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28.森の鍛冶屋

「鉄か……たしかに困ってたのよね。」

「調理器具も鉄製品があると助かるんだけどねぇ……。」

「収穫用のハサミなんかの農具にも欲しいのう。」

「獣の解体も、今のナイフがそろそろだめになりそうです。」


 口々に声が上がる。やっぱみんな困ってるんだな。

 これは早くなんとかしないと。


「鍛冶の経験がある人はいるか?」


 全員が首を振る。ダメか。

 地球で調べれば、やり方はすぐに分かるだろう。

 ただ鍛冶は職人技だ。理屈を詰め込んだだけでできるほど簡単じゃないと思う。

 テレビとかで見た職人とかも、何年も修行したって言ってたしな。


「前の村では普通に鍛冶屋があったのか?」

「あるにはあったけど、質はあんまりって感じね。たまに大きな街の方から来る行商とかから買うほうが多かったわ。」


「鬼人たちはどうしてたんだ?」

「そうですね、人間に近い姿のものがバレにように変装をして買いに行ったりしてました。あとは……ドワーフたちから。」

「ドワーフ!?」


 ドワーフってあのドワーフか?

 小さくてひげがもじゃもじゃで、鍛冶や宝石なんかに詳しいあのドワーフ??

 最高じゃないか。本やゲームに出てくる限りではものすごく腕がいいらしいし、何ならこの村に移住してもらえたらありがたい。


 でも、なぜかガルクは乗り気ではなさそうだ。


「……ただ、自分としてはあまりおすすめできません。」

「ん?なんでだ?」

「彼らは利に聡いというか、ずる賢いと言うか……こっちが人間から物を買えないとわかると急に値を吊り上げてきたり、わざと見習いが作った質の良くないものを売りつけて何度も買わせようとしたり……もちろん職人が本気で作る品は素晴らしいものなんですが。公正な取引ができるかと言われると…………」


 なるほどな。客を見てコロコロ態度を変えるタイプなのか。

 たしかにそれはあまり取引したくないタイプだな。

 移住してもらうにしろこちらが買いに行くにしろ、互いに気持ちの良い取引ができなければ意味がないと思う。


「うーん、どうしようか。」

「ちょっとよろしいですか?」


 ライアがすっと手を挙げる。


「どうした?なんかいい人材を知ってるとか?」

「ドワーフたちですが、たしかにずる賢く厄介な相手ではあります。しかし、腕が確かなのも事実です。分類で言えば魔族に近いにもかかわらず、彼らが作るものは王都や国の重要都市でも売られているのですよ。大金を積んででも欲しい。そんな相手が後をたたないのも本当なのです。」

「うーん、でもなぁ。腕は確かでも、その腕をちゃんと披露してくれるかというとそうじゃないんだろ?」

「要は、真面目に取引しないといけない相手、と思わせることが重要です。それができれば不当な値上げや品質低下はされませんよ。彼らの沽券に関わりますから。」

「なるほどな。」


 つまり、なめられなきゃいいってことか。

 となると最初が肝心。そしてこっちが求めるばかりじゃダメだな。

 向こうもこちらの示す利に飛びつかせる必要がある。対等、いや、こっちが優位になるくらいの何かがあれば。


「ライア、ガルク、ドワーフの弱点ってなんだ?」

「弱点ですか?」

「好きなものとか、苦手なものとか。」

「そうですねぇ……たしか彼らは貯蓄が苦手ですね。」


 ガルクが言った。

 貯蓄?貧乏なのか?刀とか細工とか売れてそうなのに?


「彼らは目先のことに関しては聡いんですが、長期の計画性となると……例えば冬場に食べ物なんかに困って、よく物を売ったり買ったりしています。鬼人の里に来るのもほぼ冬場でしたね。」

「自給自足とかしないのか?」

「気長に育てる農業はそもそも彼らは好みませんし、狩りが主流ですね。ただ力は強いですが俊敏性にかけるらしく成功率はそれほど高くないとか。」


 なるほど、それで狩りが得意な鬼人の里に肉を貰いに来るわけか。

 でも、貯蓄が苦手と言われてもなぁ…………。


「……もう一つ、これは苦手ではなく好きなものですが。」


 今度はライアだ。


「なんだ?」

「ドワーフたちは無類のお酒好きです。計画性がないのでどんどん飲みます。なので常にお酒を求めていますよ。」

「それだ!酒を作ろう!!」


 これはいい知らせだ。


「村で酒を作るんだよ。それでドワーフに提供する。ついでに冬場の食料が乏しいならそれも買えるぞと思わせるんだ。それならドワーフたちもこっちを無碍にはできないだろ?」

「なるほどのう。酒を作るとは良い考えじゃな。」

「上手くできたらみんなで飲めるしね。」

「村の特産にもなるかもしれないわねぇ。」

「旨い酒でしたら、ドワーフも飛びつくはずです。」


 こうして急遽、俺たちは酒を作ることになった。

 鉄を手に入れる話から酒造りとはなんとも飛躍したが、今の所それしか浮かばないのでしょうがない。

 ちょうど大麦の収穫時期だし、まずは手始めにビールからだな。

 それにもう少しでブドウも収穫できる。ブドウがあればワインを造れるだろう。


 よし、決まりだ。さっそく地球でビールとワインの作り方を調べよう。

 ちなみに俺は酒を飲んだことがない。20歳になる前から病院ぐらしだったからな。

 まさか人生初の酒が異世界でになろうとは。しかも手作り。

 味の予想がつかないけれど、そこは大人チームに意見を聞きながら頑張ろう。




 その夜、俺は久しぶりに地球に転移した。

 あ、ちなみに歓迎会は外でバーベキューをした。みんなでバーベキューは2回目だな。

 今回はちゃんと肉もたっぷり焼いたよ。久しぶりの宴会は楽しかった。やっぱり定期的にこういうのをするのもいいね。





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