表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/246

26.結構厳しいよ

夜にまた投稿します。

 ガルクとビオラが旅立ってから、ゼノはますますよく働くようになった。


「まだ十二歳なんだもの。少しのんびりしてもいいのよ。」

「いえ、こうして住まわせてもらっているだけで充分です。それに、父さん母さんの分も僕が頑張らないと。」


 マリアさんが声をかけるも、「大丈夫」と頑なだ。

 ちょっと肩に力が入りすぎている気もする。

 生まれた環境のせいもあると思うのだが。

 本当なら、もっと無邪気に遊んだりもしたいだろうに。少し可哀想な気もする。


 でも、たしかにゼノが狩りなんかをしてくれて助かっている。

 ガルクが狩って来るほどの大物ではないにしろ、子鹿や野ウサギなど十分な量を仕留めてくれる。

 彼らは鋭い爪の他にも体術のようなものを使っていて、一度保護者としてついていったときはその身のこなしに驚いた。






 ある日の夕方。セシルがゼノの方に向かっていくのが見えた。

 珍しいな。

 セシルは鬼人一家が村に住むことを受け入れてはいたが、まだどこかよそよそしい感じが残っていたから。

 なんとなく気になり、さり気なく声が聞こえるところまで移動する。



「なあ。」

「ん?」


 突然声をかけられ、ゼノもびっくりした様子だ。

 そりゃそうだよな。

 今まで最低限の会話くらいしか見かけたことなかったし。


「その……あんた、強いんだな。」

「え?あ、ありがとう。」


 セシルが口ごもりながら会話を続ける。うん、ぎこちない。

 気まずさがこっちにも伝わってくる。


「………………。」

「………………。」

「その、ごめん。最初あんなこと言ったから、ちょっと話しかけにくかったっていうか……。」

「……………………。」

「うまくいえないけど、一応、仲間……になったんだし。ちゃんと話さなきゃ……って………………。」


 気まずさMAXで目を泳がせながら言葉を紡ぐセシル。

 最後の方なんて消え入りそうな声だ。


 ゼノはしばらく口を半開きにして固まっていたが、嬉しそうに「うん。」といって笑いかけた。


「こちらこそ、仲間にしてくれてありがとう。改めて、よろしく。」

「うん……あ、もしよかったらでいいんだけど、ゼノの体術、教えてくれない?」

「へ?体術を?」

「うん。その……すっげえかっこいいと思ったから。あと、おれもちょっとは強くなりたい。」


 目を逸らし、顔を赤らめながらそう話すセシル。

 ゼノは嬉しそうに言った。


「いいけど……僕、結構厳しいよ?」


 ニヤリと笑うゼノ。

 初めて見るちょっと子どもらしいいたずらな笑みだ。

 それを見てセシルもニヤッと笑う。


「おう。望むところだ。」

「あ、じゃあさ、セシルは僕にノームたちとの話し方を教えてよ。」

「へ?ノーム?精霊の言葉ならフランカの方が……」

「ううん、セシルは言葉もわからないのにジェスチャーとかだけでコミュニケーション取れてるから。それがすごいんだよ。ね、僕にも教えて?」

「ああ、そういうことなら今度ノームたちに紹介するよ。そんでちょっと一緒に遊ぼうぜ。」

「わかった。楽しみにしてる。」


 もうぎごちなさは感じない。

 うん、大丈夫そうだな。




 それから毎日のように、夕暮れ時に二人で取っ組み合って稽古をする姿があった。

 最初は喧嘩かと慌てていたマリアさんも、「大丈夫、セシルが体術を教わっているんだ。」と説明すると安心したようで微笑ましく見ている。

 テレサも、「いつの間に仲良くなったのかしら。ま、いいけど。」と嬉しそうだ。


 変に大人びていたゼノの表情もだんだんと柔らかくなり、子どもらしい表情を見せるようになった。

 これもセシルのおかげかもな。







 十日後、ガルクたちが戻ってきた。三人の鬼人を連れて一人は男性で二人は女性だ。

 三人共もれなくボロボロで、薄汚れた毛皮を身に纏っている。

 ガルクたちが旅の間に俺たちのこと話してくれていたらしく、跪いて「できることなら何でもいたします。どうかこの村においてください。」と懇願してきた。

 とりあえず着替えを用意し、風呂に入れる。湯船も用意した。

 今まで水浴びしかしたことがなかったらしくびっくりしていたが、男性はガルクが、女性はビオラとテレサが風呂に入れた。

 三人が風呂からあがる頃にはお湯が真っ黒に汚れてしまったけど、こざっぱりしてきれいになったから良しとする。


 食事を用意し、まずは腹を満たす。

 三人はもちろん、ガルクたちも長旅でゆっくり食事する暇もなかっただろうからな。

 鬼人の食欲は相変わらずものすごく、用意した料理がことごとく消えた。

 たくさん用意しておいてよかったよ。

 食事が一段落ついたところで、改めて互いに自己紹介。

 三人の名は男性がエルド、女性がエルヴィラとナディアだ。エルドとエルヴィラは姉弟らしい。

 三人共ガルクたちと同じように、里を焼かれたときに逃げ延びて山に隠れ住んでいたらしい。

 ゼノとカルナも三人の姿を見て大喜びで抱き合った。


「改めて、皆さんにお願いいいたします。どうかこの三人を受け入れてはもらえないでしょうか。」

「彼らが信頼できる鬼人であることは私が保証します。」

「とつぜん押しかけて申し訳ないが、どうかお願いいたします!」

「必ずお役に立ってみせます!!」

「どうか……!」


 大人たちが次々と頭を下げる。

 ゼノとカルナも「僕たちからもお願いします。」と深く頭を下げた。

 そんなに必死に懇願しなくても、もうこっちは受け入れる気でいるし。


「どうか頭を上げて。もう心配はいらないから。」

「そんなことしなくても、答えなんて決まっているじゃない。」

「そうじゃ。今日からおまえさんたちはこの村の一員じゃよ。」


 大人たちが優しく声をかけると、鬼人たちは涙を流して抱き合った。

 俺ももらい泣きでうるっと来ちゃったよ。


 とにかく、無事三人の鬼人が合流し、仲間が増えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ