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246.温泉と会談

 翌日、三国の国王はヴェップ温泉郷に到着した。

 今回の会談はここで行うつもりだ。

 城でやってもいいけど堅苦しい雰囲気になりそうだし、たまには趣向を変えてみるのも良いと思う。

 丁度今は蓬莱国から贈られたサクラが見ごろだ。美しい花と温泉で身も心も癒されてから会談に臨もう。


「これはまた美しい花ですな。」

「華やかさの中に奥ゆかしさがある。これは何というのですか?」

「これは『サクラ』の花です。蓬莱国から贈られたものなんですよ。」

「建物の趣向もガラリと変わりましたし、エレメンティオの幅の広さには驚かされますよ。」

「この落ち着いた美しさがまた良いですな。これも東の国の?」

「ええ、まあ、そのようなものです。」


 木造の落ち着いた建物の意匠を眺めながら俺たちは温泉へ向かう。

 今日は貸し切り。おっさん二人と俺で裸の付き合いと行こうじゃないか。


「あぁ~……これは良い……」

「長旅でこわばった身体がほぐれますなぁ。」

「なによりこの絶景……『不毛の大地』がこんなにも美しい場所であったとは。」

「そもそもデスマウンテンに踏み入ることなど一生ないと思っていましたからな。」

「魔物も多く地理的にも厳しいというのに。そんな場所をこのような安らぎの場に変えてしまうとは、ケイ王の手腕は見事なもんですよ。」

「ありがとうございます。まあ、俺がというよりは部下が優秀なんですけどね。」

「部下の能力を引き出すのは王の務め。部下が功績をあげられるということこそ、我々にとっては何よりの功績です。」


 温泉で身体が温まったら、いよいよ第一回目の『三国会談』が執り行われる。

 俺達はサクラの見える和室に通され、それぞれ席に着いた。


「では、これより第一回、三国会談を開催いたします。進行は、私、サラが行います。どうぞよろしくお願いいたします。ではまず代表者のご紹介から――」


 まずは、昨日も話したセイレーン王国や蓬莱国について両国の王に再度説明度した。

 セイレーン達とは友好関係を結び、俺の支配下にはいったこと。

 よって東の海のセイレーンを攻撃することはエレメンティオへの敵対となることなど、釘をさすべきところはさしておく。

 特にセイレーンは危険と恐れられる魔族だ。人間の中には防衛のつもりで傷つけようとするものもいるだろう。

 お互いを守るためにも、そこの周知は徹底させておかないとな。

 蓬莱国については俺に任せるということになった。

 というのも、まず東の海へのアクセスがエレメンティオ以外に無いということ、さらにオルテア王国とスラウゼン王国には海運業というものがほぼ存在しないということなどが判明したからだ。

 なぜ海運業が発達しなかったか。それは近海の魔物が強力すぎて海に進出することができなかったからだ。

 オルテア王国は北側が海に面しているが、その近海にはケートスが数多く生息している。

 時には海岸線ぎりぎりまで群がやってくるほどだとか。

 そのため船で数キロ先の海に出ることすらかなわないのだという。


「おかげで、漁業は沿岸の水深数メートル程度の浅瀬でしか行えません。それ以上深くなりますとケートスが入ってきてしまいますから。こんな状態ですから、当然海を渡って東の大陸になど向かえませんよ。魔族領を迂回する前に全滅すること間違いなしです。」


 なるほど。たしかにはぐれ者の一頭だけでもかなり強力で大変だった。

 あれが群れでとなると、この世界の船の技術じゃ間違いなく沈むだろうな。

 スラウゼン王国も同じ理由だ。

 というわけで、二カ国は蓬莱国に対してはノータッチ。だが珍しい交易品などについてはエレメンティオを中継地としてそっちにも流してほしいとのこと。

 ついでに蓬莱国がウォルード大陸に進出してくることがないようにストップをかけてほしいらしい。

 久遠たちもあんまり外から人がやってくるのは好ましくないようだし、進出なんて頭にないだろう。

 何より蓬莱国に関して専売特許を取れるのは大きい。

 関税などを上乗せすることを条件に了承した。


「となると、ここエレメンティオは貿易の中継地点としても重要な国になりますな。」

「これはますます『三国街道』を盛り上げていかねばなりますまい。」

「三国街道を使うにあたって、ご不便はありませんか?」


 三国街道の維持管理はエレメンティオが受け持つことになっている。

 実際に使ってみての情報収集は大事だ。


「街道は広く整備されていてとても走りやすいです。魔物が出ないというのも安心できて良いですな。」

「強いて言えば、馬の休憩所があればよいですな。街道が塀に囲まれているためわきに避けることができず渋滞箇所が見受けられます。」


 たしかに、疲れた馬のせいで渋滞が発生したらせっかくの高速街道が意味をなさなくなるな。

 よし、ところどころにサービスエリアを設けて対応しよう。

 

「それは貴重な情報をありがとうございます。すぐにでも休憩所を作りましょう。」

「しかしながら、あれほどの大規模工事をしておいて、本当に通行料はあれでいいんですか?」

「ええ、長い目で見て採算は取れるようにしているつもりです。」

「まあ、そちらが『良い』というのであれば我々は有難いですが……」

「代わりと言っては何ですが、お二方自ら街道の良さをアピールしてくれると助かります。王の影響力に勝るものはありませんし、利用者が増えればこちらの懐も温まりますので。」

「いやはや、敵いませんな。」

「はっはっは。心得ました。大々的に広めておきましょう。」


 ランゼル王とフィリベール王は頭を掻き、膝を打ち鳴らしながら笑っていた。

 ふふふ、俺だって意外と強かなんだぞ。

 

「三国街道が盛り上がれば相互の交易や交流も盛んになりますからな。」

「うちは今観光客の呼び込みに力を入れているんです。人族も魔族も亜人も、皆が安心して楽しめる国を作っていきたいんです。」

「そちらは交易品も技術も斬新なものが多いですからなぁ。学びに行かせたいくらいですよ。」

「だったら、『交換留学生』を派遣しませんか?」

「『交換留学生』?」

「お互いの国に人を派遣するんです。短期の使節団ではなく、数年がかりの長期滞在で。そこで自分が学びたい内容を学び、技術を身に着けて国へ帰るという寸法です。子どもから大人まで幅広く取り入れれば相互に発展が見込めると思うのですがいかがでしょう?」

「なんと、ケイ王はどこからそのようなアイディアが湧くのですか?是非お願いしたい。」

「うちもぜひお願いする。」


 こうして、交換留学制度をはじめとして三国間で主に産業を盛り立てるべく密接な連携を取ることが決まった。

 ついでに、留学生が困ったときに助けになれるように、各国の王都に大使館を設置し、外交官を常駐させることも決定した。

 温泉効果で身も心もほぐれたためだろうか。

 宴会場で行われた会談は終始和やかな雰囲気だった。はー、よかったよかった。


 会談を終えた後は温泉旅館の醍醐味の一つ、そう、宴会である。

 酒と料理で目一杯おもてなしして、花見酒としゃれこんだ。

 おもてなしする側として迎えた初めての『三国会談』は、こうして大成功に終えたのだった。

 

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