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25.優秀な人材

 鬼人の一家が仲間になった。

 改めて、四人に自己紹介をしてもらった。


 まずはガルク。ガルクさんと呼んでいたのだが、飛び捨てがいいと言われたのでガルクと呼ぶことに。

 二メートル近くある大柄で筋肉質な身体。褐色肌に銀髪が眩しい。きりっと精悍な顔立ちで、いかにも強そうだ。

 その割に物腰が柔らかで最初はびっくりした。

 身体能力がものすごい。野生の猪に走って追いつき、簡単に仕留めてしまう。

 百キロを越えているであろうイノシシを片手で担いで戻ってきたときは思わず三度見くらいしたよ。

 今は狩りの殆どをガルクに任せている。

 ロベルトさんは「わしはやっぱり畑が性にあっとる。」と上機嫌で畑仕事をしていた。

 やっぱり農業が好きなんだな。


 ガルクの奥さんであるビオラは褐色肌に亜麻色の髪の妖艶な美女だ。

 スタイルも良く、海外のモデルのようだ。

 野性的かと思ったが意外と裁縫なんかが得意らしく、毛皮を加工して服や小物等も作れるらしい。

 今や服飾においてはテレサと並ぶうちの二大戦力だ。


 ゼノ、十二歳。母親そっくりのイケメンだ。

 年齢の割に大人びていて好青年。妹たちの面倒もよくみる。

 子どもたちのお兄さん的存在でセシルとは違った意味で頼りになる。


 カルナ、九歳。肌と髪の色は母似だが、角もないし爪も普通。

 言われなきゃ鬼人とは思わないだろう。

 おとなしい感じだが働き者だ。料理ができるらしくマリアの手伝いをしている。

 マリアは「まあまあ!カルナちゃんは料理上手ねえ」と褒めちぎっていた。

 フランカとはすっかり仲良くなってどこへ行くにも一緒だ。


 そして彼ら、めちゃめちゃ優秀な人材だった。

 まず森に関する知識がすごい。人里離れた山奥で自給自足生活をしていただけあって、食べられる木の実や野草、動植物の習性などに詳しい。

 更に足が速くスタミナもあり、方向感覚にも優れているので周辺の環境をあっという間に調べてしまう。

 これまでもコツコツと探索しながらマッピングしていたのだが、彼らに任せてみたらものすごいスピードで進んだ。

 ちなみにマッピングのメイン担当はゼノだ。

 記憶力や空間認識力も高いらしく、俺たちがざっくり作っていたマップの間違いを次々に修正してくれた。

 うん、君、実はめちゃめちゃ頭いいね?

 読み書きを倣っていないため書き取るのは俺の仕事なのだが、ちゃんとした教育をすれば相当伸びそうだ。


 人手も増えたことで、なんとなくみんなの担当がはっきりしてきた。

 畑はロベルトさんとオンディーヌたち。

 服飾系はテレサとビオラ。

 狩りはガルク。

 料理はマリア、カルナ。

 探索はゼノ。

 建築はセシルとノームたち。

 料理や畑の手伝いと精霊やシルキィの通訳がフランカ。

 俺は『賢者の書』を片手に技術指導や新しい提案等をしていた。



 それと、とうとう甘味料の生産に成功した。天然の甘味料、蜂蜜だ。

 フランカが畑でハチと戯れているのを見て思いついたのだ。

 大きめのスズメバチと同じくらいある大きさのハチがフランカに向かっていったときには肝を冷やしたが、どうやらこの世界のミツバチらしい。

 よく見るとちゃんとミツバチの姿だった。地球のミツバチよりまるまるとしていて毛もふわふわだけど。

 それでも「ヴーン」という低い飛翔音が怖すぎる。

 フランカに頼んで、果樹園で働かないかとスカウトした。

 この村の果樹園の花を占有していい代わりに、蜂蜜を提供してほしいというもの。

 お互いに危害を加えないと約束をして商談成立。

 彼らは下が尖ったつぼ型の巣を作り、下の方に蜜を貯める習性があるらしい。

 なのでちょっと穴を開けてもらい、蜂蜜がポタポタ垂れるようにした。これで定期的に容器を交換すれば楽に採蜜できる。

 地球でやってる遠心分離機なんかにかけたら殺されそうだしね。よかったよかった。

 もちろん彼らがたくさん巣作りできるように、りっぱな養蜂小屋を建てた。

 蜂蜜が安定的に採れるようになれば、料理の幅も広がるな。

 お菓子なんかも作っても良いかもしれない。『賢者の書』に追加しておこう。

 初めて採取した蜂蜜はみんなでそのまま頂いた。

 濃厚な香りと甘さにみんなの顔がぱっと輝く。

 とくに女性・子どもが大喜びで、養蜂小屋に花や果樹などの差し入れまでするようになった。

 おかげで人間を好意的に見てくれるようになったから結果オーライ。


 畜産も始めた。

 以前から「ココトリ」というでかいウコッケイみたいな鳥を生け捕りにして卵は確保してたんだけど、ガルクが狩りで羊を仕留めて来たので、生け捕りにできるか相談したら難なく抱えて持ってきた。

 これで冬場には温かいウールの服が手に入るかも。テレサとビオラは気合い充分だ。

 毛刈りばさみは持ってなかったので、地球から持ってきた。困ったときの『天啓』(という言い訳)だ。

 最初はちょろっとしか取れなかったのだが、世界樹の加護をたっぷりと浴びた餌を食べているうちに純白のもっこもこになった。

 世界樹、すげえ。


 数日後にはガルクとビオラで牛を生け捕りにしてきた。水牛のような大きな角がある灰色の牛だ。

 羊と同じように気絶させて運んできたんだと。

 その牛何百キロあると思ってるんだ?すごすぎて突っ込む気力も起きない。

 フランカ意外みんな引きつった顔で笑ってたよ。

 まあ、とにかく牛乳を手にしたというのは大きい。あと数頭いてもいいかもな。

 二人は「がんばります!!」と気合を入れていた。どんまい、牛。

 ちなみにこの牛のミルクは濃厚でクリーミーだった。これもうちの餌を食べていくうちにもっと美味くなるに違いない。








 一週間ほど経ち、鬼人一家も生活に慣れてきた頃、ガルクがこんなお願いをしてきた。


「実は皆さんにお願いがあります。里が焼かれた時、逃げ延びた仲間たちはそれぞれ山や森に逃げました。彼らをここに住まわせてはもらえないでしょうか。もちろん彼らが皆さんを襲うことはありませんし、一生懸命働きます。どうかご検討いただきたい。」


 ガバっと頭を下げるガルク。

 そうか、みんな散り散りになって逃げたんだよな。人間の村に行くわけにもいかないし、まだ森に隠れ住んでいる可能性があるのか。


「それはいいけど、あてはあるのかい?」

「はい、まず王国に繋がる道へは彼らは行きません。見つかって殺されるのがわかっていますので。なのでおそらく逆の方向__魔族や魔物が多い地に身を潜めていると思います。そこまで行けば、人間はほぼ近づいてこないでしょうから。」

「魔族領に行くってことか?」

「いえ、魔族にも歓迎はされないでしょうから……」


 ガルクは地図を指差した。


「おそらくここから北西、ドラゴンの住むといわれる山と、魔族領との境である南の山。この辺りが考えられます。ここなら普通の人間はまず近づきませんし、魔族もそこまで多くいません。」

「なるほど、ちょうど両者の境というわけか。」

「もしできるのであれば、自分とビオラでそれぞれ探しに行きたいのです。」

「うーん……気持ちはわかるけど、たった一人でいつまでも探し回るのは無理じゃない?また襲われでもしたら大変だし、かと言って私たちが行くと村を維持する人間がいなくなっちゃうわ。」

「あなたたちになにかあったら、ゼノくんとカルナちゃんが悲しむわよ。」


 うん、テレサとマリアの意見ももっともだ。いくら身体能力が高いとはいえ、あてもなく探し回るなんて無理だろう。

 それに置いていかれるゼノとカルナも気が気じゃないと思う。


「じゃあ、期間を決めよう。十日で戻ってくる。もちろんしっかりと準備をしてから。十日たって見つからなかった場合は、一旦戻って体制を立て直す。一気に全員探すんじゃなくて、それを何度か繰り返したら子どもたちも心配しないんじゃないか?ついでに仲間が見つかったら、つぎの旅でその仲間にも手伝ってもらえば探し手も増える。」


 俺の意見に、みんな賛成してくれた。

 ガルクたちも「感謝します。」といって了承してくれた。

 さっそく明日から二人は旅に出ることに。今日は二人の旅の準備だ。保存のききそうな食料等を鞄に詰める。

 新しく作った服と一応世界樹の樹液も。ま、使わないのに越したことはないけどね。







 翌朝、ガルクとビオラは出発した。


「ゼノ、カルナを頼んだぞ。」

「皆さんの言うことをしっかり聞いて、私たちの分までお役に立つのよ。」

「うん、こっちは大丈夫だから。父さん母さんも気をつけて。」

「お父さん、お母さん、ちゃんと帰ってきてね。」

「わかってると思うけど、必ず十日で帰ってこいよ。」

「無理は禁物よ!」

「精霊様の御加護があるんだもの。きっとうまくいくわ。」

「子どもたちのことは心配しなさんな。」

「気をつけてください!」

「いってらっしゃーい!」


 みんなに見送られ、2人は風のように走り去った。



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