35.予想外の出会い
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八日後、ガルクとビオラが戻ってきた。
予定より早い。何かあったのだろうか。
「あら、早かったのねぇ。おかえりなさい。」
「今回は見つからんかったか……?」
「おかえり。早かったな。仲間は見つかったのか?」
「見つかったのは見つかったのですが……。」
どうにも歯切れの悪い返事だ。
肝心の仲間も連れていないようだし、どうしたのだろう。
「なんかワケアリっぽいな。とにかく話を聞かせてくれないか?」
俺たちは食堂に移動する。
ロベルトさん、テレサ、マリアさんにも同席してもらった。
「それで、仲間が見つかったって言ってたけど。」
「はい。二人の鬼人を発見しました。」
「でも連れて来てないのね。」
「断られたのか?」
「いえ、実は彼らはエルフとともにいたのです。」
「エルフ??」
エルフって、耳が尖っていてめちゃめちゃ顔が整っていて弓が得意で…………あのエルフか?
「エルフの集団の中で護衛兼狩りを担当することで、庇護してもらっていたらしいのです。こちらの村の話をしたところそれがエルフたちの耳にも入ったらしく……」
「断られたということか?」
「いえ、我々も受け入れてもらえないかとエルフたちから打診されてしまって……」
「へ?」
「流石に自分が判断できることではないと、保留にして戻ってきた次第です。」
エルフがここに住みたがっている?なんでまた?
というか、人数が増えるならこちらとしては大歓迎なのだが…………
「その……エルフっていうのは例えば人間に危害を加えるとか、何か問題のある種族なのか?」
「いえ、彼ら自体に問題はありません。自然を愛し、争いを好まず、頭の良い種族です。森の賢者と呼ばれることもあります。」
「うーん、問題ないなら仲間が増えるのはいいと思うけど、一気に何人増えるかだよな。」
「もうすぐ冬が来る。人数によっては食料が足りなくなることも考えられるのう。」
「ちなみに彼らは何人いるんだ?」
「はい。見つけた鬼人が二人、エルフたちが男女合わせて四十二人です。うち六人が子どもです。」
「全部で四十四人か。今の村の人数が精霊たちを抜いて十四人。全員受け入れた場合五十八人か。それに精霊たちの食事もあるしな。」
「かなり大所帯になるわね。」
「食料の備蓄の方はどうかな?」
「うーむ、かなり厳しいじゃろうな。鬼人が増えることも考え、二十人分であれば今のままで充分じゃが、その三倍となると、これからの収穫分を入れても足りんじゃろう。」
「魚や動物をを加工してなんとかなると思うか?」
「なんとも言えんのう。全員が辛抱すればなんとか……あとは増える住人たちがどのくらいの戦力になるかじゃな。それによって冬までに蓄えられる備蓄の量も変わってくる。」
一気に四十四人。人数が増えればできることも多くなるが、当然食料や家など必要になるものも増える。
鬼人の能力はよく知っているとして、問題はエルフだ。彼らはどの程度役に立ってくれるのか。役立たずは排除、なんてことはしたくないが、受け入れる時期を見合わせるなど調整する必要も出てくる。
うーん。何にせよ、一度本人と話す必要があるな。
「ガルク、一度エルフの代表を連れてきてくれないか。少し話がしたい。それによって今後の方針を決めるよ。」
「わかりました。」
そう言うとすぐに走り去っていった。あ、ご飯と風呂くらい入っていけばいいのに。
まあいいか、善は急げだ。
ガルクも仲間のために必死なのだろう。
翌日、ガルクは一人のエルフを背負って戻ってきた。
想像通りのトンガリ耳に金髪の壮年のエルフで、若い頃はさぞイケメンだったのだろう。今では大人の渋さがいい仕事をしている。
「はじめまして村長殿。私はエルフたちのまとめ役をやっております。オリバーと申します。」
「はじめまして、ケイです。わざわざ来ていただきありがとうございます。」
「とんでもありません!あの……それで、早速なんですが……」
「移住の件についてですね。こちらとしても人が増えるのはありがたいのですが、食料の備蓄などいろいろな調整がありまして……それにあなた方のことについても色々と知っておきたいのです。」
「なるほど。それはごもっともです。ではまず我々の種族についてお話しましょう。」
そういってオリバーさんは話を始めた。
エルフ族というのは、もとは大地の神ガイアスが人間との間に作った子どもの子孫だと言う。
美しい容姿と長い寿命、長ければ1000年ほど生きるとか。魔力が高く、知能も高い。争いは好まず、俊敏であるが力仕事はあんまり。集団で生活をし、罠を使った狩りや採集によって食料を賄っている。
また、最大の特徴はその探究心だ。様々なことについて研究し、ときにその技術や研究によって得た産物を売ることもあるとか。
「聞いたところ、そんなに困っているようには聞こえないのですが……。」
「いえ、実はこのエルフ最大の特徴が少し問題といいますか……。」
さらに話を聞く。
まあ先にも述べたように、エルフはよく言って生粋の研究者、悪くいえば超絶オタク集団だ。いや、オタクが悪いのではなく、彼らの度が過ぎている。
興味のあることに対してとことん追求し、研究、発展を繰り返す。そこまではいいのだが、他のことを後回しにし過ぎるのだ。
例えば衣食住もエルフの興味の前では全て後回し。その結果、何日も食事を取らなかったり、睡眠を取らなかったりするらしい。
本来長命種であるエルフが絶滅の危機に瀕しているのもここに理由がある。
エルフの死因の半数が過労死や栄養失調と聞いた時にはさすがに耳を疑ったよ。
「というか、そこまでなってるのに自分らの死因や解決法を研究する人はいなかったんですか?」
「いやぁ、もちろん居ましたよ。ただ、それを研究するあまり当の本人も過労で……というパターンが多く…………」
ハハハッとさわやかに笑うエルフ。
いや笑い事じゃねえよ。
一族存亡の危機だよ。
というわけで彼ら、生活能力が皆無なのである。
「それで、他種族を受け入れ、衣食住を保証してくれるという村があると聞きまして。」
「いや、別に誰でも彼でも保証するというわけじゃ……。」
こっちだって慈善事業じゃない。
村の発展のために尽力してくれる相手じゃないと。
「それはもちろん!自分で言うのもなんですが、我々エルフの知識と探究心はかなり有用であると自負しております!」
自信たっぷりに言うエルフ。
「あの、素朴な疑問なんですが……それならもっと早くに他の国や魔族領に保護を求めるべきでは……?」
「仰ることはごもっともです。しかし、人間は他種族を受け入れることに関してことさら厳しい。人族至上主義が多いと言いますか……我々の待遇は、はっきりいって奴隷に等しい扱いなのです。」
「では魔族領は?エルフは魔族に入らないんですか?」
「分類でいえば魔族です。ただ、その、食事の趣味が合わないと言いますか。彼らの主食は生肉ですし、人間の肉を嗜好していて、まあ食の壁は厚いってことですね。あと、手荒い方が多いのも…………」
困ったように笑うエルフ。
いや待て待て。今とんでもない言葉が聞こえたぞ。
「魔族って、やっぱり人間を食べるんですね……。」
「そうですね。主食は動物の肉なんですが、まあ嗜好品ですね。彼らいわく、人間の肉は格別に美味しいらしいですから。苦労してでも手に入れたいってことなんでしょうねぇ。」
私には分かりませんが。と苦笑いなエルフ。
うわぁ、俺たち嗜好品なのかーそれは光栄ですーってならんわ!!
決めた、魔族領には近づかない!!
魔族怖い!!
「とにかく!必ずお役に立てると思います!どうか我らを庇護していただけませんか?」
「そうですね……。ただ、いくつか条件があります。」
「なんでも仰ってください。」
「えと、食事は必ずとること。特別な理由がない限り、真夜中までには眠ること。体調に異変を感じたらすぐに誰かに相談し指示に従うこと。例えしばらく研究をやめろと言われても、です。」
守れますか?という俺に、エルフは難しい顔で一人悩んでいた。
え、そんな無理は言ってないでしょ。ほとんどあんたらの健康のための約束だよ。
「うーむ、もし研究をやめろと言われてしまったらそれこそエルフ生の終わりです。それに真夜中までに眠る……これまで何度かしか経験したことがありません……我々に守れるでしょうか……しかし、この村に住まわせて貰うためには…………」
うーん、うーんと悩むことおよそ五分。
覚悟を決めたような顔でエルフは答えた。
「…………条件を全て飲みましょう。ですからどうか、我々を受け入れてください!!!」
そんな、奴隷契約のような条件出した覚えはないんですけど。悲壮な顔やめて貰えますかね。