38.最終秘密兵器
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収穫作業も無事に終わり、戸籍をもとにエルフたちの新居も作る。
殆どは居住区に作るが、エルフたちのうち何人かはゆくゆくは研究所も兼ねたいと言っていたので、その場合は工業区へ。
トウリョウの的確な指示もあり、俺の非常にざっくりとした再開発計画案に即して順調に出来上がりつつある。
ちなみにエルフたちは魔力が豊富ということで、村の灯りを作ってもらった。
柔らかな乳白色の光の玉はしっかりと辺りを照らしてくれて、夜でも足元がよく見える。魔力の調節次第で一週間くらいは持つらしいので、毎週作ってもらうことに。初めての彼女達専門の仕事ということで喜んでいた。
こちらとしても夜の灯り問題が一気に解決するのはありがたい。
そんなこんなでエルフたちが来てから十日ほど経った頃、ついにワインが完成した。
みんなで試飲……と行きたいところだが、ブドウの量が少なくビールに比べて少量しかできなかったため全員は無理。
しかし、なるべくいろんな意見を聞きたい。ということで、各種族の代表が飲むことに。
といっても俺たち人間は酒に詳しいロベルトさんと料理の得意なマリアさん、村長の俺の三人が飲む。
後は鬼人代表ガルク、エルフ代表はリネット。リネットは発酵について研究しているチームの一人で、酒にも詳しいと言う。まさに適任だ。以上五名でいざ試飲。
コックをひねると明るいルビーのような色の液体が流れ出る。思ったより紫は強くないんだな。
ワイングラスなんてオシャレなものはないので普段の木製コップに注いでマリアさんが配る。
ちなみに飲まない面々も周りで固唾を飲んで見守っている。
「ええと、では、みんなの力で作ったワイン、美味くできていることを願って……乾杯。」
いつものように促され、俺の一言とともに一斉にゴクリ。
俺は人生初ワインだ。ちょっとビビりながら一口。
コップを傾けたときに、フルーティーな香りが漂う。口に入れると、強い酸味、甘みと渋みが混ざりあったなんとも言えない味だ。
姉貴や知り合いが言うほど渋さは感じられないが、(姉貴いわく、その渋さがまた癖になるらしいが)これはどうなんだ?
「こりゃあ……美味いのう!!そこいらの安物とは全く違うぞ!?」
「すっごく美味しいわぁ!!渋みが少なくて上品な甘さね!」
「これはいいですね!!まだ熟成が足りない気もしますが、少し時間を置けばとても良くなると思います!」
「香りもあって、美味しいです!こんなワインは初めて飲みました!!」
みんなの反応は上々だ。リネットいわく「まだ熟成が足りない」らしいが、そこは時間が解決してくれるだろう。
問題はドワーフが好むかどうかだが。
「これは、ドワーフに通用すると思うか?」
「間違いなくするじゃろうな。上物のワインと変わりない味に思えるぞ。」
「とっても美味しいし、きっと大丈夫よ。」
「かなりよくできたワインだと思います。ドワーフたちが普段飲むものとは別格でしょうね。」
「これを渡せばイチコロですよ!」
ロベルトさん、マリア、リネット、ガルク、それぞれのお墨付きをもらえた。
ドワーフもイチコロのワインか。量も多くないし、これは最終秘密兵器だな。
俺たちの反応を聞いて飲みたそうにソワソワしているギャラリー。可哀想だが、これは渡すわけにはいかない。
さっさと熟成小屋にしまう。これは本格的にブドウ畑と麦畑が必要だな。
前回の試飲会の後、畑を一・五倍くらい拡張したのだが到底足りなそうだ。
人数も増えたし、思い切って広げるか。
俺たちの切り札である酒も無事に完成した。
いよいよドワーフたちとの交渉である。
問題はドワーフたちがどこに住んでいるのか知らないこと。当初の予定では冬が近づく頃に、鬼人の里に続く道に交代で見張りをたて、やってきたドワーフと接触するはずだった。
しかし、サラがドワーフたちの棲家を知っていたことであっさりと解決した。
「魔族の生態調査のために、何度か村に足を運んだこともあります。顔見知りも何人かいますので、交渉役に行かせてください。」
さすが有能秘書。仕事ができるとはこういう事を言うのだろう。
そして、道案内兼交渉にサラ、護衛としてジェイク。この二人が行くことになった。
ちなみに護衛にジェイクを選んだ理由ははっきり言って威圧要員だ。
今のところこの村は大きな敵対勢力もないし、世界樹の加護もあるから安全だ。
まずはドワーフを説得して連れてくることが大事。
サラを信用していないわけじゃないけど、今回は「行かせてもらう」じゃなくて「そっちが来い」だからな。門前払いを食らってしまっては元も子もない。
そういうことで、一番舐められそうにないジェイクに頼んだ。
「村長直々にご指名いただけるとは光栄の極み。この命に代えても使命を全うしてみせます!!」
跪き、そう宣言するジェイク。
いや、重要っちゃ重要だけど、そんな命とかかけられても困るんですけど。
「いや、まぁ、怪我のないようにな。気をつけて頑張ってくれ。」
「はっ!」
そう言ってジェイクとサラは走り去っていった。
ホントに分かってんのかな?
まぁ、ジェイクに限って誰かにやられるとは思えないけど。
ドワーフの棲家はギア山脈の麓、エルフの里のずっと西の方にあるらしい。
こっちに来るまでに時間もかかるだろうし、俺たちはブドウ畑でも耕しながらのんびり待つことにしますか。
そういうと歓声が上がり、みんな全力で森の開拓を始めた。
「……いや、のんびりやろうってば。」