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37.エルフたちの研究

 

 ふあぁあ……。眠い目をこすりながら起きる。

 昨日はエルフたちの勘違いのせいでとんでもない夜になったよ。嬉しくなかったといえば嘘になるけど。

 おかげで寝付きが悪く、あんまり寝た気がしない。今日は二回目の収穫の日だってのに。

 …………嬉しくなかったといえば嘘になるけど。


 顔を洗いに外へ出る。すでにエルフたちはみんな起きているらしく、爽やかな笑顔で「おはようございます、村長。」と挨拶をされた。

 ……なんか、いいな。朝からこんな美女たちに笑顔を向けられるなんて、素晴らしいじゃないか。

 高校の頃、学年のマドンナと言われていた女子に一度だけ挨拶されたときのことを思い出す。まあその後話す機会は巡って来なかったけどね。


 朝食を食べながら今日の予定を確認する。今日は二回目の大収穫日だ。

 しかし、エルフたちの家を建てなければならないので鬼人とノームたちは建築作業へ。収穫は人間とエルフ、オンディーヌ、そして運搬の助っ人としてカルナに担当してもらう。

 収穫した作物は種類ごとに分けて保管。これは前回と同じだ。ただ、トマトなんかの足が速い野菜については半分ほどドライベジタブルなんかに加工しようと思う。収穫についての細かい指示はロベルトさんに聞くこと。エルフたちはうちの村の収穫ははじめてだから、作業のやり方なんかは周りの人間に遠慮なく聞くこと。

 その他諸々を確認し、役割に分かれて作業を開始する。

 サラは読み書き計算ができるとのことだったので、収穫量の記録をお願いした。ついでに食料庫の在庫の分も。

 それに、エルフたちについて色々聞きたかったので、あちこち動き回る収穫班ではなく一箇所で仕事が完結する記録係のほうが都合が良い。


「サラの他に読み書き計算ができるエルフはいるのか?」

「エルフは、基本全員できますよ。もちろん習熟度に差はありますが、日常生活に困らないレベルであれば全員可能です。」

「へぇ、やっぱり優秀なんだな。」

「自分たちの研究のためには記録や計算は必須ですから。」


 なるほどな。研究を進める上での必須技能はしっかり叩き込まれているわけか。

 というか、エルフの研究ってどんなものなんだろう?キャタピラを開発していたぐらいだから建築関係とか?


「エルフって、どんな研究をしているんだ?」

「そうですね……」


 サラの話によると、エルフたちは数人、または単独でそれぞれ興味のある研究をしていたらしい。

 具体的な内容としては薬草から動物、果ては排泄物から異性を引きつける臭いを取り出す研究なんてのもあった。

 どんなフェチなんだよ。


 その中でも俺が目をつけたものが数個ある。

 薬学と発酵、そしてシルクスパイダーについてだ。

 薬学についてはどんな薬草がどんな効果をもたらすか、また、服用か塗布か、どうすればその効果を最大限発揮できるかなどを研究しているらしい。

 これは使える。村には一応世界樹の樹液や葉の薬があるが、大したこともないのに世界樹の葉をむしり取るなんてのも気が引けるし、いろいろな薬を知っておいて損はない。

 これはぜひとも研究を続けてもらい、必要なら薬草畑も作ろう。


 そして発酵についての研究。これは素晴らしいものだ。

 彼女はすでに酵母や菌が存在することを知っており、いくつかの有用な菌を取り出すことにも成功していた。

 これは大豆が実った暁には味噌と醤油の製造を依頼しよう。


 そしてシルクスパイダーについて。

 なんとこの蜘蛛は、妊娠中に食べる食べ物によって子どもに変化がおこるという。特定の食べ物を与えることにより、低確率ではあるがその食べ物の性質を持った糸を作る変異種が生まれるというのだ。

 これまでの実験では色付きのシルクを作る種、ゴムのような伸縮性のある糸を作る種などができたとか。そして上位種になるほど、変異体を生む確率が上がるらしい。

 え、これってシルキィに子を生んでもらえば、いろんな繊維が手に入るんじゃないか?


「色々あるんだな。というか、サラは全員の研究内容を知っているのか?」

「全員というわけではありませんが、村長に質問されても良いように女性陣の分は把握しております。簡単にですが記録も残してありますので、ご入用でしたらお渡しいたしますよ。」


 マジ有能。ぜひとも秘書になってもらいたい。

 仕事ができる美人秘書。最高である。


「ちなみにサラは何の研究をしてたんだ?」

「私はエルフを含めた魔族の生態についてですね。とは言ってもなかなか魔族領に行く機会がないので、この辺りの魔族たちについてが殆どですが。」

「へぇ……。」


 まだまだ聞きたいことはあったが、ここにばかりいるわけにもいかない。畑のエルフたちの様子も見ておきたいし、建築の方も気になる。


「色々話しかけて悪かったな。あとはよろしく頼むよ。」

「いえいえ。また何かありましたらご遠慮無く。」


 後のことはサラに任せ、俺は畑の方に行く。

 畑では大勢のエルフたちが時折ロベルトさんやテレサたちに話しかけながら作業をしていた。

 うん、特に問題もなく、順調に進んでいるようだ。

 そして、エルフの魔法だろうか。大量の麻袋を積んだ荷車がひとりでに動いていた。荷車についているエルフに話しを聞くと、やはり彼女の魔法らしい。


「我々は力が弱いので、重たい荷物などはこうして運んでいるのです。」


 なるほどな、種族の弱点もちゃんとカバーできてるってわけか。

 ロベルトさんを見つけたので声をかけてみる。


「ロベルトさん、お疲れ様。収穫作業は順調?」

「おお!エルフたちじゃが、なかなか優秀な人材じゃ。力がないとは言うとったが、魔法でしっかりとカバーできておるよ。収穫の仕方もすぐに覚えてくれたわい。賢くて助かっとるよ。」

「そっか、良かった。俺はちょっと建築の方の様子を見てから参加するよ。」

「こっちのことは気にせんでいい。しっかりな、村長殿。」


 うんうん、順調で何より。畑は特に問題なさそうだったので、建築現場へ。

 ノームと鬼人たちがテキパキと作業をしている。トウリョウを探し、声をかける。あ、ライアに通訳してもらわないと。


「ライアー?」


 世界樹の方に呼びかけると、ふわりと風が吹き、目の前にライアが現れた。大精霊であるライアはいろいろなものを介して情報を得ている。つまりどこにいても俺たちの声は聞こえるらしい。大精霊ってすごいんだな。


「なにか御用ですか?」

「うん、ちょっとトウリョウと話したいから通訳をお願いしてもいいかな?」

「わかりました。」


 すぐにトウリョウがやってきた。いつものポーズで挨拶を交わす。


「お疲れ様。進み具合はどうかな?」

「鬼人が資材を運んでくれているので資材加工までは順調です。ただ、エルフたちが何人暮らしなのかがわからないので、家の規模が決まらないそうです。とりあえずは四人家族を想定して数棟作っているところだそうですよ。」


 たしかに。今いる女性陣の他にも、夫や兄弟や息子がいるかも知れない。将来的に家族で住むことを考えたらそれぞれの家族構成を聞いてから作ったほうが良いな。

 というか、これから村人も増えることだし、戸籍なんかがあるといいんじゃないだろうか。

 うん、そうだ。戸籍を作ろう。


 畑のことも気になったが、家族構成等はなるべく早くまとめたほうがいいと思うので俺は戸籍の雛形を作る。

 名前、家族構成、それぞれの性別、年齢、誕生日……も入れたほうがいいのか?家族構成とその詳細があるなら一人一枚じゃなくても家長に書いてもらえばいいな。

 とりあえず二十枚ほど、せっせと作る。各項目を書くだけの雑な作りだが枚数があるとちょっと大変だ。これが百枚二百枚になったときが思いやられるな。その時は助っ人を用意しよう。


 ……雛形を作り終えて思ったのだが、普通に地球でコピーすればよかった。まあもう遅いけどね。

 というか、印刷機のようなものもあると便利だよなぁ。


 その後は畑に向かい、収穫作業を手伝う。たまに食料庫や建築現場の様子を見る。そんなこんなであっという間に日が傾いてきた。

 エルフたちのおかげで収穫作業は無事終了。後は洗った野菜の水を切って、全て食料庫にしまえばOK。

 前回の収穫からあまり日が経っていないこともあって、今日は少なめだったらしい。それでも普通ではありえないくらいの豊作だとか。

 これも世界樹の加護のおかげだな。


 作業を終えてみんなが戻ってきたので、早速戸籍のことについて言ってみる。

 みんな素直に納得してくれて、すぐに記入を始めてくれた。エルフたちはみんな字がかけるから仕事が早く済んで助かる。

 読み書きのできない人間や鬼人の分は俺やテレサ、記入が終わったエルフたちで手分けをして書く。

 精霊たちは……人数くらいはメモしておくか。

 ペンの数が限られているのもあって時間はかかったが、スムーズに進んだと思う。

 後はこれを一覧に……パソコンでデータ化できないのがとても残念だ。地球に戻ってやるか?

 でもゆくゆくは自分たちでできるようにしないとな。





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