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214.情報交換

「私は……私は、何ということを……!!」


 その場に崩れ落ちる氷雨。

 そりゃそうだよな。首領の自分がチームの秘密や結界のことについて外部の者に喋ってしまったのだから。

 襲われたとはいえ、ちょっと可哀想なことをしちゃったな。

 

「イリューシャ、これからは勝手に行動はするな。特にイリューシャの『支配』の力は強すぎるから。」

「はい、差し出がましい行いをして申し訳ありませんでした。」


 珍しくイリューシャがかしこまって謝罪をする。俺が真剣に言っていることが伝わったようだ。

 これでもう勝手に『精神支配』をかけるようなことはなさそうだな。


「イリューシャの主として謝罪するよ。悪かった。俺はケイ。エレメンティオっていう国から来たんだ。」

「エレメンティオ……聞いたことが……確か『世界の声』で……」

「この大陸にも『世界の声』は届いたのか?」

「『世界の声』はこの世界のすべての民に届く。自分たちはあなた方のことを聞いている。」


 そう答えたのは、俺の交渉にOKしてくれた男性だ。

 

「ちゃんと約束を守って話してくれるんだな。ありがとう。あんたの名前は?」

「自分の名は『浅葱(アサギ)』、こっちは『朱殷(シュアン)』だ。」

「おい浅葱(アサギ)、お前何勝手に……!」

「氷雨様を解放する代わりに情報を渡す。そういう約束だ。」

「だからって――」

「隠したところで先ほどのように洗脳されて吐かされるだけだ。すべて吐かされるくらいなら自らある程度の情報を渡したほうが得策だろう。」

「――くそっ」

「二人とも、すまない。私がふがいないせいで迷惑をかけた。」

「何を言うんです。この力の流れ……もとより自分らが勝てる相手ではありません。」

「確かにな。もはや俺たちの手には負えねぇ。久遠(クオン)様に頼るしか……」


 必死に氷雨(ヒサメ)をかばう二人。

 どうやら部下には慕われているようだ。


 それにしても、彼等は獣人なのだろうか?

 氷雨(ヒサメ)は黒猫と人間のハーフといった感じ。ケットシー程猫よりではないが、うちの猫人族が耳としっぽだけなのに対しこちらは顔立ちもどことなく猫っぽい。

 浅葱(アサギ)朱殷(シュアン)は犬か狼かとのハーフ。コボルトよりは人間に近いといった感じか。


 色々聞きたいことはあるが、警戒心を解くためにもまずは座って休憩だな。

 俺達は沼のほとりに腰を下ろして休憩をする。

 『(シノビ)』達は警戒して立っていたが、イリューシャが促すとしぶしぶ座った。

 どうやら抵抗したところで勝てないと悟ったらしい。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。侵略しようとか、そういう目的じゃないんだ。」

「はっ、どうだか。口では何とでも言える。」

「やめなさい、朱殷(シュアン)。……では、我らをどうするつもりで?」

「まあまあ、まずはお菓子でも食べてエネルギー補給してからだな。ほれ、あんたたちも食べてみなよ。」

「賊に渡された食べ物を口にする愚か者が居りましょうか。」

「賊じゃないって。信用無いな。まあ、拘束しといて信用しろってのもあれだけど。でもほら、ゆくゆくは『久遠(クオン)様』とやらに会って食べてもらいたいと思ってるんだ。先に毒見しといた方が良いんじゃないか?」


 そういうとしばらく固まったのち、氷雨(ヒサメ)が覚悟を決めた顔で渡したクッキーを一口で食べた。

 そして目を輝かせる。


「これは……なんという……!」

氷雨(ヒサメ)様、どうしたんですか!?」

「くそ、やっぱり毒か!?」

「なんという甘美な味……!」

「気に入ってもらえたみたいだな。もう一つどうだ?」

「い、いただこう。」


 どうやらクッキーは気に入ってもらえたようだ。

 氷雨(ヒサメ)の姿を見てか、他の『(シノビ)』のメンバーも恐る恐る口に入れる。

 サクッとホロリと崩れる不思議な食感とほのかな甘さにみんな驚いていた。


 食べながら話を聞くと、氷雨(ヒサメ)は『猫又』という種族で、浅葱(アサギ)朱殷(シュアン)は『狗神(いぬがみ)』という種族らしい。

 身体能力と魔法の両方に優れ、国の武士階級のほとんどを占めているとか。

 猫又って言うと、うちのババ様も猫又だったと思うんだけど、こっちの猫又とはちょっとずつ違うな。


 そして、ここは『蓬莱国(ホウライノクニ)』という国なんだとか。

 東の大陸全土を支配する多種族国家『蓬莱国(ホウライノクニ)』。その頂点に立つ帝が『久遠(クオン)様』だ。


「その『久遠(クオン)様』に会わせてくれないか?会って話をして、できれば国交とか結べたら嬉しいんだけど。」

「それはあなた方侵入者を都にまで入れたうえ、久遠(クオン)様を危険な目に合わせろというのか?それは承服しかねる。」

「……久遠(クオン)様に会わせてくれたらその拘束と首の奴も取ってやるよ。どのみちあんたらの魔力じゃどうにもならないし、久遠(クオン)様のところへ行くしかないんじゃないのか?それならついでに連れてってって話。ダメか?」

「……」


 迷っているみたいだな。

 直属部隊としては侵入者を都に入れるのは絶対に阻止したいところなんだろう。

 そして何よりはやく久遠(クオン)様に事態を知らせて指示を仰ぎたいはずだ。

 しかし俺たちを久遠(クオン)様に会わせないと拘束は解いてもらえないし、逃げ切ることもできない。

 指示を仰ごうと都に戻れば必然的に俺たちもついてくる。


「まあ、今日はもう遅いしここで野宿だ。ゆっくり考えてくれ。」


 硬直したまま迷い続ける『(シノビ)』達は一旦置いておいて、俺達は野営の準備を始める。

 今日の夕食は冷凍保存したホーンフライングフィッシュの塩焼きと干し肉と野菜のスープ、グリッシ特製パンだ。

 目の前から漂う美味しそうな匂いに『(シノビ)』達もチラチラ気にしている様子。


「良かったら一緒にどう?毒が入ってないのはさっき食べてわかったろ?」

「……いや、我々は……。」

「お腹がすくと判断力が鈍るぞ。」

「……ふっ、確かにその通りだ。やはりいただくとしよう。」

「拘束は解けないから食べづらいと思うけど、そこは我慢してくれ。」


 アヤナミが『(シノビ)』達の分の夕食を配膳してくれる。

 氷雨はそんなアヤナミの姿をまじまじと見た。


「あなたはいったい何者なのです?ただの人間に見えるが、流れる力は久遠様にも匹敵する。そちらの従者の男も然り。さらには侍女まで。そのような強き者を従える貴方は真に人間か……?」

「ああ……俺はただの人間だよ。ちょっと事情があって二人を預かっているんだ。わかっているとは思うけど二人は相当な力の持ち主だからあんまり怒らせたりしないでね。あ、もちろん俺がしっかり手綱を握るつもりだけど、何せ龍なもんで……」

「『龍』とは?」


 驚いた。ここの人たちは龍を知らないのか。

 こんだけ強力な結界を島に張れるくらいだからてっきり風龍が関係していると思ったんだけど。


「『龍』っていうのは、なんというか、神様の遣いみたいな。とにかくありえないほど強い力の塊みたいな存在だよ。二人はまだ子龍だけどね。」

「最初から敵う相手ではなかったということか。敵の技量を見誤った私の不覚であるな。」

「この国は多種族国家なんだろ?人間もいたりするのか?」

「勿論いるとも。市井の多くは人間だ。」


 なんでも俺と同じ黒髪、黒目の種族が多くこの国に住んでいて、街や農村で暮らしているらしい。

 もちろん人間以外も暮らしている。狗神や猫又の他にも亜人や魔族が一緒に生活しているらしい。


「人間と魔族の対立とかないのか?」

「古には人族と魔族は相容れぬ存在だったが、今は共存の道をたどっている。それを成したのが久遠(クオン)様、今からおよそ五百年前のことだ。」


 ……久遠様、一体何年生きてんだよ。

 ウォルード大陸で言う魔王みたいな存在なのか?

 でも、人間と魔族が共存する国ならある意味他の国より打ち解けやすいかもしれないな。

 これは国交の希望が見えてきたぞ。

 この日本的な植生、ぜひうちにも取り入れてみたい。

 

「……あなた方は現時点で圧倒的優位に立っている。なぜ他国のものに容易く情報を渡す?」

「別に隠す気はないからな。むしろ俺たちのことを知ってもらって、交流ができたらいいなと思っているんだ。最初は本当に住んでいる人がいるなんて思わなかったけど、国があるなら交流を考えるのは悪いことじゃないだろ?これでも一応王様なんでね。」

「……そうか。」

「さ、そろそろ寝よう。マントとかないのか?こっちも手持ちが少なくて。」

「構わぬ。我らはそういう訓練を受けている。」

「見張りはイリューシャの結界があるからいらないよ。寝てる間に襲ったりもしないからゆっくり寝てくれ。じゃ、おやすみ。」


 調査隊のみんなも促し、俺達は眠りについた。

 エレメンティオより湿気の多いここは夏は少々寝苦しかった。


 

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