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208.トリトン王

「そうか、貴殿らがあの……」


 本当に王がやって来た。

 トリトン王――この辺りの海域を支配するセイレーンの王だ。

 長く白い、たっぷりとした髪と髭を持つ堂々たる初老の紳士だった。

 おまけに人間に変身出来るらしい。

 人化したトリトン王は古代ギリシアのようなゆったりとしたガウンを身につけ船の甲板に立った。


「初めまして、トリトン王。俺は精霊王国エレメンティオの国王、ケイです。」

「トリトンだ。貴殿の話は『世界の言葉』から聞いている。あの魔王と懇意にし、人肉食を止めさせたとか。その力の強大さは聞き及んでおるよ。ああ、敬語は不要だ。王としての対等な話合いとしようではないか。」


 ……なんかだいぶすごい感じで伝わってるけど、俺自身の力が強いわけじゃないんだよな。

 あ、防御力は最強クラスだと思うけど。

 あとは周りの技術者が優秀だっただけだ。


「こちらとしてもエレメンティオの王と敵対することは望ましくない。」

「俺達は東の大陸を目指しているんだ。そのためにここを通行する許可が欲しい。出来れば今回限りではなく、この先自由に通行させてくれたら大助かりなんだが。」

「残念だがそれは難しい。ここ百年ほど、人間による海域荒らしが多発しておる。南西の方に領域を持つ一族は、近くの陸地の人間が船で海に進出してきた影響で数を減らしておる。具体的には船で漁に出て魚を乱獲したり、解体した魚や魔物の血で海を汚したり。こちらとしても歌や魔法で対抗しておるが、解決には至らん。貴殿らを通したら、南西の一族の二の舞になるやもしれん。」


 ああ、海洋汚染問題か。

 それはまあ、気持ちは分かる。

 自分たちの土地で勝手に食料を乱獲されゴミを不法投棄されるんだもんな。

 しかも海の一族にとって海水は空気同然。ゴミや血で汚れたらその影響は絶大だ。

 ちなみに南西の国っていうのはおそらくトリノ公国だろう。あそこは船による海運業と漁業が盛んだからな。

 そして聞くところによると、船を沈めるセイレーンに人間も黙ってはいないらしく『セイレーン狩り』も行われているとか。

 両者の溝は深まるばかりだな。


「なるべく海を汚染させないように務めるよ。ゴミも捨てないし、魔物の解体も海上では控えよう。輸送するための最低限は許して欲しい。もちろん、セイレーン達に危害もくわえない。それでどうかな?」

「……貴殿が力を持つ実力者であり、また嘘偽りのない心でこちらに話をしていることはわかった。しかし、一族の命運を決める問題だ。理解して頂きたい。」


 うーん。平行線か。

 でもセイレーンの海域広そうだし、迂回は面倒臭いな。

 さて、どうしたもんか。


「発言しても宜しいでしょうか?」

「ん?サラか。どうした?」

「トリトン王、我らのことが信じられないと言うならば、いっそ互いに歩み寄るのは如何でしょう?」

「互いに?」

「エレメンティオとセイレーン王国で国交を結ぶのです。互いに物資の取引や使節の交換をして、お互いの真意がわかるまで話をしてみるのです。エレメンティオには海にはない珍しいものも沢山ありますし、陸の社会の研究に役立つのではないでしょうか?」


 なるほど。信用出来ないなら信用できるまで関わり合う、か。

 外交担当のトップであるサラらしい考え方だ。

「陸の研究」という名目もチラつかせるあたり、上手い手だと思う。


 トリトン王の心も揺れているようだ、

 しばらく考え込み、そして大きく深呼吸をした。


「よかろう。我らセイレーン王国は精霊王国エレメンティオに国交の申し入れをする。」

「その話、喜んで受けるよ。互いに良い関係を作っていこう。」


 固く握手をし、俺たちの国交は樹立された。



 国交を結ぶにあたり、使節の派遣の話が出た。

 セイレーン王国から使節団を派遣し、陸の生活について学びたいそうだ。ついでに俺たちの人間性を見極めたいという。

 セイレーン達は魔法で人化することが出来るので、短期間であれば陸地でも問題ない。

 こちらとしても大歓迎だ。

 ただ、問題はこちらからの使節。

 うちに水中で暮らせるような種族って……強いて言えばリザードマン?

 リンドに聞いてみると、水中で動くのが得意と言うだけでずっと水中は無理との事だった。

 じゃあこっちからの使節は無しかな。

 そんなことを考えていると、イリューシャがこんなことを言ってきた。


「ミアガリアに頼むのはどうです?彼女は『変質』を司るから、魔法で一時的に人魚にするくらい簡単なはずですよ。」

「おお!その手があったか。帰ったら相談しよう。」

「では使節の交換については互いに前向きに進めよう。」


 次に、交易について。

 王に取り次いでもらう見返りとして提示した魔豚のレトルトはトリトン王も興味を示したらしい。

「人間に近い」という理由よりは「魔王をうならせた」が大きな理由らしいが、とにかく食べてみたいと言う。

 という事で、魔豚を始めとする各種レトルトや缶詰、地上の作物などを輸出する。

 セイレーン王国からは、魚や魔物、貝などの海産物。これは船では取れない深海付近のものを取ってきてくれるらしい。有難いな。

 あとは真珠。セイレーン王国では在り来りな宝石で養殖もされているとか。

 陸の俺たちからしたらこれも希少なので交易品に入れておく。

 とりあえずはこんなところだ。


 せっかくなので、船の上でレトルト食品を食べてもらうことにした。

 拘束されていた二人も解放して一緒に食べる。

 この二人、いわゆる門番だったらしくそれなりの腕を誇っていた様なのだが、あっさりと負けて拘束されたことにトリトン王は驚いていた。

 何より、人間が龍を従えていることに驚いていた。


「なんと!これが陸の食べ物か!なんと奥深い味わい……!」

「うんま!これ、すっげぇ柔けぇ!」

「海の中はどうしても味付けが水っぽくなりますが、これはしっかりと味付けされていて美味しいです。」


 どうやら好評のようだな。

 最初人間を嫌っていたのが嘘のように俺達との交易の開始を楽しみにしているようだ。


 そして最終確認。

 俺達が信用に値すると王が判断するまで、俺達はここに近寄らない。

 交易はセイレーン王国側から人を寄越すらしい。

 随分徹底していることだと思ったが、信頼してもらうためにも何も言わないでおいた。

 今回の俺達の冒険はここまで。メローナへ引き返すことになった。


 早く東の大陸に到達するためにも、セイレーン達と良い関係を築いて信頼を勝ち取らないとな。


 

 

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