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39.取引

 待つこと九日。大きめの荷物を背負ったジェイクが帰ってきた。後ろにはサラ。見慣れない男を連れている。

 応接室なんてものはないのでそのまま食堂に連れて来てもらう。

 後ろに見える小さい髭もじゃの男がドワーフだろう。

 身長は百四十センチくらい。ずんぐりとした体型にもじゃもじゃの髭と頭。目つきは鋭く、いかにもドワーフって感じだな。

 森の中の開拓村が珍しいのか辺りを見渡してはいるが、ビクビクした様子はない。

 さしずめ「山間の村にわざわざ来てやった」くらいに思っているのだろう。まあ間違ってはいないけど。


 ここから先は俺の出番だ。

 なんとか舐められないように。内心ビクビクしながらも気合を入れ、精一杯堂々とした態度を取る。


 「こちらが我が主、この村の村長です。」


 ジェイクの紹介に俺も続く。


 「初めまして。この度は急に呼び立ててしまい申し訳ない。貴殿らの鍛冶の腕はよく聞いています。今日はよろしくお願いします。」


 「こんな所にムラがあるとは驚いたが、大事な商売相手じゃ。いい物を揃えたからじっくり見るといい。」


 そう言って早速持ってきた品を並べる。

 ナイフ、鎌、鉈など、こちらが希望している農具や調理道具を数種類ずつ。

 あまり品数は多くない。辺境の小さな村なので、太客にはならないと踏んだのだろう。

 まぁ、今日は最低限しか買う予定がないので別に何を持ってきてもらってもいいのだが。


 「ふむふむ、なるほど……ではこの鉈とナイフを頂けますか?そちらは肉や野菜などの食料をお求めと聞いたので、こちらを。」


 そう言って麻袋ひとつ分ほどの野菜と、イノシシの肉塊を渡す。鬼人達に聞いていた相場よりも少し多くしてある。

 ドワーフがニヤリと笑った。

 ものの相場も知らない良いカモだと思ったのだろう。

 それでいい。まずはこの村に来る価値があると思わせるのだ。


 「せっかくここまでご足労頂いたので、粗末なものですが食事を用意しました。うちの作物を使っていますので試食にもなるかと思います。」


 「ほほう。スマンの。遠慮なく頂こう。」


 ドワーフは上機嫌だ。

 早速料理を運んでもらう。


 「さ、どうぞ遠慮なく。」

 「見たことの無い料理じゃが……なんと!こっ、これは美味い!!!」


 カッと眼を見開き、ガツガツと食べ始めるドワーフ。

 ふふふ。そうだろう。なんてったって世界樹の加護を浴びて育った野菜に、地球の知識を使った調理法。

 料理の発達していないこの世界では美味いに決まっている。

 ちなみに野菜の質もプロであるロベルトさんのお墨付きだ。


 「喜んでいただけて何よりです。そうだ、せっかくなのでうちのとっておきをお出ししましょう。」


 そう言ってビールを持ってきてもらう。

 ビールの出来は村人全員のお墨付き。

 残念ながら俺は地球でビールを飲んだことがないので善し悪しは分からないが、この世界の人が好む味になっていることは間違いない。

 ついでにオンディーヌに頼んで冷やしてもらっている。ぬるいビールしか知らないこの世界の人たちにとって、冷えたビールの味は衝撃らしい。


 さてさて、ドワーフの反応はどうかな?


 「ほっほう!酒とはよく分かっておる!!わしらドワーフは無類の酒好きでな!いやいや、ありがたい!!」


 ビールを見て、すっかり上機嫌なドワーフ。

 そして豪快にゴクリ。


 「な、な、な、なんじゃぁー!!!これはっ!麦の香りとキレのあるのどごし!おまけに冷やしておるじゃと!?こんなうまいビールは初めてじゃ!!!」


 そう言うと一気にジョッキを飲み干してしまった。


 「さ、どうぞもう1杯。」

 「むむむ、こんなものが存在するとは……。」


 小さめのピッチャーに移しておいたビールは瞬く間に無くなった。


 「な、なぁ村長殿。これからもこの村に色々品を持ってくる。そん時はビールを交換してくれんか!?」


 身を乗り出し、唾を飛ばさん勢いでそう提案するドワーフ。ふふ、かかったな。


 「うーん、そうですねぇ……しかし先程も言った通り、これはうちのとっておきなのですよ。失礼ながら、先程の品ぞろえを見る限り拍子抜け、というのが正直なところです。作物はともかく、あの程度の品に酒を渡すのは……。」


 ちなみにものの善し悪しなんて俺には全く分からない。何せこれまで刃物なんてどれも同じと思ってたし。刃がかけてるとかならともかく、よっぽどの出来でないと見分けなんて着くわけが無い。完全にカマをかけているだけだ。



 「そ、それはだな……。」

 「残念ですが……」

 「いや、待ってくれ!実を言うと他にもあるんじゃ!」


 慌ててそう言うドワーフ。これはカマかけ成功か?


 「じ、実を言うとな、ここに来る前の町で良いものはみな売れてしまったのじゃ。そ、そうだ!三日!三日後にまた来よう!その時は最高の品を持ってくる!あんたも絶対に気に入るはずじゃ!それを見て判断してくれんか!?」


 これはかかったな。

 というか、三日で用意できるってことは、やっぱり粗悪品ばっか持ってきてたのか。全くしょうがない。


 「ははは、いやぁそうでしたか。貴殿も人が悪い。それならば三日後にまた改めてお越しください。ドワーフの本気の作品を楽しみにしていますよ。」

 「ああ、もちろんじゃ。村長殿もきっと驚くに違いない。」

 「ただ、次は他の方も連れてきてください。職人はあなただけでは無いのでしょう?それぞれの職人たちの最高の品々をじっくりと見比べたいのでね。」

 「なっ!それは……」

 「ご心配なく!あなたの作品を買う買わないに関わらず、良い職人を紹介して頂ければ、あなたに紹介料としてお酒を特別にお渡ししますよ。」


 これでこいつは良い職人を連れて来る。いや、来ないはずがない。

 なぜなら紹介すれば、たとえ自分のものが売れなくとも酒は手に入る。今後の付き合いも続けば、紹介者の自分は融通してもらえる可能性もある。

 だが仮に利益独占のために自分より劣った者のみを連れてきて、俺が気に入らなかったらそこまで。

 酒をゲットするチャンスは永遠になくなるかもしれないのだから。



 考えに考えた結果、ドワーフは三日後に四人の職人を連れてくると約束した。

 帰り際にはワインの存在も仄めかしておいた。

 目の色が変わったのは言うまでもない。


 まずは第一ラウンド勝利と言ったところか。







 三日後、約束通り五人のドワーフが村を尋ねてきた。ちなみに本来ならばもっとかかる距離なのだが、鬼人たちに送迎をお願いしたのでこの日数ですんでいる。全く優秀な人材だ。

 今回はみんなに見てもらい、各々欲しいものを選んでもらうつもりだ。

 前回の反応を見る限り、変なものを持ってくるとは考えにくいしな。


 「ようこそドワーフの皆さん!遠路はるばるご苦労様です。まずは食事でもご一緒しましょう。」


 ドワーフ達を食堂に案内する。

 テーブルには前回にも増してたくさんの料理を用意してある。もちろん酒も出すよ。

 最初に腹を満たして気を大きくさせ、ついでに初めて来る職人たちにもうちの酒の味を覚えさせる。

 絶対に逃したくない上客だと分かれば、売り物の出し惜しみはしないだろう。


 料理は大絶賛だった。前回持ち帰ってもらった作物たちの評判も良かったようで、ドワーフ達はホクホク顔だ。

 そしてビールと、今日はワインも出す。結果は予想通り。全員目を見開いていたよ。


 「ここの酒は今までのどこの酒よりも美味い!」

 「ビールを冷やすという発想は革新的じゃのう!」

 「このワインも恐れ入ったわい。これほどのものを作れる村があるとは……」

 「いや、食事も美味いし酒も美味い!素晴らしい村じゃな!」

 「村長殿!もう一杯だけお願いできんか?」

 「まあまあ。この後は商談が控えておりますので今日のところはこの辺で。先日もお伝えした通り、お見せいただけるものによっては酒との交換も考えておりますので。」

 「ぬうう。惜しいが仕方ない。これほどの上物を簡単に渡せんと言うのはよく分かる。」

 「ああ、では早速見てほしい。」


 そう言ってドワーフたちは我先にと品物を並べだした。

 俺もみんなを呼んで好きに見てもらう。



 「これは素晴らしい……。」


 ドワーフ達の持ってきた品々は素人の俺でもわかるほど素晴らしいものだった。

 薄く綺麗に揃った刃先。繊細な細工。吸い付くようにフィットする手触り。

 前回のものとは比べ物にならない。ドワーフ達の本気の作品だ。


 みんなにはそれぞれ品物を選んでもらい、再び俺とドワーフ達になる。


 「いやぁ、大変結構な品物をありがとうございます。やはりドワーフの本気の一品というのは素晴らしいものですね。」

 「当然じゃ。この四人は王都でも通用する、うちでも指折りの職人たちよ。」

 「では、交換する食糧などをご用意しましたので確認を。」


 俺は袋に詰めた野菜や果物、肉、干し魚、ついでに少量だが蜂蜜を渡した。

 そしてもちろん、酒もだ。


 「いい物を譲っていただきましたので、お約束通りこちらを。うちの取っておきのビールとワインです。ぜひ味わってください。」


 ビールは中樽で、ワインは小樽で一つずつ渡す。

 もちろん、紹介してくれたドワーフには瓶に入れたワインをプレゼント。


 「おおおおお!!」

 「ビールが!ワインが!!!」

 「これは最高じゃ!」

 「食べ物の質もいいな。おまけに貴重な蜂蜜まで!」

 「大変良い時間じゃった。もしまたなにか入り用の時はぜひ呼んでくだされ。」

 「ええ、これからもよろしくお願いしますね。」


 鬼人達に荷物持ち兼見送りをお願いし、ドワーフ達はホクホク顔で帰って行った。

 俺も上手くいって大満足だ。

 あんな高品質な鉄製品、自分たちじゃ何年かかっても無理だっただろうからな。

 ドワーフに対して酒の威力は圧倒的。

 頑張って作った甲斐があったよ。


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