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209.セイレーン王国使節団

 俺達がメローナへ帰ってから数日後、セイレーン王国からの使節団がやって来た。

 やってきたのは五人。白肌に青髪、青い目。全員古代ギリシア風の服を身にまとい、裸足である。

 とりあえず大急ぎで靴を履かせた。

 全員つぶらな瞳の美男美女だ。羨ましい。

 使節団のリーダーはマーレという女性だ。長いウェーブのかかった髪と可愛らしい顔立ちはどことなくアヤナミに似ている。

 彼女達は最初は警戒心MAXで固まっていたが、サラやゼノに連れられて色々と見て回るうちに好奇心が勝ってきたようで、少しずつ顔が綻んでいくのがわかった。

 まずは安心してくれたようで良かった良かった。


 うちからは対魔族外交担当ダンタリオン率いる六人が行っている。

 イリューシャの言う通り、ミアガリアに頼んでみると難なく変身させてくれた。

 足にヒレが生え、水中呼吸ができるようになり、水圧に強くなる。

 立派なセイレーンの完成だ。

 どうかトリトン王を始めセイレーン達の信頼を勝ち得るように頑張ってきて欲しい。


 船での漁に加え交易で大物の魚が多数入ってくるようになったので、エレメンティオの魚文化は大幅に向上した。

 メローナでは毎日のように客が訪れては珍しくて美味しい魚料理に舌鼓を打っている。

 俺もいくつかの魚料理を提案してみる。

 和風の煮魚やちゃんちゃん焼き、包み焼きに、洋風のアクアパッツァやブイヤベース。

 天ぷらやフライといった揚げ物まで。

 そして海街だからこそのメニュー、刺身やカルパッチョ、タタキ、海鮮丼などなど。

 生魚を楽しめるって良いよな。

 この料理改革のおかげでメローナは港街としてだけではなく、料理の街としても有名になった。

 もちろんメローナだけでは無い。王都も宿場町カーライルもヴェップ温泉郷でも、様々な魚料理を提供する店が増えた。


 もうひとつの交易品、真珠だが、これはスラウゼン王国で人気らしく高値で売れた。

 スラウゼン王国でも海岸沿いでたまに見つかるらしいが、その人気に比べて数が少なく、値段も跳ね上がっていた。

 うちで手に入ると聞いたら飛び上がっていたよ。

 かなり強気な値段交渉をしたが、あっさりと了承して貰えた。

 ぶっちゃけ仕入れ値の十倍以上の値段で売れる。

 さらに、グレゴールやドワーフの里のドワーフに作らせた宝飾品ともなればもっと高値がつく。

 在り来りな安い宝石として仕入れた真珠が国を渡すだけで超高級品に大変身。

 これほど楽な商売はないだろう。

 ……あくどいとは思わないで欲しい。


 マーレたちは魚や貝の養殖技術に精通していた。

 俺たちにもその技術をおすそ分けしてもらう。

 メローナの海岸に生簀を作る。海中では魚が逃げないように網や膜を張るらしいがここでは不要だ。

 今回はヒラメとエビ、ホタテの養殖にチャレンジする。

 ちょうど漁に出て取れたヒラメの中に産卵期の雌がいたので、採卵する。

 孵化して数日したら稚魚用の餌(見た感じプランクトンだな)を与えて育てる。

 一年半ほど育てたら立派に成長し美味しく食べられるとか。

 時間がかかるプロジェクトだが生き物を育てるのだから当然か。むしろ一年半後には安定的にヒラメが手に入ると思えば楽しみも増える。

 エビやホタテの養殖方法も説明された。

 ちなみにこの世界でエビは魔物という分類だ。

 よくかかるのはクルマエビっぽいエビ。大きさは地球の伊勢エビほどもある。その姿は確かに魔物っぽくもある。

 エビは抱卵しているメスがかかり次第養殖開始。ホタテは丁度今の季節に「採苗器」という稚貝を付着させる網みたいなものを海に泳がせるらしい。

 三~四カ月後に回収すると、採苗器に稚貝がたくさん付着しているんだと。

 それを順次育てていく。ホタテの場合は餌はいらず、海の中の細かいプランクトンで育つらしい。

 なるほどなるほど、とりあえずの流れはわかった。

 あとは地球に転移して『賢者の書』に綴じこんでおこう。

 それにしても、海の中の種族が魚や貝の養殖をやるんだな。

 ……俺たちも豚や牛などの家畜を育てているから似たようなもんか。

 何となく、人魚って生活感がないというか、「海の生き物を傷つけたりしません!」って感じかと思ってた。

 本人達にそれを言ったら、「この世界は弱肉強食です。生き物を食べずにどうやって生きていくのですか?」と返されてしまった。

 ぐうの音も出ない。

 ファンタジーな想像は頭の中だけに留めておこう。


 セイレーン達は漁にも詳しかった。

 セイレーン達の魔法は魚を探知して魔法で仕留めていく方法だ。

 海中の魚を探知する魔法を教えてもらった。

 エルフたちに頼んでそれを魔道具に落とし込む。

 所謂『魚群探知機』だな。

 また、俺が提案した「定置網漁」の網の設置も手伝ってくれた。

 海岸から五キロほど離れた場所に網を設置してもらい、船で網を引き揚げに行く。

 定置網漁は文字通り海底に網を定置し、そこにかかった魚を引き上げる漁法だ。

 魚群を追って追いかけるなどしない分一度に毎回大量とはいかないが、簡単で陸から近い場所でもできる。

 うちの漁の主力は沿岸漁業。まさにうちにぴったりの漁法だ。

 これでサケ・マス、ブリ、マグロ、イワシ、アジ、サバなどの所謂『浮魚』を取ることができるな。


 やはり海のことは海の住人に聞くのが一番だ。

 始めたばかりの漁業も、彼らのおかげで一気に安定化しそうな予感。










 二週間ほどが過ぎ、使節団は一旦帰っていった。

 海の種族らしく長くは陸に上がれないらしい。

 うちの使節団も帰ってきた。

 ミアガリアに人魚化の魔法を解いてもらい、早速報告会。


「彼らの国はとても美しいところでした。国民の警戒心が強く最初はあまり情報を明かしてくれませんでしたが、交流していくにつれて徐々に打ち解けることが出来たように思います。」

「街では特に音楽――歌が盛んに歌われていました。私達を惑わす恐ろしい歌ではなく、普通の歌です。街中の外や民の交流の場となる建物の中で日常的に歌が歌われています。中には歌うことを専門に仕事をしている者もいました。」

「歌い手か。セイレーンの歌は美しいからな。うちの町街にも来てくれたら良いのに。」

「陛下ならそうおっしゃると思い、次の使節団派遣の際には歌い手をこちらに寄越すようお願いしておきました。向こうも歌を褒められることはセイレーンの中でも大きな誇りらしく、きっと来てくれると思いますよ。」


 さすがはダンタリオン、仕事が早い。

 今までうちは生産性のある職業に注目してばかりだったが、こういう娯楽のための職業があったって良いよな。

 セイレーンの歌、楽しみだ。


「それと、セイレーンの国では海を汚さない、ゴミをなるべく出さないようかなり徹底しています。つきましては交易品のレトルト容器であるアルミ素材をエレメンティオで処理して貰えないかという打診がありました。セイレーン王国では処理が難しいようで溜まっていく一方だそうです。」


 環境にも配慮しているんだな。

 アルミ素材の回収。溶かして再利用もできるし、こちらとしては構わない。

 ただ、ゴミを押し付ける訳だからその分の回収費用は少しだけでも貰っておこう。

 この国がゴミ捨て場のような扱いになっては困る。

 こういうのはポーズが大事だからな。


「アルミ回収については良いと思う。ただし、回収と処理のための費用は向こうが負担することと。できる限り綺麗に洗って引き渡すことを条件にしてくれ。」

「かしこまりました。」


 うん。ダンタリオンならその辺の交渉も上手くやってくれるだろう。

 他にも様々な報告を受け、報告会は終了した。

 使節団にはゆっくり休んで貰うことにしよう。


 セイレーン王国。

 漁業と真珠と環境保全の国か。

 俺達とは違う方向で発展している国なんだな。

 そういう国と知り合いになれたことで、エレメンティオの可能性もグッと広がる。


 次の使節団派遣が楽しみだな。

 

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