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5.男の約束と御神木

 目が覚める。

 固い。肌寒い。

 ああそうか、俺野宿してたんだっけ。

 静かに起き上がる。子どもたちを起こさないように。

 ゆらゆらと燃える焚き火を眺めているロベルトさんと目があった。


「もう起きたのか。」

「うん、なんかあんまり眠れなくてさ。」

「疲れているじゃろう。もう少し眠りなさい。」

「ううん、俺は大丈夫。それよりロベルトさん休んでよ。ずっと荷車引いてたし、(かまど)づくりとかいろいろ任せちゃったし、疲れてるでしょ?」

「ほっほっ。お前さんは優しいのう。」


 ロベルトさんは、「ちょっと話さんか。」といって、眠っている人たちに声が届かないところまで離れた。

 俺は黙ってついていく。

 少し離れたところから見る焚き火は、周りの暗闇から一層浮き上がって見え、荷車と寝ているみんなが大きな一頭の動物のように見えた。


「お前さんは、この国の人間ではないじゃろう。」


 ロベルトさんはゆっくりと尋ねた。

 俺はどう答えるべきなんだろう。そもそも記憶がない設定なんだから、「わからない」でいいのだろうか。

 俺が答えあぐねていると「べつにだからどうということはない」と笑った。


「この国でお前さんのような黒髪黒目は珍しい。このへんの生まれでないことは想像がつくよ。」

「その、自分でもよくわからないけど、遠くから来たんだと思う。」


 うん、嘘は言ってない。


「若い頃、わしは兵士として各地に行った事がある。もっぱら戦争で、だが。そのときに、お前さんのような黒髪黒目の種族が海のはるか向こうにいるという話を聞いたことがある。きっとお前さんはそこにゆかりのある人間じゃろう。」 

「そう……かもしれない。」 

「お前さんは、国や種族が違うかもしれんわし等をどう思うかね?」 

「どうって・・・いい人だと思うけど。仲間に入れてくれたし、みんな優しくしてくれるし。」

「ほっほっ。そうかそうか。いや安心した。」


 ロベルトさんが柔らかく笑う。


「記憶がないお前さんだから、ここらへんの情勢もあまり知らんじゃろうが、この国ではな、いや周辺も含めてそうじゃが、自分らと違う見た目の人間を否応なしに『敵』とみなす輩が多いのじゃ。もちろん全員とは言わんが。わしはな、そんな考え方は未来へ向いとらんと思うんじゃ。だからこそ、新しく集落を作るというお前さんの考えに賛同した。今まであったものを作り変えるよりも、新しく作る方が容易いこともある。誰しもが平等に受け入れられる村ができたらいいと思わんか。」

「それは……」

「夢物語だと笑うかね?」

「いや、そうじゃなくて、嬉しいなと思って。俺もそんな村を作りたい。ロベルトさんたちが俺を受け入れてくれたように、誰でも歓迎されて、自由に、平和に暮らせるようにしたい。」

「ほっほっ。そうか、ではわしらで作ろうぞ。自分たちのため、そして子どもたちのために。」


 ロベルトさんは拳を突き出してきた。ゴツゴツとした大きな手だ。穏やかに見えるけれど、きっといろんなことを経験してきたのだろう。


「あらためて、よろしくお願いします。ロベルトさん。」 

「男の約束じゃ。よろしくな、ケイ。」


 俺とロベルトさんは、優しく、力強く拳を合わせた。

 なんだか照れくさい。今俺は変な顔をしているんだろう。あたりが暗くてよかった。

 向こうも照れくさくなったのだろうか。

「では、あとは頼んだぞ」と早口にいうと、ロベルトさんは焚き火のそばで丸くなり、眠りについた。











 _____翌朝。


 最初に起きたのはテレサだった。見張りがてら、焚き火の薪を追加してた俺と目が合うと、「おはよう。夜の見張り、ありがとうね。」と笑いかけてくれた。


「よく眠れましたか?」

「うん、おかげさまでね。こんなにぐっすり寝たのは久しぶりだよ。」


 聞けば、俺と出会う前は男がロベルトさん一人だったため、テレサが交代で見張りをしていたらしい。

 女性だから体力的にもきついだろうに、文句の一つも言わずに動いていてすごいな。

 母は強し、ってやつか。


「食事の用意をしとくから、顔を洗っておいでよ。ついでに子どもたちも連れて行ってやって。」


 寄り添って丸まっている子どもたち二人を起こしにに向かうテレサ。ロベルトさんとマリアさんも起きてきたようだ。 


「おはようみんな。ロベルトもケイも、夜はなんともなかった?」

「おはよう、いやあ、不思議なくらい静かな夜じゃった。魔物どころか獣一匹現れんわい。」

「俺の方も、特に異常は……って、ええええええええええ!!!!?????」


 急に叫びだす俺に固まる一同。まだ寝ぼけていたフランカは、「おにーちゃんどしたのー?」とあくび混じりに聞いてきた。


「あの、あれ…………!」


 みんなの真後ろ、俺の指差す方向を見て、全員が叫ぶ。


「な、なにこれーーーー!!!!?????」


 そこには、昨日植えたはずの種、もとい、巨大な大木が鎮座していた。





「な…な……なんじゃあこりゃあ……!?」 

「こんなことって……え?現実なの?」 

「あらぁ、すごいわねぇ。」 

「すっげー!めっちゃでっかくなってんじゃん!!!」

「おっきいーーー!!!」


 胴回りは直径十メートルはあるだろうか。

 見事に枝葉を伸ばし、青々とした葉をざわめかせる大樹。まるでこの森のヌシのようだ。

 ディミトリオス様、なんちゅうもんをくれたんですか。

 というか、いつの間に伸びたんだ、たった一晩で。全く気づかなかったぞ。


 シンボルツリーとは言ったものの、これじゃ御神木だな。

 いや、神様からもらった木だからそれが正しいのか。




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