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43.またやってきた

 朝晩はめっきり冷えるようになった。

 だんだんと冬が近づいていることを肌で感じる。

 正直、麻の寝巻きだけだと寒い。まぁこれは元々夏用として作られたものだからな。


 食堂に行くと、暖炉に火が灯っていた。おお、ついに使い始めたんだな。


 「暖炉、使い始めたんだな。ありがとう。」


 声をかけるも、マリアとテレサは思案顔だ。


 「薪の保管を考えてなかったわ。」

 「これから全部の家で使うとなったら、乾燥が間に合うかしらねぇ……。」


 そう、薪は切った後に乾燥させなければならない。

 乾燥が不十分だと不完全燃焼となり、有害物質が出てしまう。

 人数が増えたこの村では、今ある乾燥済みの薪の数では足りないだろう。


 「とにかく早めに薪割りをして、乾燥の時間を確保する他ないのう。」


 ロベルトさんの意見にみんな頷く。


 「力仕事なら我々にお任せ下さい!」


 鬼人達は我が出番とばかりにやる気満々だ。

 適材適所。素直にお願いするとしよう。


 「薪の乾燥でしたらオンディーヌが使えますよ。」


 コップに口をつけながらライアが言う。

 ライアは食事の必要は無いのだが、宴会以外でも時折こうして水だけを飲みに来る。

 ドライアドも寒いと温かい飲み物が欲しくなるのか、コップからはほんのりと湯気が出ていた。どうやらぬるめの白湯をいれてもらったらしい。


 「オンディーヌ?」

 「彼女達は水の精霊ですから、水分を操ることに長けています。薪に含まれる水分を飛ばしてもらえば一気に乾燥できますよ。」


 まじか、超優秀だな。さすがは水の精霊。

 というか、ノームにしろオンディーヌにしろ、当たり前のように一緒にいて色々手伝って貰っているが、ものすごい力の持ち主なんだな。

 俺は改めて実感した。

 とにかく、これで冬の薪問題は解決しそうだ。

 乾燥がすぐにできるなら慌てて薪割りをしてもらう必要も無い。空いた時間で少しずつ、ということになった。



 収穫期も過ぎ、本格的な冬に向けて各々が準備を進めていると、また別のドワーフがやって来た。というか、なんかゾロゾロとやって来るんだけど。

 また品物でも売りに来たのか?

 この間必要なものはあらかた交換したし、ジークもいるからしばらくはいらないんだけどな。


 しかし、彼らは売りに来たわけではなかった。

 ジークと同じようにここに移住させて欲しいというのだ。


 いやいや、技術者は必要だと思うけど、鍛治職人ばっかり十人も二十人もいても困るから。

 というか、おそらくはみんな酒目当てだろ?この前あげたやつもう飲んだのか?こっちにもそんなに在庫ないんだけど。


「ま、今の状況を考えれば、気持ちはわからんでもないがな。」

「ん?どういうことだ?」


 何やらジークは訳知り顔だ。


 やってきたドワーフたちに話を聞くと、どうやらドワーフの中にも派閥があるらしい。

 ジーク達の派閥は昔は最大派閥で村の中心だったが、段々と若い世代に取って代わられた。

 技術は負けていないが、よりずる賢く、貴族や人間の心に付け入ったり、要望を聞くことが出来るもの達が優遇されるようになった。まあ確かにジークは生粋の職人気質。営業には向いてないだろうな。

 ジークが引退してからはそれがさらに加速し、一部のドワーフからは「落ち目」とバカにされることがあるとか。


 以前来たドワーフ達はその新鋭派閥に属しており、当然酒は仲間内に優先して回される。まあ、仲間内だけで食べ物を独占したり、他の派閥のドワーフを過度に冷遇したりなんかは無いものの、酒が命の次に大事なドワーフからしたら十分に辛いものである。


 ジークはそれに嫌気がさしたのもあってこの村に移住を決意したらしい。

 それが派閥仲間に知れ渡り、我も我もとなったわけか。

 気持ちはわからんでもないが、それだけで全員を受け入れられるほどうちに余裕はないんだよなぁ。

 というか、ジークよ。あんたが蒔いた種じゃん。

 そういうと「自分の道は自分で切り開くのがドワーフの生き方じゃ。それに別に儂が作った派閥でもない。他人の世話まで出来んわい。」と何処吹く風。


 こればっかりは、俺の一存ではどうしようもない。村のみんなにも意見を聞こう。

 ドワーフ達には一度帰ってもらい、方針が決まったら連絡すると約束した。

 ……ものすごくごねられたけど。



 「……というわけなんだ。」

 「うーむ。それは難しい話じゃの。」


 食堂にはロベルトさん、テレサ、マリア、ガルク、サラ、ジークベルトが座って俺の話を聞いている。


 「ただでさえエルフ達を待たせてるんだものねぇ。」

 「それに、この小さな村に鍛治職人二十人は必要ないわね。どこか別の人間の村とかじゃダメなのかしら?」

 「あやつらの目当てはあくまでここの酒じゃ。他の村ではダメなんじゃ。」


 ここの酒はまっこと美味いからのぅ、と何故か自慢げなジーク。

 いやあんたもその酒につられた側だし。


 「ただ、あやつらも他の奴らに負けんくらい腕のいい奴らではあるぞ?」

 「とは言ってもなぁ……。」


 「では、面接などをして数名選ぶと言うのはどうでしょう?」


 これはサラの意見だ。面接で選ぶ、確かにありだとは思う。


 「うん、それもいいと思うよ。……ただ選ばれなかったドワーフが素直に諦めるかと言うと……。」

 「ま、諦めんじゃろうな。」


 「つまり、選ばれない者にも酒を手にするチャンスを作る必要があるんですね……」


 みんなで考え込む。

 しばらくして、ガルクが遠慮がちに手を挙げた。


 「あの、ドワーフ達がお金を払って買うというのは……?」

 「金?」

 「はい。物々交換はジークさんがいる以上難しいので、お金で……と思ったんですが。」

 「じゃが、奴らも金持ちではないぞ?儂らは貯金なんてものはせんからのう。」

 「では、ガルクさんの意見に付け加えて、彼らにお金を稼いで来て貰うというのはどうでしょう?」


 サラの意見はつまりこういうことだ。

 まずは面接なりなんなりでこの村に必要な人数だけ移住を許可する。

 残った者たちは、今まで通りドワーフの村で暮らすが、頻繁に人間の町に自分の作品を売りに出る。腕が確かと言うならまあどこに行ってもそこそこ売れるだろう。

 そして得たお金でこの村の酒を買う。

 そうすれば全員を受け入れる必要はなく、ドワーフたちも酒を手に入れられる。また村にお金も入ってくるというわけだ。

 なるほどな。


 「確かに、そうすれば私たちがお酒を作りさえすれば両者ともに納得できそうね。」

 「酒を買えるかどうかはあっちの腕次第ってことか。」

 「村に金が入るというのも将来的には良いかもしれんな。」


 そう。ロベルトさんの言う通り、村に金が入る、経済が回り出すというのも大きい。

 これまでは人数も少なかったし、みんなで作って、みんなで分けて、みんなで消費が基本だった。

 しかしそれではいつか上手くいかなくなる日が来る。金の流れを作ることで、農作や建築がそれぞれの「職業」となり、自立した生活にも繋がる。それぞれの得手不得手で職業を選び、「特技」によって他者から金を得て、金を出すことで不足を埋める。村で賄えないものは金を出すことで他の村から調達する。これができてくればもう大丈夫だろう。


 「いいんじゃないか?ガルクとサラの案。ついでに少しずつだけど、村に経済活動も導入していこう。」

 「本格的な村や町になるわね。」

 「わしもいいと思うぞ。」

 「いつかまた食堂とか開きたいと思っていたのよねぇ。」

 「我々の仕事が金になる……素敵ですね。」

 「酒造りも精が出ると言うものです。」


 方向性は決まった。

 あとは誰を村に迎え入れるかだな。


 「ジーク、面接の時はあんたも参加してくれ。よりドワーフたちのことを知っていると思うし。」

 「良かろう。生半可な奴にこの村に留まる資格はない!厳しい目で見ていくぞ!」


 いや、だからなんであんたが一番偉そうなんだよ。

 まぁ、とにかくドワーフたちに知らせるとしよう。

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