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210.セイレーン王国使節団②

今年最後の更新になります。本年もお付き合いくださりありがとうございました。

次回は2024年1月6日を予定しております。

では、よいクリスマス&よいお年をお迎えください。

 その後も俺達は順調に漁に出て、俺達なりのやり方も掴んできた。

 リンドたち船乗り集団も近海をうろつくなどして船の操縦の腕をあげている。

 来たるべき航海の時に備えて準備に抜かりは無い。


 航海の準備は何も船乗り達だけでは無い。

 ドワーフ達に頼んで、望遠鏡と懐中時計を作ってもらった。

 この世界のこの時代には、眼鏡や虫眼鏡はあるが望遠鏡は無い。

 遠くを見ることが出来るのは『千里眼』の祝福を持つ人間か魔族、または身体的特徴により視力が良い種族だけだ。

 俺としては『千里眼』の魔法よりも望遠鏡の方がずっと簡単だと思うんだけどな。

 作るのは凸レンズと凹レンズを組み合わせた、『ガリレオ式』と呼ばれるタイプの望遠鏡だ。

 レンズ、つまりガラスを使うため、ジークに依頼した。

 ジーク曰く構造は大したことないが、レンズを作るのにちょいと時間がかかるとの事。

 まあ今すぐに必要って訳でもないからぼちぼちやってくれ。次の航海に間に合ってくれれば御の字、間に合わなかったら……残念でしたってことで。


「わかっているとは思うが、これの存在は他国には絶対の秘密じゃぞ?」

「え?なんで?上手く出来たら売ろうかと思ってたんだけど。」

「バカモン!こんな人知れず遠くから様子を見ることが出来る道具など、軍事利用にもってこいじゃろうが。敵の偵察に革命がおこる。どの国もこぞって手に入れて戦争に使いたがるじゃろうよ。」

「あ……なるほど。」

「知らぬうちに様子を覗かれ、不意打ちで攻撃を食らう。死者や怪我人が増えるのは目に見えておる。特にすぐ隣でドンパチやっとる小国の民共はな。エレメンティオも他国から注視されとるようじゃし、よからぬ事を考えるやつは出てくるじゃろうな。」

「そうだな。わかったよ、これはうちの国家機密。ジークも作り方を教えて自慢したりすんなよ?」

「当たり前じゃ。」


 望遠鏡がまさかの国家機密とはね。

 まあ、確かに誰でも遠くがのぞけて敵の情報が筒抜けなんて戦争にもってこいだわな。

 地球でもよく海賊とかが使っていたイメーシあるし。

 俺たちの平和を脅かさないように十分注意するとしよう。


 懐中時計は、彫金や宝石加工が得意なグレゴールに頼んだ。

 いくつもの歯車が組み合う設計図を見て、「うぬぬ……これはまた細かいのう……。」と呟くグレゴール。

 さすがのグレゴールでもお手上げかと思ったらそうではなかった。

 自分の腕が試されていると武者震いをしていたらしい。

 彫金師の名にかけて完成させてみせると言ってくれた。

 その間、宝石細工はストップ。

 俺も時計に集中して欲しいからもちろんOKをだす。

 立派な時計を待っているよ。

 ちなみにこの世界で一般的に使われているのは日時計だ。

 太陽の動きに合わせてできる影で大体の時間を把握する。

 キークスに行った時も広場や神殿など主要な場所には日時計が置かれていて静かに時を刻んでいた。

 エレメンティオの広場にもある。

 見た目はかっこいいと思うが、大体の時間しか分からない上に晴れの日しか使えない。

 当然だが太陽が沈んだ後の夜の時間も使えない。

 グレゴールの懐中時計が完成したら、エレメンティオの時間感覚が一気に変わるな。

 文字盤を大きくしたものを広場や神殿前広場に飾って、安く作れるようになったら個人で持つのもいいかもしれない。

 これはさすがに軍事関係ないよな?知られても問題ないよな?

 俺としては時間感覚は世界共通でやっていきたいので輸出は前向きに検討するつもりだ。

 

 それと、前回持っていった地図は魔王に貰った世界地図のみだったが、地球儀も作ることにした。

 この世界地図、空飛ぶ種族がいるおかげもあってなかなかの正確性である。

 龍の力でさらに精密なものを作ってもらう。

 空高く飛び上がり、小型転写機で写真を撮影。

 色んな場所や角度から取り、その写真を元に大陸や島々の形を写し取る。

 言うのは簡単だがやるのは非常に難しい……が、シリウスに頼んだら簡単にこなしてしまった。

 龍って凄いな。力が強いだけじゃなくて器用とか。

 大精霊の世話役を担っているだけのことはある。


 そうこうしている間に二回目の使節団派遣の日がやって来た。

 こちらから派遣するメンバーは前回と同じ。

 前回より勝手がわかっている分視野が広がって様々なことを学べると思う。

 向こうからはマーレ率いるセイレーンたち、顔触れを見るに少々メンバーチェンジしたようだ。

 そして俺たちの依頼通り、歌い手を連れてきたらしい。

 

「彼女はメル。セイレーン王国一の歌い手です。」


 マーレが紹介し、メルと呼ばれた可愛らしい女性がにっこりと微笑む。

 早速広場で歌ってもらうことに。

 セイレーン王国からの使者ということで街のみんなも興味津々だ。

 多くの人だかりを前に、メルはにっこり笑って一礼。そして――


 ♪♪♪


「うわぁ……!」

「なんて綺麗な声……」

「優しくて、なんだか涙が出ちゃう。」

「こんなに美しい歌は初めて聞いたぜ……」

「もっと聞きたい!」


 歌が終わった後は大歓声が起こった。

 惜しみない拍手に答え、アンコールまで披露してくれた。

 歓声が再び起こったのは言うまでもない。


 その後メルはマリアさんの食堂の片隅で歌を披露することになった。

 これから毎日、食堂や広場など人が集まるところで歌ってくれるらしい。


「噂には聞いていたけどすごかったな。」

「セイレーン族は元々歌が得意な者が多いのですが、彼女はその中でも特別です。」

「一瞬で引き込まれたよ。」

「言っておきますが、魔法は使っていませんよ?」

「あはは、わかってるよ。それだけ感動したってことだ。」


 メルを褒められてマーレ達もちょっと誇らしげだ。

 というか、前回来たときよりもマーレの雰囲気が柔らかくなった気がする。

 だんだんと心を許してくれているのだろうか。


 特にトラブルもなく、交流は進んで行った。

 俺たちが回収したアルミ素材のリサイクル方法(単純に溶かしなおしているだけだが)を見て感嘆したり、砂糖やはちみつを使ったケーキやクッキーに目を輝かせたりと、地上を楽しんでくれているようで何より。

 俺達も魚や貝の取り方、素潜りのやり方などを教わったり、一緒に素潜り漁でワカメを取ったり、北の砂浜(俺達が塩づくりをしていたところだ)でハマグリやアサリを取ったりと有意義に過ごした。

 セイレーンが人化を保って地上で暮らせるのは二週間前後が限界とのことだ。途中でメンバーを変えながらひと月ほどこの国で過ごし、セイレーンたちは帰っていった。


 うちの使節団も帰ってきた。

 どうやら海の知識について共有してもらったらしく、食用魚やそうでないもの、毒のある海の生き物、危険な魔物の生態などをしっかりとメモしてきたらしい。

 ダンタリオンは忘れないうちにと本にしたためにこもった。


 使節団が戻ってきて三日後、突然メローナの街から俺に呼び出しがあった。

 慌てて”風移動”でメローナの街に行くと、なんとトリトン王がやってきていた。


「突然済まない。今後のことについての話だ。」

「あ、ああ。じゃあこっちに。」


 メローナに一国の王をもてなすような迎賓館はない。

 取り合えず大きめの宿屋の一室を借りた。


「狭いところで済まないな。人目につかない方が良いと思って。」

「急に来たのだからどこだろうと文句は言わない。それで今後のことだが……」


 トリトン王が俺に告げたのはこういうことだ。

 ・セイレーン王国はエレメンティオの住人は信頼に足る人間であると判断した。

 ・よって今後はセイレーンの海域を通行することを許可する。

 ・できれば今後も交易を続けたい。食料と魔道具を中心に。

 やった。ついに通行の許可が下りた。これで東の大陸に行けるな。


「通行の許可、感謝するよ。それにセイレーン王国の人たちも親切にしてくれてありがとうと伝えてくれ。」

「こちらこそ、制限の多い不躾な願いを聞き入れてくれて感謝する。海をきれいに保とうとする貴殿らの心も伝わった。」

「交易も継続を希望してくれて良かった。今後もよろしく頼む。」

「ああ、地上の食べ物は美味しいと評判だ。これからは取引量も増やしたい。ところで、この国にセイレーンを住まわせてもらうことは可能か?」

「へ?」

「交易や互いに連絡を取り合うために、数人駐在させてもらえるとスムーズだと思うのだ。海域の通過も出来れば事前に知らせてほしい。その時にセイレーンが居れば、その者伝手にすぐに連絡が取れるだろう。」


 なるほど、地上と違って手紙も手紙も送れないし、シルフも使えないもんな……ってあれ、手紙はあれを使えば遅れるんじゃ?

「トリトン王、この場にイリューシャを呼んでも良いかな?」

「ん?構わぬぞ。」


(イリューシャ、すぐにメローナの俺のところへ来てくれ。その時にシリウスに『転移の水盆』を複製してもらってくれ。)

(はーい)


 軽い返事がして一分もたたずに、吹き抜ける風と共にイリューシャが現れた。

 俺はイリューシャから『転移の水盆』を受け取る。

 よしよし、バッチリ複製できたみたいだな。


「トリトン王、これを使ってみないか?これは『転移の水盆』と言って――」


 水盆の使い方を説明する。トリトン王は大いに感心した様子だった。


「このような魔道具があるとは驚きだ。これをもらってもよいのか?」

「俺が作ったわけじゃないけどね。いいよ、持っていって。これからは手紙でやり取りしよう。あ、もちろんセイレーンの常駐も認めるよ、なんかあったとき直接知らせる手立てもあった方が良いしな。」


 それから俺たちは交易の細かい打ち合わせや駐在員の話を突き詰めた。

 駐在員の住む場所は海のすぐ近くが良いというのでメローナに大使館を作ることにした。

 そして、歌い手や楽譜なども寄こしてくれるそうだ。

 これは楽しみだな。


「じゃあ、近いうちに上を通るからその時はよろしく。」

「ああ、気を付けてくるのだぞ。」


 トリトン王はそう言い残すと海に消えていった。


 

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