29.ビールとワイン
地球に帰り、早速ビールとワインの作り方について調べた。
久しぶりの地球、なんだかものすごく懐かしく感じる。
こっちの時間からしたら全然久しぶりじゃないんだけどな。
ふむふむ、酵母とやらがいるのか。
干した果物を発行させて…………ダメだな。時間がかかりすぎる。
お酒自体も発酵や熟成が必要なら、そんなにのんびりもやってられないだろう。
しょうがない。今回は市販の酵母を持って行っちゃおう。
…………いやまてよ、これってパンの酵母と同じじゃないのか?
パン酵母なら小麦を収穫した際にテレサとマリアが作り始めている。一応持っていって、手作り酵母が使えそうだったらそっちを使おう。
あとは酒樽も作らないとな。
ほうほう、こんな酒もあるのか…………なるほどなるほど。
結局時間を忘れて一晩中パソコンを見ていた。
見回りの看護師さんたちの間で、「夜な夜な不気味な笑い声を漏らしながらパソコンを開いている。」と噂されることになるとは全く知りもしないケイであった。
地球に帰ったということで、姉貴に連絡する。
シルクやウール、毛皮が手に入ったことを告げると大喜びしていた。
「これでデザインの幅が広がるわー!!」と上機嫌だ。せっかくなので、冬ものの服や防寒着のアイディアを出してもらう。
翌日には画像データが送られてきたので、貰ったプリンターでプリントアウト。
そういえば村に編み針なんてあったっけ?一応持っていくか。
あと、昨日調べてふと思い出したんだが、村には米がない。日本人なら米は必須だ。急いで種籾を注文する。ついでにもち米の方も。
俺おもち好きなんだよな。来世の俺にも食べさせてやりたい。そういうわけでこれもポチッと。
あ、もちといえば醤油だ。醤油といえば大豆だ。大豆も植えよう。
農業コーナーを見ていたら、あれもこれもと色んなものが欲しくなる。結局追加で桃やリンゴ、オレンジなんかの果物も買ってしまった。桃栗三年、柿八年。世界樹のおかげでそんなにはかからないだろうが、気長に育ててみよう。あ、柿も買っとこ。
ロベルトさんが大変だが、豊かな食生活のためにも頑張ってもらいたい。
ちなみにそろそろ俺の所持金もやばい。これもなんとかしないと。
転移でエルネアに戻る。
隣ではロベルトさんのかすかないびきが聞こえる。
俺は音を立てないように静かにベッドを抜け、転移で持ってきた荷物を棚へ。
ふう、あとは明日になってみんなにビールづくりの指導だ。
翌朝、早速みんなに広場に集まってもらう。
今日は大麦の収穫。ビールには大麦を発芽させた「麦芽」というのが必要だから、なるべく今日中に収穫して水につけておきたい。
全員総出で収穫作業だ。
麦畑は見事な黄金色に実り、風に揺れてザワザワと音を立てる。粒もよく膨らんでいるし、うん、いい大麦だと思う。
つぎつぎに収穫し、脱穀していく。脱穀の道具は以前作ってもらった小麦の脱穀機をそのまま使う。
脱穀したら水につけて発芽させる。大急ぎでやったものの、結局二日かかった。
発芽を待つ間に、鬼人たちには羊を確保してもらう。ついでに水牛も。その結果今現在羊が六頭に水牛三頭、ココトリが四羽。
鬼人の人数が増えたことで本当にそれぞれ一日で連れてきた。
これを機に牧畜エリアを新たに作った。
ノームたちには負担をかけるが頑張ってもらう。報酬として支給する食料を増やしておいた。
そうそう、畑も広げないと。やることが多くて忙しい。
と、思ったら、見かねたライアが魔法で一気に土を耕してくれた。地面が一斉にボコボコと隆起する様子は少し怖かったが、その後にはロベルトさんも「完璧だ!」と太鼓判を押すほどのフッカフカの土ができていた。
ロベルトさんが慣れた手付きで畝を作り、ライアもそれを見て同じように魔法で形作る。おかげで畑の拡張は一気に終了した。
さすがは世界樹の精霊、魔法のレベルが違う。拝み倒すロベルトさんに、ライアは少々困っていた。
二日後、大麦の実からちょろっと白いものが生えていた。無事に発芽をしたようだ。ここから本格的にビールづくりに取り掛かる。
まずは麦芽を乾燥させ、砕いていく。
お湯を加えて沸騰しない程度に一時間ほど煮込む。本当は温度管理とかもしたほうがいいんだろうけど、温度計がないので仕方ない。
次にホップを加えて…………んん?ホップ?
やばい、ホップの存在を完全に忘れていた。もちろん持ってきていない。
どうしよう。このへんにホップって存在するのか?
「あ、あのさ、この辺にホップって見たことあるか?」
「ホップ?さあ、みてないねぇ。」
テレサが首を傾げる。マリアさんも、ロベルトさんも。
これはいよいよ本格的にまずいかも。
そんなとき、ゼノが手を上げた。
「あの、ホップウッドなら山の中にポツポツありましたよ。ホップってホップウッドの実ですよね?」
「それだ!悪いんだけど、大急ぎで採ってきてくれないか?それがないとビールが作れないんだ。」
さすが鬼人、森の植物に詳しい。マッピング担当のゼノは植物の分布にもちゃんと気を配っていたようだ。
大急ぎで鬼人たちにホップをとってきてもらう。めちゃくちゃ頑張ってくれたのか、一時間で戻ってきた。
早いな君たち。
「ありがとう!助かったよ!」
「いえいえ、お役に立てて何よりです!」
額の汗を拭いながらエルドが答える。
よし、これでビール造りが再開できるな。
ホップを加えて煮沸し、急冷。
ここで酵母を加える。マリアたちの手作り酵母もあったが、念の為手作り酵母ビールと市販の酵母ビールの二種類作っておく。
樽に詰めて発酵。一週間ほどで発酵が完了するはずだ。
発酵が完了したら沈殿物を入れないように上澄みだけ取り、少量の糖分を混ぜ込んで樽詰め。二週間ほどで二次発酵が進み、ビールができるはずだ。
付け焼き刃の知識だが、なんとかなるだろう。
発酵の際は世界樹の根本に簡易小屋を作ってそこにおいた。
世界樹の加護の恩恵で少しでも美味しくなってほしい。
ビールばかりにかまってもいられなかった。
季節は移ろい、そろそろ秋になる。そう、収穫の秋である。
作物たちがいい具合に実ってきた。
ついでにブドウも。ビールに続いてワイン造りができそうだ。
先にワインを仕込んでしまおうということで、またも全員総出でブドウの収穫。
そんなにたくさん植えたわけではないのでわりとすぐに終わった。これからもワインを作るならもっとブドウ畑を増やしてもいいな。ワインだけじゃなく純粋にブドウも楽しみたいし。
ブドウの実を外し、水でよく洗う。一粒一粒外すのは意外と重労働だ。
子どもたちにはつまみ食いしないように言い聞かせる。フランカは「えー……」と渋っていたが、大切な取引材料だから今回はごめんな。その代わり他の果物を沢山食べよう。そう言うとすぐに機嫌を直した。
洗ったブドウを潰していく。本場フランスでは踏んで潰していたらしい。ということで、俺たちも踏んで潰すことに。手より足のほうが体重が乗る分潰しやすいしね。
もちろん足をよーく洗って、念の為オンディーヌたちに浄化の魔法もかけてもらった。
ぐちゃぐちゃとブドウを潰すのはなんだか罪悪感もあるが、子どもたちはキャッキャ笑いながら楽しんでいた。
当然服はブドウの汁まみれ。
ま、紫染めの服ができたと思えば儲けもんだ。意外と前衛的で良いデザイン……に、見えないこともない。うん。
潰したブドウに酵母を加え、樽につめて発酵、熟成。
これももちろん世界樹の前へ。どうかどうか、美味しいワインに仕上がりますように。
全員で祈っているときにふと思った。もう少し発展したら、神殿とか建ててもいいんじゃないか?世界樹や精霊たちにはお世話になっているし、ディミトリオス様にも『転移』の力なんかを貸してもらっている。うん、神殿、いいかもしれない。
無事にビールとワインを仕込み終えた。
あとはうまくいくことを祈りながら発酵を待つ。
せっかくの初酒がドワーフたちに渡るのは少し悔しいが、鉄製品獲得のためにしょうがない。
あいつらが飛びつくような美味い酒ができますように。待ってろよ、ドワーフ。
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