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21.世界樹の力

 本格的に暑くなった。いよいよ夏の到来である。

 いつの間にかこの世界に来て四十日以上が経っていた。

 最初はどうなることかと思ったが、精霊たちのチートな力も借りて徐々に発展しつつある。

 家屋や食堂の他に、資材加工所や獣の解体所、洋裁所なども建て、今はレンガや土器づくりのための窯を工事中だ。

 森を探索中に良い粘土が取れるポイントを発見したので、地球の技術を『賢者の書』に挟み込んで持ってきた。

 そのうちレンガ造りの丈夫な建物もできるだろう。

 ここまで来たら胸を張って「村」と呼んでもいいんじゃないかな。総勢六名(プラス精霊たち多数)の超少人数村だけど。


 そうそう、ノームたちの総数を数えてみたら、七十九人だった。ちなみにこれは村に引っ越してきた数。

 いつもはそれに加えて手伝いやらなんやらで増えたり減ったりする。

 建築を中心に頑張ってもらっているが、作物の収穫時には畑にも応援に来てもらっている。

 これからも色々分担して作業してもらうことが多いと思うので、一グループ十三人の六グループ、加えて全体指揮の棟梁という形に別れてもらった。

 グループの見分けをつけるため、赤、青、黄、緑、桃、橙の布で帽子を作り、それぞれ赤帽子隊、青帽子隊、黄帽子隊、緑帽子隊、桃帽子隊、橙帽子隊とした。

 さらにそれぞれの帽子隊のリーダーに名前をつけ、すぐに見分けられるよう(申し訳ないが彼らは本当にみんな同じ顔をしているから誰が誰だか分からない)リーダーの帽子にだけ星のワッペンを縫いつけた。

 ノームたちは特に反対することも無く、新しい帽子を気に入ってくれたので良かった。

 改めてこれからよろしく頼む。

 各帽子隊のリーダーの名前は以下の通り。


 全体指揮:紫帽子(名前:トウリョウ)

 赤帽子隊:(アカネ)

 青帽子隊:(ソラ)

 黃帽子隊:(コガネ)

 緑帽子隊:(ミドリ)

 桃帽子隊:(サクラ)

 橙帽子隊:(ミカン)









 ____セシルが怪我をした。

 狩ったうさぎを解体していたとき、うっかり自分の手を切ってしまったのだ。


「あ、平気平気!おれ丈夫だから!!」


 と笑うセシルだが、強がっているのが丸わかりだ。

 一見傷口は小さいが結構出血しているし、獣の血や内臓を触っていたのだから早く洗わないとやばい気がする。


「馬鹿なこと行ってないで早く洗いなさい!」


 テレサがピシャリと言うと「うへっ」と言いながら水路へ向かう。

 マリアは大急ぎで保管していた薬草を取り出し、「これでなんとかなるといいけど……」と心配そうだ。

 俺たちは幸か不幸か、今まで大した病気や怪我はしてこなかった。

 せいぜい森を探索中に擦り傷を作ったり、畑仕事で豆ができたくらいだ。

 そのせいで薬の準備が充分でない。

 もし傷口に菌が入って化膿なんてしたらシャレにならない。


「お兄ちゃん・・・痛そう・・・」

「とにかく、薬草ときれいな水、包帯代わりになるものを!」


 この生活が始まって初めてこんな怪我を目の当たりにし、不安で涙目になるフランカ。

 ライアが優しく肩に手を置いて微笑んだ。


「大丈夫ですよ。皆さん、セシルを世界樹の前へ。」

「えっ?」


 わけがわからないと言った様子のテレサ。

 しかしロベルトさんは何かを察したらしく、「言うことを聞くのじゃ。」と促した。


 とりあえず傷口を洗ったセシルを世界樹のもとにつれていく。

 出血はまだ収まらず、じわじわと血が滲んでくる。

 ライアは軽やかに世界樹の上に乗ると、葉を一枚取り、幹に何かをして戻ってきた。


「これを傷口に。大丈夫。痛くありませんよ。」


 そう言うとセシルの傷口にとろりとした金色の液体をぽたりと落とした。

 するとどうだろう。傷口がみるみるうちに塞ぎ、スゥッと消えてなくなった。


「はへ?」


 セシルはぽかんと口を開け、手を握ったり開いたりして確かめる。


「……治った!?」


 驚いてガバっとライアを見上げるセシル。

 ライアは「もう大丈夫ですよ。」とセシルに微笑みかけた。


「い、今のは……?」

「世界樹の樹液です。世界樹は生命を司る樹。その樹液はどんな傷も癒やし、葉を煎じればどんな病も治ります。」


 ライアの説明に、全員驚いて世界樹を見上げた。


「そんな力があるなんて…………。」

「まるで神様の使いね…………。」

「世界樹ってそんなことまでできるんだ…………。」

「さすが伝説の樹。わしらには到底はかり知れん力があるんじゃな…………。」


 フランカはセシルの傷が治ったことに「よかったぁ!」と喜び、ライアに飛びついた。

 セシルも頭を下げてお礼をいう。


「お兄ちゃんを治してくれてありがとう!」

「あ、ありがとうございましたっ!」


「気にしないでください。これからは怪我や病気のときは私を呼んでくださいね。それと、念の為世界樹の樹液と葉をとって保管しておきましょう。」


 そう言うと再びふわりと舞い上がる。

 ドライアドに羽はないはずなのに、まるで重力なんて無いかのように自由に動く。

 俺たちはライアから貰った世界樹の樹液を小瓶に移し入れ、葉を煎じて水薬を作った。

 世界樹の葉の薬はキラキラとした美しい若葉色に輝いていた。


 



____これが世にいう「フルポーション」の一種であるということを知るのはまだ先の話である。



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