36.俺は負けない
そうは言ったものの、全員を受け入れて冬を越せるほど俺たちの村に余裕はない。
こっちだって開拓したばかりの村だしな。まだまだいろいろなものが揃ってない。
オリバーやロベルトさんたちと話し合い、とりあえず女性と子どもを受け入れることになった。
男性は頑張って自力で冬を越してもらう。春になって作物などが取れるようになったらこっちに移り住んでもらう形だ。
まあ、冬の間も差し入れという形で少しではあるが食料も渡そうと思う。ただそれを当てにしないで欲しいと釘を差しておく。
「もちろんです。ありがとうございます。子どもたちが飢えるのを何よりも心配しておりましたので……必ずお力になるようよく言って聞かせます。どうか、どうか我らをよろしくお願いいたします!」
「は、はい……。」
俺の手を取り、力いっぱい握りしめながら熱くお願いするオリバーさん。
とりあえず落ち着いて欲しい。やんわりと手をほどきながら、話を続ける。
「では、いつこちらへ移りますか?正直家の用意もまだできていないのですが……。」
「村長殿。これから我々はあなたの村の民なのですから、そのような言葉遣いは不要です。」
「あ、そう?じゃあこんな感じで。で、いつ来ることにする?」
「我々は野宿に慣れていますから、できればすぐにでもお願いいたします。家造りも女性と子どもばかりではありますができるだけ自分らでやるように言いますので。」
「まあ、うちの建築班は優秀だから大丈夫だと思うけど、そうしてくれると助かるよ。じゃあこっちも準備だけは進めておくから、気をつけて来るように言ってくれ。」
「はい、どうぞよろしくおねがいします。あ、女性たちのまとめ役はサラという者にお願いしますので、何かあればサラに言っていただければ大丈夫です。」
「わかった。」
話も無事まとまったので、オリバーを送り届ける。ガルクには悪いが頑張ってもらった。
俺はみんなに伝えておく。エルフの集団が移住すること。家造りを早急に進めたいということ。
エルフの女性と子どもは合わせて二十四人。鬼人が二人の二十六人。冬が来る前に彼らの家を作らなければ。
トウリョウやみんなの意見も聞き、最初に仮住まいとしてノームたちのような集合住宅を作ることになった。そこを仮住まいとし、家ができ次第どんどん引っ越してもらう感じだ。
そろそろ二回目の収穫も近いし、色々急ピッチでやらないとな。
翌日には、エルド姉弟が返ってきた。
どうやら今回は見つからなかったらしい。しかし、仲間が二人見つかったこと、エルフとともにここへ来ることを聞いて喜んでいた。
恒例の宴会は鬼人とエルフたちが来たときにやることに。疲れただろうから風呂に入って早く休んでもらおう。
翌朝、朝食時に早速建築やその他の準備について指示をしていく。
一応そのときに村の再開発についても触れた。今はそれどころではないけれど、徐々にこんな感じを目指したい、ってくらいだけど。
みんな大賛成してくれたよ。やっぱり自分たちの村がきれいになるのは嬉しいらしい。
トウリョウも、村の開発案に即して建築場所を考えてくれるらしい。
そして朝食が終わるとすぐに各々仕事に取り掛かった。
鬼人とノームが総力を上げ、三日で仮住まいが完成した。壁面の漆喰が乾くのにはもう少し時間がかかるものの、雨風をしのげる場所としては充分だろう。三階建ての建物で、個室と食堂付き。将来的には宿にする予定だ。残念ながら家具までは間に合わなかったので、それはおいおいだな。
そしてその日の夕方にエルフの一団がやってきた。本当にギリギリだったんだな。間に合ってよかったよ。
「あなたが村長ですね。私はこの集団のまとめ役を仰せつかっております、サラと申します。突然のお願いにもかかわらず、私たちを受け入れてくださったこと、深く感謝いたします。何卒よろしくお願いします。」
サラの挨拶に合わせ、全員がそろって頭を下げる。
ちなみにサラはものすごい美人だ。長い金髪に海のような深い碧色の目。華奢で儚げに見えるが芯のある女性といったところだろうか。もろタイプである。そしてスタイルも良い。
いや、サラだけじゃない。エルフたちはみんな、大人も子どもも揃いも揃って美形だ。こんな美女たちに頭を下げられお願いされたら聞かないわけには行かないだろう。
「あ、ああ、よろしく。俺は村長のケイ。この村もまだ開拓途中だから、色々と力を貸してくれると助かるよ。」
ドギマギしながら話す。それを知ってか知らずか「はい。何なりと。」と笑顔で答えるサラ。
ううう。こんなとき、女性に免疫のない自分が恨めしい。
「我々は鬼人族のダリオとイヴァンと申します。どうぞよろしくお願いします。」
そういって二人の鬼人の男性がやってきた。
なんと彼ら、キャタピラ付きの手押し車を引いている。
どうやらこの手押し車はエルフたちが作ったもので、木の根や石などが多い森の中でも移動がしやすいように設計したらしい。
どうやら想像以上に賢く、進んだ技術を持っていそうだ。これは強力な助っ人になるんじゃないか?
とりあえず恒例となった風呂へ。ただ、女性陣は数人ずつグループに分かれて入ってもらう。着替えも支給が間に合わないため保留。
先に仮住まいに案内する。
「ここがみんなの仮住まいになる。ちゃんとした家ができるまではここで寝泊まりしてもらう。あ、壁はまだ乾いてないから触らないように気をつけて。」
「こ、ここに住んでよろしいのですか?」
「ちょっと手狭かもしれないけどよろしく頼むよ。」
仮住まいを見たエルフたちは目を見開いている。
どうやら今までの家とは比べ物にならないくらい立派らしい。
「これが仮住まい……。」「こんな待遇ありえない…………。」などと小声が聞こえてくる。
まあ、俺(地球)の技術とノームたちの力を使ったチート家屋だからね。ここではそれが普通なのだよ。
といっても、このままじゃ話が進まないので中へ。
女性がほとんどということもあり、あとはテレサにお願いした。
鬼人たちには新しく作った住居を一つ割り当てた。この機会に、ジェイクはエルヴィラ姉弟と同じ家からダリオ・イヴァンと同じ家へ移動してもらう。鬼人たちも互いの再開を喜んでいたよ。
そして、ようやく全員揃ったところで歓迎会&慰労会。
これから辛抱しなきゃならないとはいえ、今日くらいは豪華にね。肉や魚、野菜、果物、たくさんの料理を用意してもらった。
エルフたちは普段食事を後回しにしていたせいか、よほど空腹だったらしく大喜びだったよ。
食堂もギュウギュウになってきたし、すでに椅子が足りずにノームたちの小上がりなんかに座ってもらっている。毎日の食事もどうしよう。グループに分けて時間差で……とか決めたほうがいいのかな。
食事も終わり、各々就寝準備へ。俺は風呂に入る。
一日の汗や土汚れも、オンディーヌの疲労回復の湯ですっきりさっぱりだ。
さて、そろそろ上がろうか、と思ったとき。風呂のドアがゆっくりと空いた。
「村長……あの…………」
みると数人のエルフの女性が恥ずかしそうに、しかし覚悟を決めたような表情で入ってくる。
「は!?え!?ちょっ!!!???」
ななな、なにこれ!?どういう状況!!!???
「どどど、どうした!?」
「急なお願いにもかかわらず我々を受け入れてくださった上に、あのような立派な家を……覚悟はできております。どうぞ、村長のお心のままに…………。」
そういってじわじわと近寄ってくるエロフ、いやエルフ。
いや、まって、なに!?どうしてこうなった???
てか、やばい。俺も健全な二十歳のオトコでありまして……否が応でも、その、ヤツが起き上がってくるわけで。
「まず女性だけを受け入れたということは、我々エルフを受け入れてくださる代わりに、身体を……ということではないのですか?」
「村長のご期待に応えられるかはわかりませんが…………。」
「サラ様の司令で、特にきれいどころを集めました。まだ幼い娘もおりますので、どうか我々でご容赦を……。」
サラーーーーー!!!!!
あんたか!!!!なんて迷惑な!いやありがたいけど!いやいやいや!!
そうこういうしているうちに浴槽に手をかけるエルフたち。
ちょ、俺まだそういう経験が……人生初体験が風呂場でハーレムだと!!!???
いやいや、だめだだめだ。落ち着け俺。自分に負けるな!負けたくても負けられない闘いがここにある!!!
「ま、まったまった!!とにかく一旦出てくれ!!!」
「我々ではお気に召しませんか?」
「そうじゃないけど、ちょっと色々誤解があるから!とにかく服を着て待っててくれ!!俺もすぐ行くから!!!」
そういってなんとか追い出す。
ヤメテ。悲しそうな目で見ないで。俺だってできるなら…………!いやなんでもない。
大急ぎで服を着て外に出る。幸い風呂は俺が最後だったから、他のみんなはすでにそれぞれの家に戻っていた。
外で待機していたエルフたちをつれて仮住まいへ。そしてサラを呼んでもらう。
「サラ!」
「あら村長。その様子ですとご満足いただけなかったようで……申し訳ありません。」
「そうじゃなくて!あのさ、俺オリバーに女を差し出せと言った覚えはないんだけど!?」
「ですが、我々は庇護してもらう身。まずは女性だけというのはそういうことかと……それに、人間の下につく以上この程度のことは覚悟しておりました。むしろこのような立派な住まいまで与えられて感謝しております。」
「あーもう、根本的に食い違ってるから。あのね、俺は別に君たちに身体を売って欲しいわけじゃないの。」
「では何を差し出せば良いのでしょうか。鬼人がいる以上、狩りや力仕事で我々が役に立てるとは思いません。もちろんお金や財宝なども持ち合わせていません。ただで大勢を養ってもらおうなど、虫が良すぎます。」
「いや、エルフは超優秀な研究者なんでしょ?だったらその知識と技術を俺たちに貸してよ。それが対価。失礼な言い方だけど、正直身体なんかよりそっちのほうがよっぽど嬉しい。」
「………………。」
「………………。」
しばし無言で見つめ合う俺とサラ。改めて見ても美人だ。さっきのきれいどころに全然負けてない。
だがぐっと我慢。ここで負けてはいけない。俺は負けない。男の意地を見せてやる。
「……かしこまりました。村長がそれでよろしいのであれば、我々は従うまでです。」
ようやくサラが折れてくれた。ああ、よかった…………。
「せっかくの覚悟を無駄にして申し訳ないが、その分技術分野での活躍を期待してるから。もうこういうことは無し。いいね?」
「はい。必ずお役に立って見せます。……ただ、もし気が変わった場合はいつでもお申し付けください。」
ああもう、またそういう事言う。せっかくの俺の鋼の心が……いや、俺は負けんぞ。ここで負けたら男の恥。
据え膳食わぬは男の恥というが、もはや喰っても恥だ。ならば突き通してみせよう童貞の意地。
俺は逃げるように仮住まいを出た。