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229.かぼちゃ祭り

 季節は秋真っ盛り、いよいよ一年で最も忙しくなる『秋の大収穫』がやってくる。

 農林水産大臣ロベルトは気合を入れていた。

 今年は魔導ゴーレムや肥料の配合なども見直し、夏から秋のはじめの収穫は上々。

 秋のこの収穫期に大きな成果を出せればよい。

 そのためにも、明日からの収穫は滞りなく行わねば。


「ロベルト氏!大変です!!」


 息を切らせて駆け寄って来たのは、今や自分の部下ともなった移住者の獣人だった。









「――と、言うわけなんじゃ。」

「なるほどな。」


 執務室にやって来たロベルトさんの話はこういうことだった。

 王都の近郊にある実験用畑で肥料の配合実験をしていたところ、一つの区画が異常なまでに急成長し、数日の間に大量のカボチャが実ってしまった。

 カボチャは実験用以外の畑でもたくさん育てているため例年に比べて数が余ってしまう。

 しかも採っても採っても数日ですぐに生えてしまうため、このままでは消費が追い付かないかもしれないというのだ。


「余剰分は備蓄に回しても良いが、すでに備蓄分の計画も練った上での作付けじゃ。倉庫がカボチャだらけになるやもしれんのう。」

「開発の進んでいない農村部に回すとか?」

「世界樹と精霊様の加護のおかげでどの村も食料にはさして困っとらんようじゃ。農村部は野菜こそ少ないが穀物は足りておる。カボチャを回したところでのう。」

「そんなカボチャばっかり食べないか。何か大量消費のめどが立てばいいんだけどな。」

「国民に御触れを出してはどうじゃ?」

「『カボチャを食べろ』って?あんまり強制はしたくないな。何か自分から食べたくなるような――そうだ!」


 俺はある考えを思いついた。


「『カボチャ祭り』なんてどうだ?」


 カボチャ祭り。まあ地球のハロウィンとこっちの収穫祭を合わせたようなものだ。

 カボチャをくりぬいてランタンを作り、くりぬいたカボチャで料理や菓子を作って食べる。

 やって来た子ども達にカボチャの菓子をプレゼントするのも良いな。

 収穫祭の代わりということもあって、広場ではみんなにカボチャの料理をふるまう。

 そうすれば王都全体でカボチャが消費できるわけだから、余剰分の行き先にも良いだろう。


 それから何度か話し合いを重ね、準備を進めた。

 ロベルトさんは収穫期で忙しそうだが、新たな試みに胸を躍らせているようだった。


「これはまた凄いな……」


 収穫された余剰カボチャを見る。

 文字通り、山のように積み上げられていた。しかも山の数はいくつもある。


「よしっ、じゃあ予定通りにカボチャを格安で売り出して、実行委員には料理、運営その他を取り計らうよう伝えてくれ。」

「かしこまりました。」


 カボチャ祭り開催のお知らせが王都に行き渡り、各家庭がカボチャを購入してそれぞれの力作ランタンを掘った。

 そして、祭り当日。


「うわぁーい!ありがとう!!」


 子ども達が大喜びで駆けていく。

 手に持ったバスケットにはカボチャ入りのパウンドケーキが入っていた。

 当日、カボチャの蔓で作ったリースを玄関に飾っている家にいくと、子どもはお菓子をもらうことができる。このカボチャ祭りのために作られたルールだ。


 広場や大通りでは歌に踊りと賑わっている。

 ちょうど到着したトリノ公国の音楽家たちが祭りを盛り上げるためにゲリラで演奏をしてくれることになったのだ。

 ピアノ以外では初めて見るちゃんとした楽器の演奏にみんな大騒ぎだった。

 他の技術者たちも思い思いに楽しんでくれている。

 

 広場では各々が彫ったカボチャのランタン品評会が行われている。出場は自由、優勝者には金一封が出るということで、何百という応募があった。

 どのランタンも花や動物を模した模様を掘っていたり、顔を書いていたりと個性が光る。

 熾烈な予選審査を勝ち抜いた十三個のカボチャランタンが壇上に並べられると人々は拍手や歓声を送る。

 審査員を務めるのはヴェンデリン率いるドワーフ彫刻家集団から三名と、実行委員から二名の計五名。

 彼らの投票によって今年のベスト・カボチャランタンが決まる。

 出品した者もそうでないものも、誰の作品が選ばれるのかワクワクしながら見守っていた。


「さあ、いよいよ結果発表です!果たして第一回カボチャランタン品評会、栄えあるベスト・カボチャランタンに選ばれたのは――――――ディーデリヒです!!!」


 選ばれたのは木工細工を得意とするドワーフのディーデリヒだった。

 限界まで薄くくりぬかれたカボチャに、外側にも内側にも繊細な彫刻が施され、光を入れることで様々な模様が浮かび上がるようにできている。

 まさに職人の技と言える作品だった。

 二位は料理人のアレクシスだった。見事な包丁さばきでカボチャを芸術品のように仕立て上げた。

 ドワーフ勢を押しのけて人間の料理人が二位になるとは大したもんだ。

 今後、彼の店にはお客が殺到するだろうな。

 表彰式では嬉しそうに自分の作ったランタンと金一封を掲げるディーデリヒ。

 観客も惜しみない拍手を送る。


「それでは皆さん、お待たせいたしました。毎年恒例巨大料理!今年のテーマは何と言ってもカボチャ!カボチャの巨大グラタンです。列に並んで、器を受け取って食べてくださいね!屋台でお腹がいっぱいだというそこのあなた!今ならエルフの消化促進薬が二割引きでとか!?そこまでして食べたいかどうかはさておき、薬の効き目は保証しますよ!!」


 毎年の収穫祭の目玉ともいえる広場での巨大料理。

 大鍋でホワイトソースを作り、特注のグラタン皿に投入。勿論カボチャもたっぷり使ってある。

 水牛の濃厚なチーズをどっさりと入れたら火魔法でこんがりと焼き上げ。

 大きなグラタン皿を覆いつくす炎に歓声が上がる。

 これは見た目にもなかなかインパクトがあって良いな。

 大人も子どももみんな一緒に熱々のグラタンを味わう。

 同じ釜の飯を食うっていいよな。

 

「陛下の分もお持ちしました。解毒魔法は済ませてあります。」

「ありがとう、アヤナミ。……ん、美味いな。」

「おお、陛下も食べておりますなぁ!」

「ロベルトさん、これ、すごく美味いよ。」

「アヤナミ様の指導の賜物ですな。それに、今年は料理の仕上げがダイナミックで良かったです。」

「あれだけの炎が上がったら見物客も気になるよな。インパクトがあってよかったよ。」

「ミアガリアとサラマンダーが担当したんです。さすがは炎の系譜、見た目も威力も段違いでした。その中でも料理が焦げない絶妙な具合を維持していたというから驚きです。」

「水龍の料理に火龍の仕上げか。そりゃ美味しくなるわけだ。」

「お褒めにあずかり光栄です。……では、私は下の様子を見に行って参ります。」


 アヤナミが丁寧にお辞儀をして出ていった。

 忙しくても文句ひとつ言わず仕事をこなす姿は流石の一言だ。


「一時はどうなることかと思ったけど、カボチャも無事消費出来て良かったな。街のみんなも楽しそうだし。」

「陛下のアイディアには恐れ入りましたわい。廃棄寸前のカボチャで、これほどまでに盛り上がる催し物を行うとは。早くも来年の開催を望む声もありますぞ。」

「いっそ毎年の恒例行事にするか?」

「それは良いですな。実験畑も潰さずにすみますわい。」

「そう言えば、大量に実った原因は分かったのか?」

「エルフの研究者殿の見立てでは、薬の成分とカボチャに含まれる成分が反応したのではないかと言うとります。レタスやタマネギなど他の野菜畑にはそこまでの効果はありませんでしたわい。詳しくは研究者たちに尋ねると良いかと。」

「上手いこと調整できると良いな。何はともあれ、祭りについては成功してよかった。今後の継続については事後の反省会で話し合おう。」

「畑の野菜が主役になる祭りがあるのはありがたいですからな。期待しておりますぞ。」


「さぁて、わしも祭りの様子を見てこよう。」そう言って足取り軽く去っていくロベルトさん。

 いつもの収穫祭に増して、野菜をテーマに祭りが盛り上がるということは畑の人間からしたら相当嬉しいものなんだろう。

 ロベルトさんの表情は明るく、今にも踊り出しそうだ。

 これは本気で来年以降も継続しないとな。


 ハプニングから巻き起こった新たな試みは、文字通りお祭り騒ぎの大成功を収めたのだった。

 

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