211.出航
あけましておめでとうございます。今年ものんびり更新でやっていこうと思います。
本年もお付き合いの程よろしくお願いいたします。
トリトン王に通行の許可も貰ったということで、早速航海への準備を進める。
前回の反省を生かしながら積み荷をどんどん積み込んでおく。
メンバーは前回と同じ。
俺、アヤナミ、イリューシャ、サラ、ゼノ、ジェイク、イヴァンだ。
そして船員たち。船長は勿論リンドだ。しっかり頼んだぞ。
メローナの街にて、出発式を行う。
王都を出る時にもたくさんの国民が手を振って見送りしてくれた。
彼らのためにも何らかの成果を持ち帰りたいものだ。
メローナの出発式にわざわざ来てくれる者もいた。
挨拶をし、船に乗り込む。
俺達の出発の様子は魔法で各街にライブ中継されている。
この技術、本当に便利だよな。これのおかげで国民全員の意識が同じ方向に向かうし、情報を共有することによる一体感も生まれる。
田舎の農村は中央が何をしてるかなんて知らされず、ただただ農地を耕すなんてこともザラだからな。
手を振りながら、船は出発した。
今度こそ、東の大陸にたどり着いて見せる。
東の大陸には何があるんだろう。こことは違う植物や動物?
食べられるものもあるだろうか。鉱石資源は?
強い魔物がそこら中にいるとかはやめてほしいんだが。
そして何より、「漆黒の髪と夜空の眼を持つ人」。彼らは本当に存在するのだろうか。
今日は西向きの風が強く帆の調整が難しかった。
それでも船員たちが的確に動いてくれたおかげで無事に進んでいる。
魔石エンジンもあるしな。
あとは、途中で『ホーンフライングフィッシュ』という頭に角の生えたトビウオみたいなのが大量に飛んできてビビった。
群れで突っ込んでくるうえ、頭にカジキのように角が生えているもんだから体に当たればどうなるかは想像に難くない。
イリューシャの対物理結界でしのいだ。
甲板に打ちあがったホーンフライングフィッシュを刺身にして食べてみたらとても美味しかった。
もちろん、血で海を汚さないように浄化魔法で綺麗にしたり、内臓は小さく刻んで魚や海鳥のえさにした。
航海は順調に進み、もうすぐセイレーンの海域に差し掛かる。
セイレーンの海域に近づくと、数人のセイレーンたちが海から頭を出して出迎えてくれた。
「東の大陸まで、我々が案内をしよう。」
どうやら目的地に連れて行ってくれるらしい。ついでに船に魔物が来ないように護衛もしてくれるとか。
親切だな。最初、警戒していたのが噓のようだ。
ありがたく親切を頂戴し、一行はさらに進む。
マーレが船上でいろいろと案内をしてくれた。
ここは水深が深いとか、ここは潮の流れが変わりやすいとか、ここは目には見えにくいが岩礁があるとか。
それらをゼノが一生懸命メモを取る。
船乗りからしたらありがたい情報である。
船を進めていると、ケルピーの群れが接近中という情報が入った。
ケルピーとは下半身が魚の形をした水棲の馬らしい。鬣には上質なワカメやひじきが生え、食べると美味しいとか。
……いや、ケルピーの鬣とか食べたくないんですけど。
どうやら比較的おとなしく話の分かる魔物らしいので、セイレーンたちが遠くに行くように説得してくれるとのこと。
本当に、セイレーン族と仲良くなって良かったな。
俺達だけじゃケルピーが交渉可能な魔物ということもわからなかっただろうし、口を利くことすらなく戦闘になっていただろう。
セイレーン代表のマーレにお礼を言っておく。
ケルピー達との交渉は成功し、ケルピーの群れは船から離れていった。
夜の間も船は進む。セイレーンたちやイリューシャ、アヤナミ、そして見張りの船員たちのおかげで夜も難なく過ごすことができた。
航海二日目。
アスピドケロンに遭遇した。
見た目はテレビで見た「クエ」という巨大魚にそっくりだ。ただ、その大きさが半端じゃない。
この船の半分くらいの大きさがありそうだ。何喰ったらこんなにでかくなるんだよ。
どうやらセイレーンを含めた人型の生き物を食べるらしい。完全に敵である。
各自臨戦態勢に入る。アスピドケロンはずっと昔からセイレーンの海域にちょっかいをかけているらしい。
これはいつも来る個体だと言っていた。
たしかに、アスピドケロンの身体は傷だらけだった。
アスピドケロン襲来の情報を聞いて、海の中から続々とセイレーン達がやって来た。
各々槍や魔法で攻撃する。
アスピドケロンも体をくねらせ攻撃をはじき、その大きな口でセイレーンを一飲みにしようと食らいつく。
戦闘は水中で行われているが、アスピドケロンが大きく暴れるせいで船も揺れる。
うぇっぷ、気持ちわる……。
「船が揺れると料理ができません。ケイ様、片づけてもよろしいですか?」
「いいけど、出来るのか?水中だぞ?」
困った顔でアヤナミが問う。
水龍だから水中でも戦えるのか?
そんなことを考えていると、ザパァッとアスピドケロンが顔を出した。
近くで見るとますますでかい。こんなの人間に勝ち目ないだろ。
船員たちは恐怖の表情を浮かべ、船体にしがみついている。
アヤナミがスッと動いた。
アスピドケロンが海上に姿を現したその一瞬を見逃さなかった。
太い氷の矢がアスピドケロンの脳天を突き破る。
アスピドケロンはビクンッと跳ねると、そのまま動かなくなり、その巨体が船の隣にプカリと浮いた。
おおう、瞬殺。これぞアスピドケロンの「活き締め」だな。
アヤナミ、良い板前に慣れるんじゃないか?っとまあそれは置いといて。
セイレーンたちは歓喜の声をあげていた。
長年の宿敵アスピドケロンを倒したのだ。
互いに抱擁し、手をたたき合い、健闘を讃えた。
「御助力、感謝いたします。長年の敵であったアスピドケロンは死にました。これでセイレーン王国に平和が訪れます。」
「宿敵だったみたいだけど、俺達が倒して良かったのか?」
「いいえ、長年の敵と入ってもそれほど入れ込んではおりません。海にはまだまだ危険な生き物がたくさんいますから。その一つを排除してくださったこと、本当に感謝しています。」
どうやら手柄を取られた云々はなさそうだな。
というか、「海にはまだまだ危険な生き物がたくさんいる」か。どうかこの航海中に危険な生き物に極力出会わないことを祈らないとな。
人間は水の上ではほぼ無力。アヤナミやイリューシャに頼るほかない。
トリノ公国はよく人間だけで海に出ようと思ったよな。
アスピドケロンは流石にこのままにしておけないとのことで解体された。
セイレーンたちの編み出した「血抜きの魔法」により辺り一面が血の海になるようなことは避けられた。
血なまぐさい海水に潜るなんて本人たちも嫌だろうからな、そこはしっかりしているのだろう。
倒したのはアヤナミだが、セイレーン達も戦った上に俺たちだけじゃ処理しきれないということで、その身を半分に分け合うことで落ち着いた。
アスピドケロンは美味いらしい。もっちりと脂ののった身をたんまりもらった。
骨は武器にするらしく、セイレーンたちが持っていった。保管庫もそれほど広くないし、俺達は肉がもらえれば十分。
戦勝会のメインにしてくれたまえ。
セイレーンの戦士たちは何度もお礼を言いながら海の底に潜っていった。