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42.本気の目が怖い

 二回目のブドウの収穫がやってきた。

 前回のワイン造りのためにあらかた採ってしまったはずなのだが、何故かまた大量に実をつけたらしい。

 ……ブドウってこんなにポンポン実がつくもんなのか?

 よく分からないが、豊作はありがたい。

 大地の恵に感謝しよう。


 と、言うわけで今日は二回目のブドウの収穫だ。ブドウ畑は拡張してあるものの、そっちはまだ成長途中。なので収穫量は前回と同じか、もっと少なめだろう。

 前回は全部ワインに使っちゃったし、今回はどうする?ジャムとかに挑戦してみるか?

 みんなに聞いてみたところ、全員が「NO!」だった。どうやら今回も全てワインにする気満々のようだ。こうなったら村長の俺でも逆らえない。みんなの本気の目が怖いです。


 そんなみんなの気迫に押され、第二回のワイン造りがスタートした。

 収穫したブドウを洗い、足で潰す。もちろんオンディーヌに足を綺麗にしてもらうことも忘れない。

 潰したものを樽に入れ、酵母を加えて発酵させる。

 発酵が進んだら圧搾し、ここでリネットの案により乳酸菌を加える。こうすることで酸味が抑えられ、まろやかでより複雑な味わいになるのだそうだ。

 さすが酒の研究者、色々詳しいな。というか、乳酸菌の取り出しと培養に成功してるって凄くないか?

 まあ今回はそこには深く突っ込まないでおく。

 そしてさらに熟成。もちろん世界樹の根元で、美味いワインになることを全員で祈るのも忘れない。


 「今度は私たちも飲めるといいですね!」

 「リネットさんが入れたものが味にどう影響するのかも気になります。」

 「飲み比べなんかもいいかもしれません。」

 「そうするとますますドワーフには渡せないわね。」

 「あ、もちろんジークさんは特別よ!なんてったって私たちの先生だもの。」

 「ふん、当然じゃ!儂はそのために来とるんじゃからな!」


 どうやらみんな完成が待ちきれないようだ。

 もちろん俺も例外ではない。ガルクの言うように、リネットの乳酸菌が味にどう影響するのかも気になる。まろやかでより飲みやすいワインになるのだろうか?





 ブドウが実ったということは、他の作物も当然のように実っているわけで。

 早くも三回目の大収穫。ロベルトさんいわく、これが今年最後の大収穫になるだろうとのこと。

 つまり今回の収穫量で、冬ごもりの物量が決まるわけか。なんだかんだ人も増えたし、厳しい冬に飢えを感じることほど辛いものは無いだろう。

 どうか豊作になっていますように。


 役割分担は前回と同じ。ただ今回は二回目の果実系の収穫もあるので少し大変だ。

 子どもたちは今回もオリーブオイル作りを担当してもらう。大変だが頑張って欲しい。

 前回のやり方を覚えているらしく、勝手知ったるなんとやらでどんどん作業を進めていく。

 マリアさんも一応見てくれてはいるが、「私の出番なんて全然ないのよ〜」と言っていた。

 子どもたち、優秀。

 ここも任せて大丈夫そうだな。





 果実の収穫中、リンゴの話になった。

 実はこのリンゴかなり酸味が強いのだ。ライアに品種改良を依頼しているが、改良品種が実をつけるのは来年になるという。それまではこの酸っぱいリンゴで我慢するしかない。


 お菓子にするか、とか、ジャムにしてみるか、とか、色んな案が出ていたが、リネットの「ではリンゴ酒にしてはどうでしょうか?」という言葉に大人全員が反応する。


 「リンゴ酒??それって簡単に作れるの?」

 「リンゴ酒って美味しいのかしら?」

 「どうやって作るのですか??」

 「すぐに全てのリンゴをお酒にしましょう!」


 詰め寄られるリネット。

 困ったように俺の方をちらりと見る。

 しょうがない。


 「ま、まあまあ、みんな落ち着いて。試しにリンゴ酒をちょっとだけ作って、美味しかったら来年から量を増やせばいいんじゃないか?他にもジャムとか焼きリンゴとか、使い途を調べる必要もあるし。」


 「……来年は新たな品種のリンゴも出来ますしね。」

 「ブドウ畑と同じく、こっちも拡張しましょう。」

 「さぁ、早速仕込みをしないと!」

 「村長!ご指示を!!」


 ずいぃっ!と詰め寄ってくる大人たち。

 ていうかみんなそんなに酒好きだったっけ??

 この村の酒がみんなの内に眠る何かを目覚めさせてしまったようだ。

 本気の目が怖いです。



 リンゴ酒はシードルとも言われる発泡酒だ。

 作り方は至って簡単。というか、ワインとさほど変わらない。

 リンゴを洗って潰し、果汁を出してリンゴジュースを作る。硬いリンゴはこの作業が大変らしいが、うちには鬼人がいるからな。

 リンゴジュースに酵母を加え、発酵させる。

 この時密閉することで、発酵によって出てきた炭酸ガスがリンゴジュース内に溶け込み、発泡酒となるわけだ。

 リネットの指示の元、みんなでリンゴ酒の仕込みを行う。リネット先生様々だな。

 聞くところによるとリネットは発酵研究グループの酒部門らしい。

 発酵の研究グループには優先的に設備を整えてやろう。酒が絡むならばみんなも文句は言わないだろうしね。


 数日かけて、ようやく全ての収穫から貯蔵までが終了した。

 今日は今年最後の収穫祭。とはいえ、冬場のことも考えてあまり豪勢なものは出来ない。

 こういう時にはあれだな。前回のリベンジ、ピザ祭りだ。

 チーズの作り方も分かっているし、手作りチーズでピザを作る。

 初めて食べる者も多いから説明は丁寧に。

 マリアたちに作ってもらった生地を薄く円盤状に伸ばし、採れたて作りたてのトマトソースを塗る。好きな具材をのっけてチーズも散らし、釜で焼けば完成だ。

 人数も多いし釜の数も少ないので、大きめに作って次々に焼いていく。

 初めてのチーズ入りピザは大好評だった。

 トロリと伸びるチーズに驚きの声が上がる。

 前回ピザがお気に入りだったセシルは、チーズ入りピザに感動したようだ。


 「もぐっ……すっげ!すっげ!のびる!んぐ、美味い!美味い!」

 「セシル、食べるか喋るかどっちかにしなよ。……美味しいっ!」


 ゼノにツッコミを入れられながらも、二人でもりもり食べていた。

 二人はすっかり親友だ。

 フランカとカルナはエルフの子どもたちと一緒だ。

 作り方を教えているらしい。トマト好きなフランカに教わると、トマトソースが一・五倍くらい多くなっているけどな。


 「はいっ!ライアにあげる!!」

 「うふふ、ありがとう。美味しそうですね。」


 得意げにピザを渡すフランカと穏やかに笑うライア。実に平和である。フランカもライアを姉のように慕っているのがわかる。


 一気に大所帯となった収穫祭。楽しい時間はあっという間に過ぎていった。



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