224.甘味はみんなの原動力
さて、蓬莱国から使節団が帰り、無事に和菓子や和食の作り方を学んできたという。
基本が抑えられたなら、いざレッツ・クッキング。
見よう見まねのなんちゃって和菓子(蓬莱菓子)から、俺たちなりのアレンジを加えてエレメンティオの和菓子を完成させる。
地球に飛んで和菓子と和食のレシピもたんまり持って来た。
今回の和菓子と和食は王都の他に『ヴェップ温泉郷』でも売り出すつもりだ。
マクシムに頼んで、サテュロスの料理人を何人か見繕って連れてきてもらった。
今やマクシムは『職業紹介所』の主人として人気を博している。
移住したばかりで仕事が決まっていない者や、将来どんな仕事に着いたらいいか知りたいという子ども達まで続々とやってくる。
ただ、どうもよく当たる占いのような扱いを受けているのが本人としては不服らしい。
何にせよ、活躍してくれてこっちは助かっている。
サテュロスの料理人達もそろったところで料理スタート。
まずはあんこを作る。
黒あんは小豆を、白あんは色いんげん豆を原料に作る。
ちなみにどちらも蓬莱国から持って来た。うちでも育てるか、輸入に頼るかはまだ迷い中だ。
場所も遠いし、うちで育てた方が良いかな?
豆を煮る。多めの水で煮て、沸騰したらさし水を繰り返す。
この工程をしっかり行わないと硬くて渋いあんこになるらしい。
綺麗な鍋に豆と水を入れ、再び柔らかくなるまで三十分ほど煮る。
豆が柔らかくなったのを確認したら、砂糖を数回に分けて入れ、優しく混ぜながら砂糖を完全に溶かす。
砂糖の量は好きにしていいらしいが、この世界では砂糖はそこそこの高級品だから、菓子と言っても一般的には甘さ控えめが多いらしい。
蓬莱国は砂糖が大量に取れるから甘い菓子が作れるんだとか。羨ましいことだ。
うーん、金額も大事だけど、だからと言って味気ない物になってもやだな。
まずは採算度外視で作ってみるか。あまりにも大赤字になるようだったら考えよう。
あんこづくりに戻る。
砂糖を加えたら、ふつふつと煮立つくらいの火加減で豆をつぶさないように優しく混ぜる。
煮汁が少なくなったら最後に塩を加えて味を引き締める。
完成。
「おお!うちでもちゃんとできましたね!」
「これが、『あんこ』というものですか?」
「そうだよ。和菓子の基本だ。和菓子にはあんこを使うものが多いから、このあんこの味で和菓子の美味い、不味いが決まると思っておいてくれ。」
「わかりました。まずはあんこを極めろ、ですね。」
「そういうことだ。」
蓬莱国では黒あんは粒あん、白あんはこしあんと決まっているらしい。
が、うちでは黒こしあんも作ることにした。
作り方は簡単。できあがったあんこをザルで濾すだけだ。
目の細かいザルで作った方が口当たりが滑らかになるので、極細で鋼鉄のように硬い糸を持つキルスパイダーに制作してもらおう。
それぞれが作ったあんこをお互いに食べ、批評し合い、すでにあんこだけでお腹がいっぱいになってきた。
ここからは使節団が蓬莱国から仕入れてきた菓子の情報を共有する。
使節団のみんなは相当気合が入っていたのか、出るわ出るわ、いろんな和菓子が出てきた。
まずは羊羹にねりきり、おはぎに大福と言ったあんこを使った定番菓子。そして三色だんごにあんだんご、なにも加工していない白だんご。
三色団子は着色料が手に入ったからうちでも作れるな。
更にはかき氷にところてん、ぜんざい、らくがん、せんべい、金平糖……。
短い日数でよくこれだけ調べたな。勿論作り方もばっちりだ。
うちの国民の働きっぷりには頭が下がるよ。
こうなりゃ俺も本気を出さなきゃな。俺の『賢者の書』が火を噴くぜ。
大福が出たならイチゴ大福やスイートポテト大福、みたらし団子、どら焼き、白玉あんみつ、カステラに栗茶巾。
主に俺が食べたいものをピックアップしてみた。
さらに、『和風カフェ』もあったらいいなと思いカフェメニューも考案。
といっても同じく食べたいものをピックアップするだけだけどね。
白玉ぜんざいに抹茶あんこパフェ、おにぎりにくずもち、あんバタートースト、あんバターパイ、あんバターサンドイッチ……。
甘味以外の和食も忘れてはいけない。
懐石料理は今のところ旅館に任せるとして、今回は庶民がふらりと入れるリーズナブルな和食処を想定する。
そば、うどん……この辺は粉さえあれば比較的簡単だ。パスタづくりで培った腕がある。そば粉は蓬莱国から輸入しよう。
蓬莱国には箱寿司の技術があった。握り寿司よりは作りやすそうだしこれも採用。
あとはてんぷらに魚の煮つけや焼き魚、根菜などをきんぴらにしたもの、煮物などが伝わった。
『賢者の書』からは、和食の定番をひたすら出してみる。
肉じゃがにとんかつ、照り焼きチキン、卵焼き、天丼牛丼親子丼。あ、かつ丼も良いな。
季節の炊き込みご飯も食べたいし、一汁三菜の定食として出すのも良いかもしれない。
ああ、言ってるだけでよだれが出てきた。
そこから数日はもうひたすら作っては試食、作っては試食の連続だった。
取り入れた技術を自分のものにするまで何度も作り直し、新しいレシピを完成に近づけるため何度だってダメ出しをしあう。
さすがに俺たちで全部試食はリバースしそうな勢いだったので、急遽城にいる幹部たちを招集して試食係をしてもらった。
「これは優しい味でつるつるっといけますね。温かいのも冷たいのも美味しいと思います。」というのは経済産業大臣のオリバーだ。
「これが卵ですか?ふっくら優しい歯ざわり……いくらでも食べられますな。」これは財務大臣のジャルグのお言葉。
「サクッとしたカツとだしのジュワッとした感じが合いますね!」
「甘い大福の中に酸味のあるイチゴ……陛下は天才でございますわ。」
「蓬莱国のあんにうちのバターがこれほどまでに合うとは、誰も思いつきませんよ!」
試食係は何とも幸せそうに食べ続ける。試食のうわさを聞いて幹部以外の補佐官たちものぞきにやって来た。
特に、甘味は全方位に効果絶大だ。飛び上がるほどに驚き、甘味を作った料理人の手を握って褒め称える者もいた。
国の中枢を担う幹部にそんなことを言われては、料理人たちも疲れてなどいられない。
この国に『和菓子』という文化を根付かせるべく、全員が一丸となって取り組んだ。
そして……
「はあ、はあ、ついに、やったぞ。」
「ここまでくれば、店に出してもやっていけると思います。」
「あとは店の店舗と料理人の配置ですね。」
「幸い試作をしていく中で誰が何を作るかの分担ができてきましたから……」
「ではあとはお互いの成功を祈って……」
「陛下!大変です!我が国の砂糖の在庫が切れそうです。どうやら試作に使いすぎたようです!どうしましょう、このままじゃ……」
「「「「「なんだとぉ!?!?」」」」」
教訓:何事もやりすぎると後が大変。
その後、久遠に連絡を取って砂糖を輸出してもらうことになり事なきを得た。