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241.公式行事はやはり緊張する

 温泉郷から帰ってきた俺たちは、パレードの準備に追われていた。

 俺と久遠の結婚披露パレード、精霊王国エレメンティオと蓬莱国の友好を祈念して盛大に行うらしい。

 結婚ということで俺は白いガウンを羽織らされ、久遠は白いドレスに着替えさせられた。


「奥方様!なんて美しいのでしょう!」


 着付け係のティアとティナが興奮気味に褒めちぎる。

 ヴェップ温泉郷の美肌の湯の効果もあったのだろうか、白いドレスを纏った久遠は神々しいほどの美しさだった。

 いつもの着物と違うドレス姿に俺も思わずドキッとする。

 

「普段気慣れぬ衣服を纏うのは少しばかり気恥ずかしいな。」

「でも、よく似合ってるよ。」

「そうか。背の君もよく似合っている。」

「ははは、ありがとう。」


「お二方、お時間です。」

「ああ。」


 二人で馬車に乗り込む。

 今回は俺たちの姿が良く見えるように屋根のないオープンタイプの馬車だ。

 馬車を引くのはグルファクシ。純白の身体に金色の鬣が美しく、俺達の格好にもよくあっている。

 見栄を張りたいときはグルファクシ。これはもはや定番だ。


 馬車は城から丘を下り、王都の街中をぐるりと一周して戻る。

 回るのは王都だけだが、その映像は『遠視機(テレビ)』を通じて各地にライブ中継される。

遠視機(テレビ)』のおかげで国民が全員で同じ行事の雰囲気を味わえるのは大きいよな。

 ダンタリオン曰く、民の忠誠心や帰属意識も高まり、王としての影響力も大きくなるだろうとのこと。

 そのおかげかはわからないが、沿道には多くの人が駆け付け手を振り歓声を送ってくれた。


「陛下ー!」

「ご結婚おめでとうございまーす!」

「陛下ー!お幸せにー!」

「王妃様ー!」


 沿道の声援にこたえ、俺と久遠も全方位にゆっくりと手を振り続ける。勿論笑顔は絶やさない。

 王都に住むものは見知った顔も多い。

 テレサやセシル、鬼人族のみんなも沿道の最前列で手を振ってくれた。

 特に開拓初期から一緒に働いていたメンバーには、この姿を見せるのが若干気恥ずかしい気もする。

 それでも頑張って手を振って応えた。

 非常にゆったりとしたスピードで馬車は進み、その間ずっと腕を上げ続けていたため城に着くころには腕が痛くなっていた。


「はあ、緊張した。」

「蓬莱国ではめったに人前に姿を現さぬのが習わしであったから、こうして大勢の目にさらされるのは落ち着かぬものだな。」

「そっか、久遠はいつも宮中の奥の方にいるもんな。でも、俺も緊張したよ。」

「二人して慣れていかねばなるまい。」

「そうだな。」


 次は二カ国の首脳会談だ。

 と言っても、内容は向こうで行った会談の内容をこっちでも宣言するだけ、会談時間もそんなにとる予定はない。

 むしろそのあとの共同宣言がメインだ。

 会談の時間で宣言の内容を確認する。

 今回は両国の友好関係の強調、そして交易の拡大だな。

 細かい交易リストも作った。蓬莱国からエレメンティオへは砂糖や香油を、エレメンティオから蓬莱国へは日持ちしそうな菓子類と石鹸・シャンプー、化粧品などを。

 そして蓬莱国へは新たに作ったばかりの商船一隻を売る。あと数隻欲しいということなので、残りは技術者をこっちに呼び寄せノウハウを教えながら一緒に作ることに。

 パレード用のガウンから公式のスリーピースのような服に着替え、久遠と並んで両国のさらなる友好と連携を宣言する。

 さっきのパレードもそうだけど、公式行事は何度やっても慣れないし緊張するなぁ。


 翌日、久遠は帰っていった。転移で帰しても良かったがこういうのは形式が大事ということでミアガリアの龍車に乗って帰ってもらった。

 手土産にはシャンプーと化粧品を渡してある。宮中の女性たちにも布教するらしい。

 勢いで誘ったエレメンティオ訪問だったけど、なかなか実りある時間だったんじゃないだろうか。






 結婚披露パレードの様子は写真にも納められた。

 交流のある各国へ結婚の挨拶状を送る際にその写真のコピーを送ったらしい。

 よくある「俺達結婚しました!」ってやつだな。

 オルテア王国を筆頭に、各国からすぐに「おめでとうございます。」との返信が来た。

 うちの娘も、なんて言われずに済んで内心ほっとしている。





 

 ――シュタイル王国、王城――

 

「第一王女が婚約者の辞退を申し出たと聞いたが、これが噂の王妃か……」

「これほどの美しさの前には、自信を失うのも理解できますよ。」

「それどころか魔導師としても決して敵に回してはならない存在らしい。父親としては残念ではあるが、まあ、命が無事であっただけ良かったと喜ぶべきであろうな。幸い、こちらの世間体を鑑みてエレメンティオに置いてくれることになったという。」

「寛大な処置へのお礼として贈り物をしておきましょう。」

「うむ。」 

 


 


 ――オルテア王国――

 

「これほどまでに美しい王妃とは……第二王妃を娶らせるにはどれだけの美女を用意すればよいのだ……!」

「はっきり言って無理でしょう。美しさで太刀打ちできる相手ではないかと……」

「私の贔屓目に見て、娘も美しい部類だと思っていたが……世の中は広いものだな。」




 

 ――スラウゼン王国――

 

「な、なんですのこの美女は……これがエレメンティオの王妃……」

「だ、大丈夫です王女様!王女様の美しさでしたら……」

「勝てるわけないでしょう!こんな方がそばにいるのでしたら、わたくしが行ったところで視界にも入りませんわ!!」

「王女様……」

「お父様、いえ陛下!わたくしはこの政略結婚を辞退いたしますわ。笑いものになるのは御免です!」



 


 ――トリノ公国――

 

「エレメンティオとの関係をより密なものにするために、公爵家の令嬢を遣わそうと考えていたが。これほどのお方が隣に居られるなら我々の出る幕はなさそうだな。」

「この美しさに加え、魔王と同等の力を秘めておられるそうですしね。」

「やはり先日の情報共有の際にあきらめておいて正解だったな。下手にことを勧めれば令嬢に恥をかかすだけでなく、我がトリノ公国に大損害をもたらす可能性があった。」

「他の五摂家にも事態を通知し、下手に出し抜こうなどと考えないよう圧力をかけていきましょう。」

 


 こうして、各国の水面下で動いていた政略結婚作戦は、久遠の写真一枚によってことごとく潰えたのであった。

 

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