221.セシルの成人
セシルが成人した。
十五歳になり、神殿で成人式を行った。
この日のためにオルテア王国から帰って来たのだ。
ちなみに行商のついでだからとヘイディスさんもエレメンティオにやって来た。
「ついで」なんて言っていたけど、セシルの成人式に立ち会うためだというのは見え見えである。
セシルのこと、かわいがってくれているみたいだな。
「セシル、成人おめでとう。」
「ありがとうございます!ヘイディスさん。」
「これでお前ももう立派な大人だ。これからはうちの下働きではなく、エレメンティオの商人として働くんだ。」
「嬉しいけど、おれ……大丈夫ですかね?」
「不安になることなどないよ。お前はうちの従業員の中でも特に優秀だったんだから。きっと大商人になれる。」
「大商人……おれ、頑張ります!頑張って、ヘイディスさんやオルディス会頭のようなすごい大商人になります!!」
「困ったことがあったらいつでも連絡していいからな。お得意さんとして、よろしく頼むよ。」
「はい。精一杯勉強します!」
「商売とは人と人を繋ぐ行為だ。一つの商品の裏側には百人の苦労と絆が詰まっている。そのことをいつも忘れるなよ。」
「はい、今までありがとうございました!!」
師匠であるヘイディスさんにガバッと頭を下げるセシル。
少し見ない間に顔つきが随分大人びた。
街の人にもよく声をかけるし、よく見ているようだ。
これは将来有望だな。
「ヘイディスさん、お久しぶりです。」
「これは陛下!」
「陛下はやめてくださいよ。今まで通りお願いします。」
「では恐縮ですがケイさん。」
「そっちの方がいいです。セシルを預かってくださってありがとうございました。」
「いえいえ、有望な若者を鍛えるのはやりがいがありましたよ。」
「セシルは随分顔つきが変わりましたね。」
「そうでしょう?最近では接客や交渉の方も力を入れていて、いやなかなかやり手ですよ。ぜひしばらくは行商で他国やほかの街を回らせた後、エレメンティオの窓口にしてやってください。きっと上手くやると思います。」
「それなんですが、東の大陸の交易にセシルを任命しようと思うのですが、どう思いますか?」
「東の大陸ですか?あの幻の……!交易、ということは、ケイさんはそこへ行って国交を結んだんですね。そうですね、我々は知らない未知の国ですが、だからこそセシルの機転がものをいうと思いますよ。」
ヘイディスさんは随分とセシルを推しているな。
きっと自分の弟子として可愛がってきた分の贔屓目もあるのだろう。
だが、セシルの機転が利くことは俺もよく知っているし、器用な男だから初めての国でも難なくこなすだろう。
よし、次の使節団と一緒にセシル達交易隊も連れていこう。
成人式では久しぶりに再開した友達と盛り上がっていた。
特に親友のゼノはセシルが帰ってきて一番に駆け寄って行ったし、買い食いをしたり踊りを踊ったりと成人のお祝いの雰囲気を楽しんでいる。
「でもすげぇよな!おれは小国の小さな村の農民の子で、ゼノは鬼人の里の子で。それが今ではこんなでっかい国の外交官と商人だからな。」
「僕達で森を開拓して作ったんだよね。」
「最初の出会いは衝撃だったな。ガルクさんとか、おれめっちゃ怖かったもん。」
「その割にセシルは勇敢だったよ(笑)でもあの時セシルが受け入れてくれて本当に嬉しかった。改めてありがとう。」
「や、やめろよ!今更!」
「森の開拓も、大変だったけど楽しかったよね。」
「おれ達子どもにできることは少なかったけどな。でも、今なら大人だからなんでも出来るぜ。」
「読み書きを教えて貰えたのもすごく嬉しかった。しかも学校まで通えて。」
「ゼノ滅茶苦茶覚えるの早かったもんな。本当にすげぇっ!って思った!」
「それを言うならセシルもでしょ。負けないように必死だったよ。」
「ヘイディスさんにも『覚えがとても早い』って言って貰えたんだ。これからはおれ達が頑張って、エレメンティオの子ども達を応援していかないとな。」
「僕は最初の成人者として、セシルは最初の子どもとして、責任重大だね。」
「お互い場所は違えど、頑張ろうな!」
二人は拳と拳をコツンと重ね合わせ、大人の親友同士の誓いを立てた。
「あ、そういえばコレ秘密なんだけど、僕婚約したんだ。」
「え、はあぁぁああ!?!?!?」
「しーっ、声が大きいって!」
「ちょ、なん、誰と!?クラリスか?」
「違うよ。アリエル・シャレット。シュタイル王国から来た王女様だよ。本当は陛下の妃としてきたんだけど、その、色々あって下賜されることになったんだ。」
「まじかよ!お前モテると思ってたけど、まさかお姫様と婚約するとか聞いてねーぞ!あーあ!俺も嫁さん欲しい!」
「結婚はまだだよ。彼女がこの国に馴染んだらその時に結婚するつもり。だから、セシルも秘密にしてよ?これは陛下の命令なんだから。」
「わかったよ。……んで、どこが好きなの?」
ゼノの爆弾発言に、しばらくセシルの質問攻めが続いた。
成人式から数日、セシルはエレメンティオにやってくる商人たちと話をしながらこの国の商売について学んで行った。
今現在、国の代表商人として窓口係をやっているのがエルフのユリシーズだ。
ここで暮らす前は魔族領との堺の山間に住んでおり、魔族と取引をしていた経験も活かして対魔族交易も担っている。
セシルは彼の元で働きながらエレメンティオや国外で商人として活動することになった。
そして、第一回蓬莱国使節団が派遣された。
メンバーはサラ、ゼノ、以下五名。中にはセイレーン族もいる。
そして御用商人としてセシル達商人集団。
作物やレトルト食品、そしてシルクの布や糸をしっかりと積み込む。
勿論、新商品のサンプルや手土産も忘れない。
「諸君、頑張ってきてくれ。」
「はい、陛下!」
将来有望株と謳われた若い二人は意気揚々と船に乗り込んで行った。