだな。
新しい年が始まるんだし、久しぶりに挨拶でもしておこう。
(ディミトリオス様ー?聞こえますか?)
(おう、なんじゃ。ケイ、困りごとかの?)
(お久しぶりでございます。)
(うむ。皆と仲良くやっとるようで何よりじゃ。それにしても、精霊に鬼人にエルフにドワーフと、また面白い奴らを集めたもんじゃのう。)
ディミトリオス様がふぉっふぉっふぉと笑う。
集めたんじゃなく、集まったんだけどね。
(それで、わしに何の用かな?)
(いえ、大した用は無いんですが、新たな一年が始まるのでディミトリオス様にご挨拶をしておこうと。)
(おお!そうかそうか。いや嬉しいのう。そんな事を考えてくれていようとは。)
(ディミトリオス様には、たくさん助けていただいておりますから。いつもありがとうございます。おかげでなんとか一年間、楽しく過ごすことができました。仲間も増えて、毎日がとても充実してます。あ、これ少しですが村のお酒です。ってディミトリオス様にこれ届くんですかね?)
お供え物って、神様にちゃんと届くもんなのか?ただの人間の自己満足だったりする?あんま考えずにお供えしてしまった。
(なんと!そなたは…………ふっ、ふお、ふおっふぉっふぉっふぉ!)
ディミトリオス様が突然盛大に笑い出した。
え?なに?どうしたんだ?俺なんか変なこと言った???
(えっ?あの……俺なんか変なことを言いました?)
(いやいや、すまぬすまぬ。そなたは変わった人間よのう。)
(へ?)
(もとはといえばこちらの手違いでこのような目にあっておるというのに、わしに文句を言うどころか、あまつさえ感謝しておると!なんと、まあ、優しき人間じゃ。)
(えっと、まあ最初は戸惑いましたけど、この一年結構楽しかったですから。正直地球で過ごした二十年よりもずっと充実しているんです。)
(…………そうか。そなたが幸せに思ってくれておるなら何よりじゃ。)
ディミトリオス様の声がとても優しくなった気がした。
もともと優しい声ではあったけれど、もっとこう、孫に対するみたいな。
(とにかく、どうかこれからも見守っていてください。)
(勿論じゃ。酒もありがたくいただこうぞ。……そうじゃな。わしも新年の挨拶代わりと言っては何じゃが、いいものをやろう。南西の方に行くと良い。ああ、鬼人とドワーフも連れると良いぞ。)
(へ?南西?あ、あの…………)
(ふぉっふぉっふぉ。あとは自分で切り開くのじゃ。では、そなたの思うままに進むが良い。ではの。)
そう言ってディミトリオス様の声は聞こえなくなった。
酒もいつの間にか消えている。
南西?南西になにかあるんだろうか?前回はディミトリオス様のお告げの後にライアが現れたから、また新しい仲間とか?
とにかく、覚えておこう。
冬を無事越えたということで、俺たちも色々と動き出す。
建物の傷みなどを点検し、必要に応じて補修。雪の重みで柵が曲がったり折れたりしている箇所があった。
家屋は今のところ問題は無し。優秀な建築チームのおかげだな。
畑も点検し、種まきに向けてコンディションを整える。
新たに拡張する場所は木を伐採して切り株を取り除くところから。
これはかなりの重労働だが、鬼人たちが活躍してくれて何とかなりそうだ。
俺はロベルトさんとどこに何を蒔くかの確認。
エルフ達は建物の掃除。魔法でどんどん掃除していく。人の手では届かない天井部分までできるのは魔法のいい所だよな。
あとは食料の残りの確認と、これから使う農具たちの整備。大人も子どももみんなで行う。
子どもたちは勉強の成果と言わんばかりに食料の残りを数え記録していた。うんうん、君たちの成長が嬉しいよ。
最終確認はサラにお願いしてある。間違いがなければサラに花丸を貰えるということでみんな張り切っていた。
ちなみに花丸は描いた文字が魔法でしばらく動くらしく、冬季学校のご褒美の定番だ。
小さなことだけど、そういうの嬉しいよな。俺も小学生の時はハンコやシールを貼って貰えただけで嬉しかったもん。
四日ほどかけ、全ての準備が整った。
あとは畑に種を蒔く。作物たちの新たな一年が始まる。
「また一年、畑仕事をしっかり支えてやらんとな。」
「今年は新しい服も作りたいわね。衣装持ちの村なんて素敵じゃない!」
「肉も魚も豊富だといいですね!大物を仕留めますよ!」
「我々の研究が役に立てば幸いです。」
「道具のことは任せておけ。去年とはレベルが違うぞい。」
「新しい仲間も来るんだよねー!お友達も増やしたいな!」
思い思いの目標を発表し合う面々。
みんなワクワクしているようだ。
「みんな、改めて、また一年間よろしくな。」
「よろしくお願いします、村長!」
俺たちの新しい一年が始まる。