26.結構厳しいよ
夜にまた投稿します。
ガルクとビオラが旅立ってから、ゼノはますますよく働くようになった。
「まだ十二歳なんだもの。少しのんびりしてもいいのよ。」
「いえ、こうして住まわせてもらっているだけで充分です。それに、父さん母さんの分も僕が頑張らないと。」
マリアさんが声をかけるも、「大丈夫」と頑なだ。
ちょっと肩に力が入りすぎている気もする。
生まれた環境のせいもあると思うのだが。
本当なら、もっと無邪気に遊んだりもしたいだろうに。少し可哀想な気もする。
でも、たしかにゼノが狩りなんかをしてくれて助かっている。
ガルクが狩って来るほどの大物ではないにしろ、子鹿や野ウサギなど十分な量を仕留めてくれる。
彼らは鋭い爪の他にも体術のようなものを使っていて、一度保護者としてついていったときはその身のこなしに驚いた。
ある日の夕方。セシルがゼノの方に向かっていくのが見えた。
珍しいな。
セシルは鬼人一家が村に住むことを受け入れてはいたが、まだどこかよそよそしい感じが残っていたから。
なんとなく気になり、さり気なく声が聞こえるところまで移動する。
「なあ。」
「ん?」
突然声をかけられ、ゼノもびっくりした様子だ。
そりゃそうだよな。
今まで最低限の会話くらいしか見かけたことなかったし。
「その……あんた、強いんだな。」
「え?あ、ありがとう。」
セシルが口ごもりながら会話を続ける。うん、ぎこちない。
気まずさがこっちにも伝わってくる。
「………………。」
「………………。」
「その、ごめん。最初あんなこと言ったから、ちょっと話しかけにくかったっていうか……。」
「……………………。」
「うまくいえないけど、一応、仲間……になったんだし。ちゃんと話さなきゃ……って………………。」
気まずさMAXで目を泳がせながら言葉を紡ぐセシル。
最後の方なんて消え入りそうな声だ。
ゼノはしばらく口を半開きにして固まっていたが、嬉しそうに「うん。」といって笑いかけた。
「こちらこそ、仲間にしてくれてありがとう。改めて、よろしく。」
「うん……あ、もしよかったらでいいんだけど、ゼノの体術、教えてくれない?」
「へ?体術を?」
「うん。その……すっげえかっこいいと思ったから。あと、おれもちょっとは強くなりたい。」
目を逸らし、顔を赤らめながらそう話すセシル。
ゼノは嬉しそうに言った。
「いいけど……僕、結構厳しいよ?」
ニヤリと笑うゼノ。
初めて見るちょっと子どもらしいいたずらな笑みだ。
それを見てセシルもニヤッと笑う。
「おう。望むところだ。」
「あ、じゃあさ、セシルは僕にノームたちとの話し方を教えてよ。」
「へ?ノーム?精霊の言葉ならフランカの方が……」
「ううん、セシルは言葉もわからないのにジェスチャーとかだけでコミュニケーション取れてるから。それがすごいんだよ。ね、僕にも教えて?」
「ああ、そういうことなら今度ノームたちに紹介するよ。そんでちょっと一緒に遊ぼうぜ。」
「わかった。楽しみにしてる。」
もうぎごちなさは感じない。
うん、大丈夫そうだな。
それから毎日のように、夕暮れ時に二人で取っ組み合って稽古をする姿があった。
最初は喧嘩かと慌てていたマリアさんも、「大丈夫、セシルが体術を教わっているんだ。」と説明すると安心したようで微笑ましく見ている。
テレサも、「いつの間に仲良くなったのかしら。ま、いいけど。」と嬉しそうだ。
変に大人びていたゼノの表情もだんだんと柔らかくなり、子どもらしい表情を見せるようになった。
これもセシルのおかげかもな。
十日後、ガルクたちが戻ってきた。三人の鬼人を連れて一人は男性で二人は女性だ。
三人共もれなくボロボロで、薄汚れた毛皮を身に纏っている。
ガルクたちが旅の間に俺たちのこと話してくれていたらしく、跪いて「できることなら何でもいたします。どうかこの村においてください。」と懇願してきた。
とりあえず着替えを用意し、風呂に入れる。湯船も用意した。
今まで水浴びしかしたことがなかったらしくびっくりしていたが、男性はガルクが、女性はビオラとテレサが風呂に入れた。
三人が風呂からあがる頃にはお湯が真っ黒に汚れてしまったけど、こざっぱりしてきれいになったから良しとする。
食事を用意し、まずは腹を満たす。
三人はもちろん、ガルクたちも長旅でゆっくり食事する暇もなかっただろうからな。
鬼人の食欲は相変わらずものすごく、用意した料理がことごとく消えた。
たくさん用意しておいてよかったよ。
食事が一段落ついたところで、改めて互いに自己紹介。
三人の名は男性がエルド、女性がエルヴィラとナディアだ。エルドとエルヴィラは姉弟らしい。
三人共ガルクたちと同じように、里を焼かれたときに逃げ延びて山に隠れ住んでいたらしい。
ゼノとカルナも三人の姿を見て大喜びで抱き合った。
「改めて、皆さんにお願いいいたします。どうかこの三人を受け入れてはもらえないでしょうか。」
「彼らが信頼できる鬼人であることは私が保証します。」
「とつぜん押しかけて申し訳ないが、どうかお願いいたします!」
「必ずお役に立ってみせます!!」
「どうか……!」
大人たちが次々と頭を下げる。
ゼノとカルナも「僕たちからもお願いします。」と深く頭を下げた。
そんなに必死に懇願しなくても、もうこっちは受け入れる気でいるし。
「どうか頭を上げて。もう心配はいらないから。」
「そんなことしなくても、答えなんて決まっているじゃない。」
「そうじゃ。今日からおまえさんたちはこの村の一員じゃよ。」
大人たちが優しく声をかけると、鬼人たちは涙を流して抱き合った。
俺ももらい泣きでうるっと来ちゃったよ。
とにかく、無事三人の鬼人が合流し、仲間が増えた。