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230.芸術と交流の秋

 収穫期とかぼちゃ祭りも無事終わったということで、トリノ公国の技術者たちにはさっそく仕事に取り掛かってもらう。

 今回は数カ月ここに住み込んで技術指導をしてもらう。当然前回やって来た技術者よりも荷物が多い。家財道具もあるからな。

 いつものヒッポグリフ定期便では他の商人たちに影響が出てしまうので、急遽増援部隊を派遣したのだ。

 丁度祭の直前に到着したということで、お祭りにも参加してもらえた。

 これぞベストタイミング。あとで外の者の視点から祭の感想を聞いておこう。


 まずは祭りでも大活躍だった芸術家チーム。

 ピアノやギタールなどの楽器の演奏方法を伝授する。

 うちの国からは希望者を募り、またマクシムの見立てで才能がありそうな人物に声をかけて人数を見繕った。

 その中にはクラリスもいる。専攻は勿論ピアノだ。その上達の速さには先生も驚きだった。

 楽器を弾きたい者は多く希望者が殺到したが、今回はプロを目指す者が対象だ。趣味でやりたい者はもう少し待ってもらう。

 うちの国でプロ演奏家が育てば他の者に指導することもできるからな。

 また、吟遊詩人という職業があるらしく、小さな竪琴を奏でながら物語を歌にする技法も教わった。文字の読み書きができないところではこういう手法で国や地域の歴史、伝承、事件、時に噂話を受け継いでいるんだとか。

 指導の傍ら街でも歌い歩いているが、街の人間にも人気がある。

 だんだんと音楽がうちの国にも根付いていっているようで嬉しい。


 音楽を学ぶための施設も建設に入る。

 音楽家の卵たちが学び、練習する音楽院。最初は小さな施設になるが、徐々に規模を広げていきたい。

 中には練習室がたくさん。この時代は防音なんて特に気にする者はいなかったが、街中ということもあるので防音は徹底させる。

 そして理論を勉強するための教室や楽譜などが置いてある図書室。

 輸入した楽器もここにはたくさん置く予定だ。

 まるで小さな学校だな。

 そしてトリノ公国で見た歌劇場。あれほど大きく立派な物じゃなくても、それなりのものは作りたい。

 トリノ公国で写真に収めた歌劇場の写真や、地球のオペラ座、スカラ座、ウィーン国立歌劇場など、名だたる劇場の外観、内観図をトウリョウたちに見せる。

 普通の家屋と違って大物の製作だからそれなりに時間はかかりそうだが、ノーム、コボルト、巨人族の力を結集して頑張ってもらいたい。

 そう言うと、彼等も気合十分にものすごい勢いで建設を進めていった。


 次に、ガラス工芸。

 うちにはジークベルトというガラス工芸の第一人者はいるが、今回は職人の数を増やすのが目的だ。

 うちではガラス製品と言えば食器やキッチン雑貨、薬の瓶や実験器具などが主だったが、トリノ公国では蝋燭カバーや花瓶、貴族の化粧箱等も人気だという。また、ステンドグラスのように色を付ける技法も興味深い。

 ジークの工房も借りつつ早速職人たちに教えてもらう。

 ただ、ガラス職人ならその名を知らぬ者はいないジークベルトに会い、さらに工房まで使わせてもらえるということでトリノ公国のガラス職人はものすごく震えていた。

「あああああの!お目にかかれて光栄の極み!どうか握手を……!」と涙ながらに乞う姿にはさすがのジークも引き気味だった。

 人間って、極限まで感動するとあんな高速で震えられるもんなんだな。

 握手をしてもらった手を天にかざしうっとりと見つめるおっさんを前にそんなことを思うのだった。


 さて、次はステンドグラスだ。

 俺がトリノ公国で感動した技術でもある。

 荘厳な神殿に緻密に作られたステンドグラスの窓があるのも良いし、トリノ公国では店の看板やはめ殺しの窓、小物入れなど、色々な所にステンドグラスを取り入れていた。

 さすがはステンドグラス発祥の国である。

 俺も工程が気になるのでちょっとだけ覗いてみた。

 ステンドグラスを作るためにはいくつもの工程が必要だ。

 まず、作りたいデザインを決めて設計図を描く。絵心が必要になってくるな。それが普通のガラス職人とステンドグラス職人の違いらしい。

 デザインが決まったら、ガラスをカットするための型紙を作る。これは原寸大が必要だから神殿なんかの大物を作る時は大変そうだな。何メートルもあるステンドグラスを作る時なんて、いったいどうしているんだろう?

 型紙が出来たらガラスを選ぶ。色は勿論、透け具合や質感、深みなんかも考えながら作らないと美しい仕上がりにならないらしい。

 色ガラスはガラスに様々な金属を混ぜることで作られるんだとか。作ったときの成分の度合いで微妙に色が変わるらしい。ガラス細工も奥が深いな。

 次は型紙に合わせて一片一片ガラスをカットしていく。割れないように、正確にカットしなければならないらしい。切れ味の良い刃物が良いとのことなので、物理耐久度最高と名高いアダマンタイト製の鋏を渡したら飛び上がって驚かれた。ちなみにこれは刀匠バルタザールの作品だ。

「アダマンタイトとはなんと高価なものを!この不思議な形状にこの切れ味!全ガラス職人の夢ですな!」と感動しきりだ。

 うちにはミスリルもアダマンタイトも、少量だがオリハルコンもあるからな。

 あ、龍鱗なんて言うチートなものもあったっけ。

 まあとにかく、これでガラスカットはしやすくなったな。

 カットしたら、鉛線でガラス同士をつなぎ合わせていく。鉛を曲げたり延ばしたり丁度良い長さにカットしたりと結構複雑な作業である。道具もヘラやノミ、ペンチのようなものと多岐にわたる。

 鉛線の作り方も丁寧に教えてもらった。なかなかの職人技のようで、ドワーフをはじめとする職人見習いが食い入るように見つめている。

 つなぎ合わせ終わったらはんだ付けをしていく。火で熱した鉄の棒をコテにして素早く慎重に。

 これ、火魔法の魔道具でもっと楽なものができないだろうか。

 あ、でも、この程度の道具に魔石を使用したら逆にコストがかかるか?一般受けはしなさそう。

 あとで一応提案してみよう。

 最終段階。粘土質のパテを鉛線とガラスの間に埋め込んでいく。

 ガラスと鉛線との間のパテがしっかり入っていないと、強度が保てなかったり、劣化を早める要因にもなるらしい。

 丁寧さと根気のいる作業だな。

 最後の仕上げは磨き作業。ガラスと鉛線に付着した汚れを落とす。複雑にカットされたガラスは割れやすいため、絶妙な力加減が必要で最後まで気が抜けない細かい作業となる。

 見ているだけでも集中力と丁寧さが必要だということがわかる。

 磨き終わればステンドグラスの完成だ。色鮮やかな草花を模したガラスが太陽の光を受けてきらりと光る。

 職人見習いも大いに感動したらしく、気合十分で己の腕を磨くための修行に入った。

 ノームたちにお願いして、ステンドグラス工房も建てておこう。


 その他にも、さまざまな技術者達が指導者として技を伝授していった。

 同時に、先ほどの鋏もそうだが至る所に散らばるエレメンティオの技術にも大いに感銘を受け、仕事終わりの酒場ではトリノの技術者と エレメンティオの見習いが自国の技術の発展について語り合う場面が多く見られた。

 技術共有を窓口にして、国民同士の交流も進んでいるようで良かった良かった。


 例年通り多くの畑の恵みと山の恵みを受け、新たな祭りも開催し、新しい技術に国を超えた人々の交流。

 俺達にとってまさに『実りの秋』となった秋は、にぎやかなまま終わりに近づいていった。


 

 

 

 

 

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