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226.度肝を抜かれた

 今日はトリノ公国内を見て回る。

 世界三大国の街並みや産業を直に見て見聞を広めるのだ。

 式典や晩餐会のあった昨日よりはラフな格好でOKということで、シルクのシャツにジレにジャケット、地球のスリーピーススーツの様な服を着せられた。

 昨日のゴテゴテとした飾りやボタンがついたガウンに比べればかなり楽だが、それでもスーツみたいな格好は背筋が伸びるというか、身が引き締まる。

 とどのつまり全くラフではないということだ。

 外の散策の時さえTシャツとかシャツ一枚も許されないなんて。

 王様って大変なんだな。


「では、参りましょう。」

「楽しみですわね。」

「みんなもしっかり見て、俺たちの国に役立てることがあったら後でどんどん教えてくれ。」


 城から派遣された案内係に促され、馬車に乗り込みいざ出発!


 最初に向かったのは、水の街タルディアだ。

 ここはトリノ一の海街で、海運業や漁業が盛ん。

 魔物の襲撃に負けない丈夫な船の作りと腕の良い航海士、街に根を張る屈強な高ランクの冒険者達のおかげで遠い陸路を介さず船で遠くまで積荷を運べるんだとか。

 海の魔物が蔓延るこの世界で海路を持っているのはヴァメルガ帝国とトリノ公国だけ。

 その中でもトリノ公国は非常に発達しているらしい。


「うわぁ……!」


 すごい!建物が綺麗!運河がめっちゃある!

 壁白!人多い!船がたくさん!ゴンドラまで!

 複雑に入り組んだ島々と無数に広がる運河をゴンドラが橋渡ししている様子はまるでヴェネツィアだ。

 統一感のある白亜の建物に運河にかかる大小様々な橋。

 その橋の下をゴンドラが人を乗せてゆっくりとくぐり抜ける。


「なんて美しいのでしょう……」


 レティシアがため息を漏らす。

 その言葉に全面的に賛成だ。

 案内係の人が街についての説明をしてくれる。


「この街は利便性と景観を考え百年以上も前に作られました。建物も高さや外観の色合いなど法によって厳しく決められております。景観をデザインした街並みというのは当時では最先端だったのですよ。」

「すばらしいですね。あそこは市場ですか?」

「はい。海上交易の中継地でもあるため国内のあらゆる場所からあらゆる品々が集まるんです。国外から陸路で運んできたものを海路で各地に運ぶ役割もあるため、珍しい品々が手に入りますよ。」


 いいなぁ、こういうの俺たちも真似したいなぁ。

 漁港では屈強な男たちが漁網を担いで歩いている。その後ろには木箱に入った大量の魚を運ぶ男たち。

 荷揚げ所もすぐそばの魚市場も賑わっている。どこもかしこも活気にあふれているな。


「こちらのエリアは、貨物船と客船の発着所です。特にここではファティマ神聖共和国行きの便が出ております。」

「ファティマ神聖共和国?」


 なんだったけ?以前エスメラルダの授業で聞いたような。

 

「天使族の治める国です。精霊神教を信仰するものしか立ち入ることは許されていないのですが、怪我人や病人に限って治療のために受け入れてくれるのです。」

「へぇ、さすがは天使ですね。」

「とはいっても、法外な診療代金を要求されるのですがね。庶民にはまず手が出ませんよ。」


 なるほど、確かにファティマ行きの船に集まる人は身なりの良い人たちばかりだった。

 一週間に一回だけ出るというこの船にはケガや病気を治療したい貴族や高ランク冒険者で常にいっぱいらしい。

 ま、うちはエルフの薬と世界樹のフルポーションがあるから世話になることはないだろう。








 次は王都の観光だ。

 馬車で王都へと向かう道のりも道は綺麗に整備され、統一感のある建物が所狭しと並び都会的な雰囲気だ。

 「そろそろ到着しますね。」というシリウスの声に馬車から顔をのぞかせて景色を見てみる。

 荘厳で堅牢な城壁に囲まれた町。城壁には兵士が数多く配置され、敵や魔物の侵入を見逃さないよう目を凝らしている。

 中心部にそびえるのは、昨日俺がお邪魔した宮殿だ。

 その大きさと美しさはまさに王都のシンボルというにふさわしい。

 広場には大きな噴水や色とりどりの花壇、彫刻があり、人々が集まっている。

 王都の歴史を物語る記念碑や、有名な建物等、まさに一大観光地だ。


「この聖リヴィア大神殿は四百年前、水の女神の怒りによって大嵐がもたらされたときに、女神の使いであるリヴィアータが慈悲の心を示し我々を押し寄せる大波から守ったという記念に作られたものです。今でもこの国では水の女神を信仰しています。」


 水の女神と女神の使いリヴィアータ。

 おそらくは水の大精霊アクエラ様と、水龍レヴィアタンさんのことだな。

 アクエラ様、相変わらず激しすぎるんですよ。

 面倒見がいい(過保護ともいう)ところもあるにはあるけどね。


 その後も様々な工房や神殿、大型の商業施設などを見て回った。

 特に目を引いたのは陶磁器の食器類とガラス工芸だ。

 薄くてつやつやとした光沢を放つ陶磁器はカップや皿に細かい文様や絵が描かれていて、それだけで一つの芸術作品のようだ。

 ガラス工芸もビンやグラスなどバラエティーに富んだ作品が数多く作られており、工房もたくさんあった。

 うちの国も品質では負けていないと思うけど、規模が全く違うからな。

 特にステンドグラスの技術には驚いた。この国の王宮や神殿など、主要な施設には必ずと言っていいほどステンドグラスがあしらわれている。

 うちにも色ガラスをはめる技術はあるが、緻密さと芸術性のレベルが違う。

 いいな、これ。うちにも是非とも導入したいものだ。

 公衆浴場もあった。この世界では庶民は風呂に入ることさえも珍しい。公衆浴場なんて建ててやっていけるのはよっぽどの大都市だけだ。

 しかも、うちにあるただ広い風呂があるだけの浴場じゃない。

 大理石やモザイクタイルの床、壁画や彫刻で飾り付けられた壁と天井。

 大きな風呂の他にも水風呂や冷浴室、サウナのような部屋まで併設されている。

 さらに、風呂だけでなく酒場や図書室や遊技場なども同じ施設内に建てられており、公衆浴場というよりは一大アミューズメントパークのようになっていた。


 ななな、なんじゃこりゃぁ!!!


 すごい。すごすぎるぞトリノ公国!

 オルテア王国のキークスの街も大都会で感動したものだが、レベルがまるで違った。

 しかも何が凄いって、こんだけの施設を併設させておきながら入館料はかなりリーズナブルだってことだ。

 もちろん中で別途支払う分はあるんだろうけど、風呂に入るだけなら庶民でも手が届きそうだ。

 風呂の楽しみ方がわかっているなんて、トリノ国民とは仲良くなれそうだ。


 最後に案内されたのは歌劇場だった。ここで楽団の演奏に合わせた歌姫の歌を聞くらしい。

 複雑な彫刻や金細工が彫られた歌劇場は他とは一線を画する豪華さだ。


「この歌劇場は三十年前に完成したもので、この数ある彫刻群はあの稀代の天才彫刻家ヴェンデリン氏の作品なんです。氏の代表作の一つとして国内外でも知られていますよ。」


 案内係が解説してくれる。

 え?ヴェンデリンって、うちの国に住んでるドワーフのヴェンデリン??

 まじかよ、そんなに凄い人だったのか。

 でも確かに、うちの神殿に置いてある彫刻とここの彫刻達はどこかテイストが似ている気がする。

 彫刻や絵画や金銀細工がちりばめられた館内を歩き、特等席に通された。

 リンメル王国から取り寄せたというベルベットの生地の椅子に腰かけ、音楽鑑賞。

 激しく、繊細に音を奏でる様々な楽器と、美しい歌声で時に語り掛けるように、時に身振りを交えながら歌う歌い手が見事に調和していた。

 オペラの前段階のような、そんな雰囲気だ。

 これは今のエレメンティオではできないな。歌はともかく、楽器がないし演奏者もいない。

 留学生でも送り込んで勉強させよう。

 トリノ公国は国を挙げて芸術分野に対して力を入れているのが今日見てみてわかった。

 ぜひ勉強させてもらい、エレメンティオに取り込んで行こう。


 初めて見たトリノ公国の技術に終始度肝を抜き、改めて国の発展に向けて頑張ろうと心に決めた一日だった。

 

 

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