3.拠点
一行は川のそばで遅めの昼ごはんにすることになった。
セシルは魚とりが得意なようで、木の棒の先に欠けたナイフのような刃物をくくりつけたお手製の銛でどんどん魚を獲っていく。
俺は魚捕りでは戦力になりそうにないので、セシルが捕った魚を持つ役目だ。この川の魚は活きが良く、激しく暴れていたが、せっかくの獲物を逃さないようにしっかりと掴んだ。
また、そのへんにあった大きめの石を運んで竈も作った。
竈作り自体はロベルトさんが作ったが、石運びも結構な重労働だ。
「やっぱり男手があるといいねえ。」
「本当に助かるわぁ。」
テレサとマリアは上機嫌だ。
食事は川魚をブツ切りにして塩や野草で味付けをした焼き物だ。
一人じゃふやけた干し肉しか食べられなかったから、本当にありがたい。
特に今日の魚は「当たり」だったらしく、フランカちゃんは「お兄ちゃんが獲ったお魚おいしーね!」とはしゃぎ、「お仲間が増えたことを神様が祝福してくださっているのかしらねぇ」とマリアは喜んでいた。
本当にそうなのかな?ディミトリオス様、ありがとう。
食事をしながら、これからのことについて話した。
テレサたち一行は特に目的地があるわけではなく、旅をしながら良さそうな町や村があったら住まわせてもらう予定だったらしい。
ただ今の御時世どこもギクシャクしており、治安も良くないと言う。
そりゃ、住み慣れた村を離れるくらいだもんな。
それならばいっそ、ここに新たな集落を作ってしまえばどうか。
テレビでも人里離れた山村で自給自足生活をする家族とかを見たことがあるし、世界(地球上のね)にはそういった家族も少なくないだろう。
ただ、この人数で集落を、といっても現実的に受け入れられるだろうか。
俺はディミトリオス様から直接話を聞いているから別として、他のみんなを説得するためには。
考えた結果、俺は自分の話をした。
正直、どこまで信じてもらえるかはわからないし、「自分は転生者でおそらくあなた方の子どもとして生まれます」なんてアホかと思われそうだからそこは伏せるとして。
自分には『天啓』という特殊な力があること、『天啓』に従った結果、テレサたちに会えたこと、新しい集落も神様がきっと導いてくれることなどを話した。
正直、どこのカルトの勧誘だよ、と自分でツッコミを入れたくなったが、ここの世界の人達は信心深いのか、割とすんなり信じてもらえた。
「でも、どこに拠点を作るの?この辺りは人の手の及ばない森。魔物だって出るかもしれないわよ。」
「人の手が及ばないということは、逆に言うと人族から危害を加えられる可能性は減るんじゃないですか……じゃないか?そして、俺は神様の導きでここまで無傷で来れたから、魔物の類も大丈夫だとは思う。」
もちろん、用心に越したことはないと思う。でも、なぜかこの辺りは大丈夫という気がした。これも『天啓』でディミトリオス様とつながっているおかげかな。
「ロベルト、このあたりのことについてなにか知ってるかしら?」
「ううむ、随分と昔の話じゃが、このあたりの古い地図を見たことがある。それによるとこの森をもう少し行ったところに開けた場所があるはずなんじゃが、何しろ遠い昔の記憶でな。それにこの当たりは開拓もほとんどされておらん。あまりあてにはできん気もするのう。」
「だったら、行って見る価値はあるわよ。川沿いに進めば水には困らないし、ここで悩んでいてもしょうがないもの。」
マリアが朗らかに言った。
「おれ達だけの村作るのか!?すげえ!なんか楽しそう!」
「またおうちに住めるの?やったー!!!」
子どもたちも俺の案に賛成のようだ。
「ま、これもなにかのご縁だし、やってみてもいいかもね。」
テレサの一言が決め手となり、俺達は拠点を決めて集落を作ることにした。
となると、その『開けた場所』っていうのを探さないとな。
食事を終えた一行は、夜の分の食事も用意し、つるつるとした葉っぱ(この世界ではありふれた葉らしい)に包んで出発した。
川沿いに下り、森を抜ける。
太陽が西に傾き始めた頃、唐突に森を抜けた。
森を抜けたと言うよりかは、森の中に唐突に空き地ができた感じだ。
これもディミトリオス様の力かと思ったが、ロベルトさんが地図で見たってことはもともとあった地形なんだろう。
川も近くにあるし、いい感じに地面は平らだし、うん、なかなかいい場所なんじゃないか?
「おお、おそらくこれじゃ、記憶違いでなくてよかったわい。」
「さすがロベルトねぇ。いい場所じゃない。」
「ほんとに魔物に全然会わなかったねえ。」
「すっげー!広い!!」
「わーい!ついたのー?」
みんな口々に喜んだ。
「ええと、じゃ、この場所でいいですか……いいかな?」
まだ慣れずに敬語を使ってしまう。うん、少しずつ慣れていこう。
「賛成!」
「さんせー!!」
「わしも賛成じゃ。」
「もちろん私も賛成よ」
「うん、いいんじゃない?私も賛成。」
満場一致だ。
「早速、夜を明かす準備をしようかのう。」
「そうだね、流石に小屋は無理でも、日が落ちる前に竈やらなんやらは作っておきたいしね。」
「じゃー俺、水汲んでくるよ!フランカ、行くぞ!」
「うん、フランカもお兄ちゃんについてくー」
「じゃあ、俺は、竈の石と薪を集めてきますね」
俺とロベルトさんの男性陣が竈と薪集め、女性陣は食事の用意、子どもたちは水くみと別れ、作業に移った。
ロベルトさんの石組みの速さと女性陣が昼に食事の準備をしてくれたおかげで、なんとか日が暮れる前に火をおこして食事を作ることができた。
流石に小屋は間に合わなかったから、今日は野宿だ。
「あっ……とその前に。」
「ケイ?どうかしたの?」
「あ、これをちょっとね」
訝しむテレサに種を見せる。神様から餞別にもらった種。拠点が決まったら植えろって言ってたっけ。
ここが拠点になるんだし、ここに植えるってことでいいんだよな?
「木の種なんだけど、俺達の集落のシンボルとして植えてもいいかな?」
「あら、いいじゃない。せっかくなんだからみんなで植えましょう。」
テレサがみんなを呼び、空き地の中心に集まった。
「記念樹ね!なんだかワクワクするわ。」
「火を囲んで木を植えるとは、なかなか特別感があって良いのう。」
「よくわかんないけど、なんかすげー!!」
「すごいね、かみさまの木なの?」
大人も子どももはしゃいでいる。
うんうん、なんかこういうのって、キャンプファイヤーみたいでワクワクするよな。
「それじゃ、ケイ、代表で植える前に一言お願い」
「えっ!?えと……じゃあ、僕たちの新しい居場所に、神様の御加護がありますように。」
いきなりテレサに促され、若干グダってしまったが、気持ちを込めて種を植えた。
ディミトリオス様、どうか見守っていてください!
すっかり辺りは暗くなり、フランカがあくびを始めたので、今日はもう寝ることに。
荷車の周りに女性陣と子どもたち、焚き火を挟んで男性陣。
男性陣は交代で夜の番をすることになった。
病院のベッドとは比べ物にならないほど寝心地は悪かったが、疲れていたのか、ロベルトさんに「先に休みなさい。」と促されると、すぐに眠りについてしまった。