27.村長
今日はみんな疲れただろうから、歓迎会は明日行うことに。
三人の家がないので、救護室兼来客用住居に案内する。
ガルクたちが運ばれてきたときにそういうのもあったほうがいいと考えてノームたちに作ってもらったのだ。
半個室でベッドが四つ。木製のついたてで分けてある。
ベッドで寝られるなんて久しぶりだとエルドたちは大喜びだ。
ゼノとカルナも久しぶりに会えた仲間と色々話したいらしく、今日の特訓は中止だ。
セシルは笑顔で「ちぇっ、しょうがないなぁ。明日は付き合ってよ!」と送り出した。
ガルクとビオラは顔を見合わせる。そうだよな。二人がいない間にめちゃめちゃ仲良くなったんだから。
翌日、朝食を食べながらある提案をする。
ずばり、まとめ役についてだ。
なんだかんだ人数も増えてきたし、全体をまとめるリーダーみたいな存在がいたほうがいいと思う。
一番年長だし、なんとなくロベルトさんかな。そんな思いで提案した。
「確かに、まとめ役は必要ね。これから人数も増えるだろうし。」
「ふふふ。いよいようちにも村長が誕生するのねぇ。」
「いよいよ村らしくなってきたのう。」
「自分たちも異論はありません。」
みんな賛成してくれたようだ。
あとは誰をまとめ役にするかだけど。
「それなら、ケイがいいと思うわ。」
唐突にテレサがそんなことを言う。は?俺?
「え?俺?ロベルトさんじゃなくて?」
「だって、村を作ろうと言ったのはケイじゃない。世界樹を植えたのも、いろんな技術なんかを提供してくれたのも全部ケイ。あんた以外に誰が村長になるのよ。」
「そうねぇ。ケイのおかげで私たち、夢のような生活を送れているんだもの。」
「それに、『天啓』を持つケイが村長になれば村も安泰じゃろうて。」
「おれもいいと思うな。」
「フランカもー!」
何故か俺以外の全員が俺を推薦してきた。
困ったようにガルクたちの方をみる。
「自分たちも、賛成です。どうかよろしくお願いいたします。」
にっこり笑われてしまった。
「はい、じゃあケイが村長で賛成の人?」
テレサの言葉に全員が手を挙げる。
うう、まじかよ。……しょうがない、腹をくくろう。
「わかったよ。村長になる。ただ、みんなの意見も色々聞かせてくれよ?みんなのこと頼りにしてるんだから。」
「もちろんよ。」
「村を作るのはみんなだものね。」
「年寄の知恵が役に立つならいつでも。」
「「「「「「「精一杯働きます。」」」」」」」
「おれも頑張るよ!」
「フランカもがんばる!!」
こうして俺は村長になった。
さっそく、第二回の村民会議だ。
といっても、流石に全員は多すぎる気がしなくもない。
だから各部署からリーダーを決めて参加してもらうことにした。
リーダーは会議の前に部署ごとの意見をまとめておき、会議の場で提案する。
会議で決まった内容を部署全体に知らせる。
とりあえずこんな形で始めてみよう。
部署と言っても、担当者が少ない分ほぼ自動的にリーダーが決まった。
畑部署はロベルトさん。あと副村長も兼任してもらう。
「ほっほっ。村長の右腕としてがんばりますぞ。」とやる気満々だ。
服飾はテレサ。今の所テレサとビオラしかいないけどね。あ、シルキィもいたか。
建築はトウリョウ。
食事はマリアさん。
食料調達部署兼、鬼人代表でガルク。
探索部署はゼノ。ゼノは子どもの自分がと驚いていたが、賢いし、大人びているからまあ問題ないだろう。
父親のガルクもいるしな。
そして精霊代表でライア。
各部署の意見をまとめる時間をとるため、会議は夕方からだ。
あっという間に時間は過ぎ、会議の参加者が食堂に集まる。
そして第二回村民会議が始まった。
「ええと、じゃあまずは今の村の状況からだな。まず畑から頼む。」
俺のぎこちない進行のもと、会議がスタートした。
しょうがないだろ。こんな経験ないんだから。
「うむ。畑の方じゃが、世界樹の加護のおかげでよく育っとる。今は野菜畑にじゃがいも、たまねぎ、トマト、キュウリ、人参、ナス、オクラ、大葉、赤シソ、カボチャ、イチゴ、ハツカダイコン、トウモロコシ。あとは小麦と綿花、亜麻。果樹園にはオリーブと木苺、プラム、サクランボ、ブドウじゃな。水やりはオンディーヌ様のおかげで問題はないが、収穫時の人手がちと厳しいの。これから秋の大収穫期を迎える。場合によっては応援を頼むかもしれん。あとは冬場の備蓄じゃな。日持ちする野菜を増やして置くためにも、畑の拡張もいるのう。」
「それなら他の仕事を調整しつつ、なんとか人手を確保しよう。野菜の収穫時期についてはよく観察して早めに教えてくれ。」
「あいわかった。」
「畑について、意見や質問はあるか?」
手を上げたのはトウリョウだ。
ライアに通訳を頼む。
「収穫の折りには、森から仲間を呼んで手伝いができるそうです。ただ、そのかわりに森の仲間たちのために冬用の食べ物を少し分けてほしいそうです。」
トウリョウも頷く。なるほどな。労働力の提供はありがたい。
「それが可能ならぜひお願いしたい。提供する食料は確保できそうかな?」
「念の為じゃがいも畑を拡張したいのう。あとの野菜たちはまあ大丈夫じゃろう。」
「OK。じゃあ畑はじゃがいもを中心に日持ち野菜エリアを拡張していこう。ノームたちの支援もお願いする。連絡係はトウリョウにまかせて良いかな?」
大きく頷くトウリョウ。よし、とりあえず収穫関連はいいかな。
「他になにかあるか?___じゃあ次は、服飾関係頼む。」
「おかげさまで綿と麻の生地は順調よ。あとビオラのおかげで毛皮加工も徐々に進んでる。だんだん涼しくなってきたし、防寒用の服も作りたいわね。麻はしばらく良いとして、綿と毛皮、あと羊毛に力を入れたいわ。欲を言えば羊もあと数頭ほしいところね。糸繰り機や機織り機も増やしてほしいわ。」
「ふむ。羊か。ガルク、また生け捕りにして連れてこれるかな?」
「はい。羊の生息場所は覚えておりますので大丈夫です。少し遠いですが、鬼人を数人派遣してくれれば一日でこと足りるかと。」
「心強いな。じゃあそれで頼む。仕事の調整は全体を聞いたあとでやろう。」
「機械関連はノームたちに頼みたいが……先に建築関係の状況について聞こうか。」
「今は家畜小屋やその周りの柵、あと鬼人たちの新居を建設中です。家畜を増やすのであれば思い切ってエリアを広げて作るのもありだそうです。服飾系の機械については家具作り担当の緑帽子隊にやらせましょう、とのことです。あと橙帽子隊からレンガができてきたという報告がありますが、どこに使用するかを聞きたいそうです。」
そうだ。レンガの存在をすっかり忘れていた。
「レンガか。家屋に使ってもいいけど途中から材料を変えるのもな……なんかいいアイディアないか?」
「街道……は時間と数がかかりすぎるわね…………」
「それなら、暖炉はどうかしら?冬に備えて各建物に暖炉があると良いと思うの。」
マリアさんの案である暖炉、いいなそれ。
ここの冬がどれくらい寒いのかはわからないが、山間の森の中だから冷え込むことは間違いないだろう。
「よし、レンガの使い途は暖炉にしよう。余った分は備蓄……か、広場の舗装はどうだ?みんなが一番集まる場所だし、シンボルである世界樹もあるから、きれいにしておきたいと思うんだけど。」
「いいわね。たしかに今の広場はただの空き地って感じで寂しいし。」
「世界樹の周りをきれいにしていただけるなんて、世界樹も喜びます。」
「あとはなにか気づいたことあるか?」
「獣の解体所の近くに、肉専用の保管庫があるとありがたいです。食料庫に野菜と一緒に保管するとダメにしてしまうのではないかと不安で……すべて干し肉にするか、涼しい場所に保管するのがいいと思うのですが。」
手を上げて発言したのはガルクだ。
たしかに、狩りがスムーズになった分肉が翌日に持ち越せるようになった。
常温でいつまでも保存しとくと腐ってしまうだろう。うーん、涼しいって言ったら地下室か?
「地下に部屋を作って貯蔵してみようか。暗くなるのが難点だけど、肉が腐っていくよりはマシだと思う。」
「でしたら、穴掘りは我々が行いましょう。ノーム殿は忙しいでしょうし、細かい習性や仕上げをしていただければあとはこっちで掘ります。」
「うん、大変だと思うけど、頼むよ。」
「いえ、お役に立てるのなら喜んでやります。」
「あとはないか?じゃあ次は_____」
こんな感じで会議は進んでいった。
俺はせっせと議事録を作っていく。
これをみると、改めて問題点が山積みだ。中でも一番は…………
「鉄製品が欲しいな。」
そう、この村で生産できていないものの一つ、鉄製品だ。
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