表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/246

24.鬼と人間

夜にまた投稿します。

 セシルとフランカも呼び、みんなで朝食にする。

 もちろん、鬼人の母娘も一緒だ。

 鬼人の母の名はビオラ、父はガルク、男の子はゼノで、女の子はカルナというらしい。

 俺たちもそれぞれ自己紹介した。ついでに、俺たちの今までの経緯も話す。

 この場所がつい最近開拓を始めたばかりで、普通の人里のような発展した場所ではないということも。

 ビオラは「そのような大変な中、私たちを受け入れてくれたこと、本当に感謝いたします。」と再度頭を下げ、ここに泊めてもらう間、自分にできることは何でも手伝うといってくれた。


「申し出はありがたいけど、怪我の方は大丈夫なのか?」


 たしかビオラも腹に結構な怪我をしていたはずだ。世界樹の樹液でふさがったとはいえ、あまり無理して動かないほうがいいんじゃないか?


「ご心配ありがとうございます。ですが私達鬼人は人よりも傷の治りが早く、体力もあるので大丈夫です。」

「でも、無理は禁物よ?」

「はい。ありがとうございます。」


 マリアさんの言葉に、頭を下げるビオラ。

 初めて会ったときから思っていたんだが、ビオラはかなり礼儀正しく謙虚な性格のようだ。

 鬼とのハーフって言ってたし、昨日のテレサの話から鬼の残虐さを知ったから、もっとこう、礼儀とか気にしない野生児みたいなのを想像してた。


「まあでも、人手が増えるのは単純にありがたいわね。」

「そうじゃの。ここは慢性的な人手不足、助けはいくらあっても困らんわい。」

「手伝ってくれるなら、これほどありがたいことはないわ。」

「フランカ、色々教えてあげるね!」

「………………。」


 セシルは黙ったままだ。やっぱりまだ納得できていない部分もあるのだろう。

 フランカはテレサの話を素直に受け入れたのか、はたまた同年代の女の子が現れて嬉しいのか、話したそうにウズウズしている。

 食事が終わるとそれぞれの仕事へ。

 フランカは早速カルナのもとへ行き、「一緒に行こ?」と手を引いている。

 ほほえましい光景だが、後ろではめちゃめちゃセシルが睨んでいる。

 うーん、時間がかかりそうだな。


 フランカ、カルナ、セシルは畑仕事をした。

 改良品種の木苺やサクランボが良い具合に実ったので、その収穫作業をしてもらう。

 「つまみぐいはほどほどにね?」とテレサに諭され、「はぁーい。」と気のない返事のフランカ。

 こりゃかなりつまみ食いする気だな。

 まあ、木苺もサクランボも豊作なので良しとしよう。

 もともと子どもたちのために植えたようなもんだしな。

 カルナもフランカの手ほどきを受けながら、おぼつかない手付きで収穫していた。

 セシルは相変わらず二人を監視している。


 ビオラは狩りが得意だった。

 もともと鬼人は肉中心の食事らしく、日常的に狩りをして生活していたらしい。

 武器も持たず、素手で大きなシカを仕留める。

 怪我が治った鬼人の身体能力は驚くばかりだ。いつもなら半日以上かかる狩りが一瞬で終わってしまった。

 ホクホク顔のロベルトさん。「いやあ、お前さんは大したもんじゃのう!!」と褒めちぎり、ビオラは照れ笑いだ。


 さらにビオラは、毛皮をなめす方法も知っていた。

 狩ってきたシカをロベルトさんが解体する。剥いだ毛皮を受け取ると、ナイフを使って内側の肉や皮下脂肪を剥がしていく。

 これをどんぐりなどタンニンを多く含む植物の抽出液に二週間ほど浸し、よく洗って日陰でよく乾かす。このときかなり縮むらしいので、杭で固定したり、引っ張った状態を重しで固定するといいんだとか。乾かす間に毛皮をよくこすりつけるとやわらかさが出てくるらしい。

 『賢者の書』に一応知識として入れてはいたのだが、やっぱり実際にやってもらいながら教わると違うな。

 なめし液に皮を浸し、「ふうっ」と汗を拭う姿にロベルトさんとマリアさんは「すごいわねぇ、すてきねぇ。」と拍手していた。







 二日後、倒れていた二人が目を覚ました。


「ゼノ!カルナ!ビオラ!!」


 と叫びながら飛び起きたガルクさん。ビオラにこれまでのことを説明され、「本当に、本当になんとお礼を言ってよいか……!」と頭を下げっぱなしだった。

 息子のゼノくんも「本当にありがとうございます!」と丁寧に頭を下げる。

 ゼノくんはセシルより少し年上の十二歳らしいが、父親に似て背が高いためもっと大人に見える。

 言葉遣いや振る舞いも丁寧だし、ワイルドな見た目に反しなかなかの好青年じゃないか。

 カルナもようやく目を覚ました二人に飛びついて喜んだ。


 全員の快気祝いということで、みんなで夕食をともにした。

 肉食中心と聞いていたので肉が多めのメニューだ。

 ビオラが獲ってきた獲物をふんだんに使い、女性陣が腕によりをかけて作り上げた料理だ。

 治療をしてもらった上に、自己紹介をしたばかりの自分たちに振る舞われるごちそうにガルクさんもゼノくんも恐縮していたが、空腹には勝てなかったらしくものすごい勢いで食べ始めた。

 うん、これだけ食べられるならもう心配はいらないな。


「本当にありがとうございます。二人がこれほどまでに回復できたのも、皆さんのおかげです。」


 改めて礼を言うビオラ。

 ガルクもそれに続き頭を下げる。


「長い間大変ご迷惑をおかけいたしました。おかげさまでこの通り動けるようになりましたので、自分たちはすぐにでもここを出て行きます。それともしお願いできるのであれば、我々が来たことを兵士たちに他言しないでいただきたいのです。」


「それなんだけど、私考えたんだけど…………」


 ガルクの言葉に、テレサが続く。言いながらちらりとセシルを見た。


「もしあんたたちが良ければ、ここで暮らさない?そうすれば安全だし、うちとしても人手が増えるならありがたいわ。」


 テレサがそんな事を言うのは意外だった。

 だってテレサは夫を…………。

 態度には出さないが、鬼人がここに居ることに複雑な感情を抱いていると思っていたからだ。

 ロベルトさんもマリアさんも驚いたようにテレサをみる。が、すぐにニッコリと笑って言った。


「そうよ。それがいいわ!」

「うむ、あんたたちが良ければここで一緒に暮らすというのは大賛成じゃ。」

「うん、俺も賛成だな。ビオラもそうだったし、鬼人の力は本当に頼りになるから。」

「カルナも一緒に暮らせるの?やったやった!ねえ、そうしよう!?」


 一斉に同意する俺たち。

 だがガルクさんたちは「しかし…………」と不安な顔だ。


「自分たちがいたら、迷惑になるのでは…………」

「なにいってんの。そもそもここは王国じゃないし、兵士どころか人なんてめったに来ないわよ。迷惑どころか助かるわ。」

「……本当に良いのですか?」

「もちろんよぉ。みんなあなたたちを歓迎するわ。」

「おれは反対だ。」


 水を打ったように静まる食堂。

 最後に聞こえたのはセシルの声だ。


「セシル…………。」

「みんな、簡単に信用し過ぎだよ。相手は鬼の血を引いてるんだぞ?油断して襲われたらどうするんだ。」

「………………。」


 静まり返る食堂。

 そのとき、「あの……」とゼノくんが声を上げた。


「僕たちは確かに鬼人だけど、鬼とは違うんだ。人間を襲ったりはしないし、心は人間だよ。」


 そうセシルに語りかける。


「そんなのわからないじゃないか。いつか鬼になってしまうかもしれない。」

「そんなこと……」

「それに、人間に追われてここに来たんだろ?だったら人間を憎んでてもおかしくない。特にひどい目にあったあんたと父親は、心が鬼に支配されてもおかしく____」

「父さんを馬鹿にするな!!!」


 突然の大声だった。

 ゼノくんがキッとセシルを睨む。セシルは思わず口をつぐんだ。

 ゼノくんは深呼吸すると、静かに続けた。


「……父さんは強い人だ。僕たちを助けるために狼の群れに立ち向かった。怪我をしてるのに……。足を切り裂かれても、腹を破られても父さんは逃げなかった。強い心を持っていたからだ。だから心を鬼に支配されたりなんか絶対にしない。……大声を出してごめんなさい。でも、これだけは許せなかったんだ…………。」


 最後の方は声に涙が混じっていた。

 ビオラも泣いている。

 ガルクさんも目を伏せながら「いいんだ……いいんだよ。ゼノ。」とゼノくんの肩を擦る。


 誰も何も言わず、重苦しい沈黙が続く。

 すると、ロベルトさんがゆっくりと口を開いた。


「……ビオラや。さっきの話を、二人にも聞かせてやってくれんか?セシル、お前さんはわしらの仲間だ。だから大人の一員として、これから聞く話をよく聞きなさい。そのうえでこの人たちが本当に鬼の仲間なのか、自分でよく考えなさい。」


 セシルが黙って頷く。

 ロベルトさんがビオラの方を見ると、ビオラも頷き、話し始めた。












「___というわけです。」

「……………………。」


 ビオラの話が終わる。

 セシルは黙ったままだ。

 他の大人たちも何も言わない。



「…………あの……ガルク、さん。一つ聞いてもいい?」


 セシルがゆっくりと口を開いた。ガルクさんは「何かな?」と穏やかに聞き返す。


「どうして……狼から逃げなかったの?」

「それはね、自分がこの子たちの父親だからだよ。大切な人を守るためなら、狼に喰われても痛くないと思ったんだ。」


 セシルの問いに、微笑みながらそう答えるガルクさん。「父親…………」とセシルは繰り返す。

 そして、ゆっくりとセシルは立ち上がった。

 ガルクさん一家の近くに歩み寄り、ガバっと頭を下げた。


「ごめんなさい。おれ、何も知らないのに酷いことを言いました。あなた達は鬼じゃない。全然似てない!さっきのおれの言葉を許してください!!」

「いいんだよ。こちらこそ、真剣に話を聞いてくれてありがとう。真剣に考えてくれてありがとう。」


 ガルクさんの目には涙が滲んでいた。ビオラも泣いている。

 テレサも涙を拭っていた。



「…………では、もう一度意見を聞こうかの。新しい家族を迎えることに賛成の者は?」


 ロベルトさんの言葉に、全員が手を挙げる。


「全員賛成だな。」 

「決まりね。」

「改めて、よろしくねぇ。」

「よろしくおねがいします。」

「カルナ、一緒に遊ぼうね!」


 鬼人一家も改めて「よろしくおねがいします!」と頭を下げた。

 こうして、俺たちの村に新しい仲間が加わった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ