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216.予想だにしなかった

「では、互いの和解を祝い宴としよう。客人よ、大いに楽しむと良い。」


 久遠(クオン)が扇子をパチンと閉じる。

 すると部屋の両側にあった襖という襖が次々に開き、ごちそうの膳を持った侍女たちが入ってきた。

 あっという間に部屋は宴会場と化し、調査隊と船員は促されるままに座っている。


「貴方様はこちらへどうぞ。」


 俺と同じ黒髪黒目の女性に促されついていく。

 彼女が「漆黒の髪と夜空の眼を持つ人々」――ウォルード大陸では伝説の存在だ。

 ってか、なんで俺だけみんなと離れて久遠(クオン)のすぐ隣なんだよ。

 一段高いし、いろいろ気を遣うだろうが。

 あと、絶世の美女が隣だと緊張するだろうが。


「ようこそ、客人。」

「どうも……って、俺ここに座っても良いのか?」

「構わぬ。立場的には対等と言ったのはそなたであろう?」


 侍女たちにエスコートされながら久遠(クオン)の隣に座る。

 厚手の座布団がふかふかで気持ちいい。


「それに、夜の民は礼儀正しく気が利くからわらわも好いておる。」

「『夜の民』?」

「そなたのような漆黒の髪と目を持つ人種族のことだ。そなたも見たところ夜の民のようだが、この国にゆかりがあるわけではないのだな。」

「ああ、俺は、その、もっと遠いところから来たんだ。」

「何やら訳ありの様子。詮索は無粋じゃ、よしておこう。」

「ははは、ありがとう。」

 

 宴会は豪華絢爛の一言だった。

 据えられた膳は赤や黒の漆塗り、しかも金を用いて絵を描いている。

 うちのケットシーよりも漆技術を使いこなしているな。

 食器も円型だけじゃなく雫や木の葉を模したもの、船の形など様々だ。

 料理も地球の懐石料理のように見た目にも美しい、しかも美味しい。

 海に囲まれた国なだけあって海産物が豊富に出てきた。


 すごいな。系統は違えどこの発展具合、大国に匹敵するんじゃないか?

 うちは地球の技術で相当進んでいると思ってたけど、食器や料理の盛り付けなんか完全に負けている。

 これ、本気で国交を考えた方が良いかもしれない。


「そなたの国、エレメンティオとはどういうところだ?」

「ああ、エレメンティオは――」


 俺はエレメンティオについて話した。

 世界樹や大精霊の加護については伏せるが、魔王と親睦があること、魔王の承認により『世界の声』が発動され建国にいたったこと、まだ新興国だが、他国との交易も行いどんどん発展しているということ。


「ほう?つまりエレメンティオを抑えれば、ウォルード大陸の技術は全て我が物になるということだな?」


 久遠(クオン)が妖しく微笑む。

 ちょっと待て、今なんか物騒な言葉が聞こえたぞ。

 俺は久遠(クオン)の美しさと迫力に負けないようちょっとにらみながら言った。


「あのな、戦争を考えているんだったらやめた方が良い。たぶんだけど、うちの国には勝てない。」

「……無論、そのようなことは考えておらぬ。安心するのだ。」


 極上の笑みを俺に向ける久遠(クオン)

 耐えろ、ここで流されてはいけない。彼女相手に警戒を解いてはいけない。


「とはいえ、そなたの国に興味があるのも事実。ここは改めて、互いの友誼について会談の場を設けぬか?」

「え?いいのか?」


 キターーーーーー!!

 その言葉を待っていた。

 ぶっちゃけ出会いが出会いだし、長年鎖国していたような排他的な国だから国交は厳しいかとも思ったけど、まさかあちらから提案してくれるとは!

 久遠(クオン)の狙いは気になるが、ここはYESの一択だ。

 

 そして俺たちは明日改めて正式な首脳会談を行うことになった。

 久遠(クオン)はその後も宴会が終わるまで、エレメンティオや他国のこと、俺のことについて根掘り葉掘り聞いてきた。

 時に久遠(クオン)自身からの酌を受けながら、酒と久遠(クオン)の色気に酔わされないように俺も必死だった。

 大丈夫、変なことは言っていないはず。……多分。

 










 その夜、俺達は賓客として久遠(クオン)の住居兼公邸に泊まらせてもらった。

 俺は王ということもあり一際広く豪華なつくりの部屋に泊まった。

 あたりには人の気配がない。時折木々がざわめくだけのとても静かな空間だ。

 目の前の庭に広がる大きな池には月がぽっかりと浮かんでいる。

 さっきまでのにぎやかさとは大違いだな。

 酒も飲んだし、明日は会談もあるし、早く寝よう。

 俺は早々に布団に入って眠りについた。






 

「ん……」


 寝苦しくて体を動かす。

 なぜだか寝返りが打てない。というか身動きができない。

 寝ぼけ眼で薄っすらと目を開けると、俺を見下ろす銀色の人影。


「――っ!?」


 一気に目が覚める。

 なんと俺は今まさに久遠(クオン)に覆い被さられていた。


「……しぃーっ、静かに。」


 長い爪をもった久遠(クオン)の白く細い指が俺の頬を撫でる。


「くおっ、何して……!?」

「そなたのようなタイプには、武力よりもこちらの方が効くと思ってな。ほら、力を抜け。」

「――っ」


 指先でつつっと身体をなぞり、柔らかい唇を俺に押し当てる。

 ちょ、まて、俺、今、キスしてんのか!?

 わぁお、ファーストキス……!じゃない!そんなこと言ってる場合じゃない。

 いや、初めてがこんな絶世の美女で嬉しくないわけがないけど、でも、ダメだ。

 し、舌が……!

 負けるな。他のことを考えろ。羊が一匹、羊が二匹……!


「ケイ……」


 耳元で吐息交じりにささやく。色気のある声。


「や、ちょ、あの、あ――っ」







 

 俺は人生で初めて「そういう」経験をした。




 

 








「では、これより蓬莱国(ホウライノクニ)、帝・久遠(クオン)陛下と精霊王国エレメンティオ、国王・ケイ陛下との会談を執り行います。」


 会談の場。俺は昨晩のことが頭の中でぐるぐるとしていてパニック状態だった。

 記録係として参加しているサラに気取られないよう必死で取り繕う。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、のっけから久遠(クオン)が俺にストレートをかます。

 

「して、ケイ殿、昨夜のこと、責任を取る気はあるのだろうな?」

「なっ!?こんなところで!」

「大事な話じゃ。昨晩ケイ殿とわらわは契りを交わした。まさか何の責も負わず逃げるつもりか?」

「交わしたというか、襲われたというか……」

「なんじゃ?満足できなかったのか?途中からあんなに積極的に……」

「わーーー!!!!ストップストップ!!ここで言わなくて良いから!!」


 会談の場でなんつー発言をするんだ。

 サラは顔が真っ赤だし、そっちの付き人も気まずそうにしているだろうが。


「で、どうするのだ?」

「……俺なりの誠意は見せるつもりだ。久遠(クオン)殿は何が望みなんだ?」

「わらわの望みはケイ殿と婚姻を結ぶことだ。嫌だと言うのであれば『世界の声』にてケイ殿の醜聞を打ち明けよう。」

「結婚って、会ったばかりなのに?」

「残念だが一目ぼれしたわけではない。そなたの『王』としての立場に興味がある。……ま、そなた自身も好ましくはあるがな。」


 俺じゃなくて、地位が目当てかよ。

 まあ、そんなことだろうとは思ってたけど。

 

「一つだけ教えてくれ、なんでこんなことを?久遠(クオン)殿はすでに女帝の立場についているし、国自体も発展している。俺と婚姻を結んでまで地盤を固める必要はないはずだ。」

「国の発展の原動力は『知りたい、手にしたい』という欲だ。そなたたちがこの大陸に来たことで、我らは『外の世界』を知ってしまった。であれば、外の世界を手に入れたいと思うのは自然であろう?多くの国と国交を結び、物資も技術も豊富にあるという国であればなおさらな。そなたは言ったな。『戦争ではわらわ達は勝てない』と。それほどの軍事力が後ろ盾となるのも魅力の一つ。エレメンティオの王よ、何も血を流すだけが国盗りではないぞ?」


 勝ち誇った顔で久遠(クオン)が言う。その顔すらも美しいのだからもうどうしようもない。

 正直、完敗だ。

 久遠(クオン)は一滴の血も流さずエレメンティオの王である俺を手に入れた。

 婚姻関係を結べば当然国交も開始される。夫婦が治める国同士なんだからその分他国よりも融通してやらなければならない。

 責任を取らずに逃げれば(逃げられる気がしないけど)、久遠(クオン)は世界中に俺の悪評を広める。そうすれば今友好国として接している国の心証がガタ落ちする。

 他国の王族に手を出して逃げたなんてとんでもない醜聞だ。

 何にせよマイナスになることは必至である。


 ……まあ、俺としても結婚一択なんだけどね。

 正直襲われたとはいえいたしたのは確かなんだし、責任逃れをするほど姑息ではない。

 それに、久遠(クオン)と夫婦になればエレメンティオの技術を提供すると同時に蓬莱国(ホウライノクニ)の技術も提供される。

 相互発展、素晴らしいじゃないか。

 和風の国の特色ある文化なんて、正直ほかのどの国よりも取り入れたいところである。

 久遠(クオン)も意外と気さくで話しやすいし、見た目は勿論言うことなしだ。

 

 よし、細川圭、腹をくくります!


「そっちの言い分はわかった。久遠(クオン)殿、こんな場で恐縮ではあるが、俺の奥さんになってほしい。」

「ふふふ、喜んで応じよう。ああ、夫となるのだから、そなたのことは『背の君』と呼ばせてもらう。わらわのことは呼び捨てで結構。」


 こうして、俺も予想だにしなかった奥さんをゲットしたのだった。




 

 

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