30.収穫祭
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「村長殿、そろそろ畑の作物がいい頃合いじゃ。」
お酒を仕込んでしばらく経ったある日、ロベルトさんが俺にそう告げた。
「もう、その呼び方やめてよ。」
「ほっほっ。村長は村長じゃからな。敬意を払って悪いことはないじゃろ?」
いたずらっぽく笑うロベルトさん。これは完全に俺の反応を楽しんでいるな。
村長に就任して以来、鬼人たちは俺のことを「村長」と呼び、めちゃくちゃ丁寧に対応してくる。
最初は「別に上下関係とかなく、対等な仲間なんだからもっとフランクにしてよ。あと『村長』じゃなくて『ケイ』でいいよ。」といちいち訂正していたのだが、極端にへりくだった態度はともかく呼び方は一向に変わらないのでもう諦めた。
最近は他のみんなも「村長」呼びしてくる。
ロベルトさんやテレサなんかは面白半分というのがありありと分かるからたちが悪い。
それはさておき、畑のことだったな。
「じゃあ、そろそろ収穫といこうか。たくさんあるから一大イベントになりそうだな。」
俺はさっそくトウリョウにそのことを伝えた。
トウリョウは大きく頷くと、各帽子隊のリーダーに指示をする。
詳細はわからないが、きっと今進めている仕事の調整なんかをしてくれているのだろう。
あとは森の仲間も呼んでくれることになっている。
他のみんなにも仕事を一時中断してもらい、いよいよ大収穫祭だ。
翌日、朝食を終えて早速みんなに集まってもらう。
ロベルトさんいわく、時期によって多少前後するが、収穫は大きく三回に分かれるらしい。今日はその一回目だ。
役割分担を発表し、それぞれ道具を持っていざ作業開始。
以前は全員で畑仕事をしていたのだが、部署を分けてからはこうして全員が畑に来ることも少なくなった。
久しぶりに見る野菜たちの見事な成長っぷりに他部署担当は驚いている。
特に初めて畑に入ったであろう鬼人たちは、一面に広がる立派な野菜たちの姿に感激していた。
時間も惜しいのでどんどん収穫していく。
収穫した野菜は種類ごとに木箱や麻袋に入れ、食料庫へ。かなり重いので運搬は鬼人たちが担当だ。
ちなみにカルナは収穫班にいる。フランカと一緒にトマトを収穫。
トマト好きなフランカは、潰さないようにことさら丁寧に扱っていた。
カルナは見た目は人間だが、鬼人特有の身体能力は受け継いだらしい。トマトがたっぷりはいった重そうな木箱を重ねて軽々と運んでいく。
フランカは「カルナすごーい!!」と尊敬の眼差しだ。
危ないから真似だけはしないように言い聞かせる。
オリーブの実がいい感じに採れたので、オリーブオイルも作ってみる。
マリアさん監修の元、セシルとフランカ、カルナ、ゼノの子どもチームに担当してもらった。
オリーブの実をひたすら潰していく。
黒い実は簡単に潰れるが、緑色の実は固くて大変らしい。うーん、緑の実は収穫しない方が良かったか?
鬼人の二人はさすがの力でどんどん潰していく。セシルも負けずと頑張る。この2人、なんだかんだ仲の良いライバルみたいな関係になっていて微笑ましい。
フランカとカルナはいたって平和。
「カルナーこれ硬いー潰してー。」
「いいよー。」
うん、和む。
子どもチームに頑張ってもらい、全て潰し終えたら布でギュッと絞る。
濁ったオリーブの汁を一晩ほど放置すると、油分が上の方に分離してくる。それを静かに掬い取れば完成だ。
かなりたくさんの実が取れたので、とにかく潰しては絞るを繰り返す。
さすがの子どもたちも疲れたようなので、ご褒美として久しぶりに飴玉を。
一気に元気になる子どもたち。現金なヤツらだが、素直なのはいい事だ。
三日ほどかけてすべての収穫、仕分け、貯蔵が完了した。
今日は収穫祭という名の宴会だ。
もちろん主役はとれたての野菜たち。小麦粉があるので、ピザを教えてみた。
テレサやマリアさんが小麦粉と水で生地を作り、トマトを潰したフレッシュトマトソースを全体に塗る。そこに思い思いの野菜を乗っけて焼けば出来上がりだ。チーズがなかったからそこは次回に持ち越しだな。おれとしてはチーズなしのピザは物足りなかったのだが、みんなには大好評で特にセシルはめちゃくちゃ気に入ったらしい。
「村長は天才だな!!!」
と、軽く十回は言われた。
喜んでもらえて何よりだよ。つぎはもっと美味いピザを食わせてやるからな。
宴会が終わった後、ガルクに「そろそろ二回目の仲間探しに行きたい。」と打診された。
そうだよな、鬼人たちも仲間の存在は気になっているはずだ。
冬になる前に見つけて移住してもらったほうが良いし、二回目の収穫までしばらく開くだろう。うん、いい頃合いかもしれない。
翌日、みんなにそのことを告げた。今回はガルク、ビオラ、エルド、エルヴィラが探しに行くことになった。
流石に鬼人の大人が全員いなくなるとこっちの仕事が滞るため、ナディアには残ってもらう。
ナディアは鬼人の里でビオラに毛皮加工の手ほどきをしてもらっていたらしいので、ビオラの進めていた毛皮加工をやってもらおう。
ということで旅の支度だ。前回と同じように干し肉やなんやを鞄に詰める。
ガルクとビオラは自分たちがいない間にと立派なオスのシカを仕留めてきてくれた。
解体もしてもらい、肉は地下の貯蔵庫へ。まだ作りかけだがこのくらいのスペースならある。太陽が届かないというだけでひんやりと冷たかった。
角なんかも加工できたらいいのにな。とりあえずそのまま保管しておく。
エルド姉弟はノームたちの使用する建築資材を集めてくれた。大きな丸太を何本も担ぎ、軽々運び込む。ノームたちは大喜びだ。そしてしっかり人差し指ポーズもやっていた。いつの間に覚えたんだ。
とはいえ、これで大分建築の方も捗りそうだ。
俺はと言うと、チーズ作りの準備中だ。
昨日思いついたチーズの生産、忘れないうちに実行しておきたい。
たしか牛乳をよく振るとできるんだったっけか?
昨日はうっかり転移をせずにそのまま寝てしまった。なのでぼんやりとした記憶を頼りにやってみる。
しぼりたてミルクを瓶に入れ、ひたすら振ってみる。
……何故かバターができてしまった。
これはこれでいいけど、やっぱり調べないとチーズは無理っぽい。
「村長殿は何をやっておるのじゃ?」
「あ、ロベルトさん。実はチーズを作りたかったんだけど、なぜかバターができてしまって……。」
「チーズとな?チーズは乳を温めて酢を入れるんじゃよ。どれ、わしがやってみせよう。」
そう言うと、ロベルトさんは残ったミルクを鍋に入れ、火にかける。
湯気が立ってきたところでお酢(ここで初めてお酢があることに気づいた)を加え、混ぜていく。すると何やら塊ができた。
「この塊をカードと言ってな。のこった汁をホエイと言うんじゃ。このカードを沸いた湯の中で練ればチーズができるぞ。」
「やってみるか?」と俺にカードを渡すロベルトさん。というか、こんな簡単にできたのか。
ちなみに流石に熱々のお湯に手を突っ込む勇気はなかったので、木のスプーンを使った。
しばらく折りたたむように練っていくとテレビでよくみるまん丸いモッツァレラチーズが完成した。
ロベルトさん、チーズの作り方知ってたのか……。なんか今まで地球の知識に頼りすぎていたのかもしれない。
ちょっと反省した俺だった。
せっかく作ったので、バターとチーズはその日の夕食に使ってもらったよ。マリアさんが喜んでくれたから良しとする。
そして翌日、夜明けとともに鬼人たちは旅立った。