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205.春の到来

 今年は暖冬だ。

 と言っても、雪も降るし寒いのは寒い。

 畑仕事がない分、みんな家にこもって別の作業に従事している。

 俺は何をしているかと言うと、建物建築やインフラ整備の方法を賢者の書から写本していた。

 地球の言葉で書かれているので、こればっかりは俺が一文字一文字書きとるしかない。

 今までは皆同じ村に住んで目の届く範囲でやっていたが、国ができてからそうもいかなくなってきた。

 これから更に多くの町ができていくのだろう。その時のために、誰でも読める言葉に直しておきたい。


 しかしながら大変な作業だ。

 次々書かれる先生の板書をひたすら写していた高校時代を思い出す。

 正直内容なんか頭に入らないよな。

 まあいい、ひたすら写していく。

 本当なら料理のレシピとか作物の育て方とか、本にしたい知識は沢山ある。

 だがそれは一人では無理なので、料理はアヤナミに、作物はサラ達エルフの協力を得て少しずつ書いていく。

 魔法を使えない分、何気にこれが一番壮大で時間のかかるプロジェクトかもしれない。

 そんなことを考えながら、冬の間にできるだけ作業を進めた。


 周辺の街にも見回りに行ったが、みんな元気に過ごせているようだ。

 港町では立派な船ができつつある。

 街の名前も決まった。『港街メローナ』。

 うん、良い名前だ。

 俺が提案したスクリューとエンジンはドワーフの里でなんとか動力化しようと頑張っている。

 見た目は大航海時代とかのキャラック船、中身は高速スクリュー船。

 これぞまさしくチートだよな。

 是非とも頑張ってもらいたい。

 トリノ公国の技術者達はスクリューエンジンという未知の技術にいたく興味を持っていた。

 というか、「船の作り方も知らないはずなのになんでそんなの知ってんだ?」と不思議がっていた。

 あはは。まあそうなるわな。

 テキトーに思いついただけだってことにしておいた。









 春になった。

 家に籠っていた人間達が動き始める。

 俺達も今年の活動を始める。

 年初めの毎年恒例の村民会議(今は国民会議か?)で今年の方針を決め、それに合わせてみんなが動く。

 食糧庫の在庫状況の確認と、今年の食糧生産計画案の決議。

 交易による利益とその傾向。交易品の生産計画について。

 各街の進捗状況。人員の割り振り。

 年はじめ一発目の会議だ。確認することは山のようにある。

 そして今年の新たな取り組みについて。

 今年は東の海の開拓を大きな目標のひとつとする。

 そして、漁業の開始。

 船作りの進捗的にもこの春から海に出られるようになるだろう。

 あとは港街メローナの整備を進めて、獲ってきた魚や海産物を売る市場や、現地の魚を食べられる食事処も欲しい。

 街道は整備してあるから、ディノス号によって王都まで魚が届くようにしよう。

 新鮮な魚に活気づく魚市場、地元ならではの漁師飯。

 夢は膨らむばかりである。





 

 春になり、蜘蛛の洞窟から税としてのシルクが届いた。

 アラクネとその配下は季節に一度くらいのペースでシルクを納めてくれる。

 そして今回は、シルキィが持ってきてくれた。

 もちろんフランカは大喜びだ。

 なんと、シルキィはヘルスパイダーに進化していた。

 キルスパイダーに進化したのが三年ほど前だ。そんなに短期間で成長したんだな。

 二メートル以上ある巨体は結構怖いが、フランカはお構い無し。

 それどころかシルキィに乗って散歩し始めた。

 フランカの怖いもの知らずはどこまで行くんだ。

 見ているこっちが怖いんですけど。

 当然、その姿を見た街の人は騒然。

 一時はパニックになりかけた。

 そんなシルキィだが、今ではシルク生産の監督を担っているらしい。ついでに税の運び込みにも立候補。

 つまりこれからは季節に一回シルキィがこの街に来ることになる。

 ちなみにまだ街へ戻る気は無い。

 シルキィはデーモンスパイダーへの進化を目指しているらしい。

 目標が高いな。まあ頑張ってくれ。

 フランカは複雑な顔をしていたが、久しぶりの再会を楽しんだようだった。


 シルキィが持ち込んだシルクの布は、様々な種類に織り分けられていた。

 厚手のしっかりしたもの。柔らかな手触りのもの。

 向こう側が透ける薄くて繊細な作りのもの。

 どれも高級感溢れる出来栄えだ。

 知能の高いシルキィのことだから、こういう違いも自分であみ出して他の蜘蛛たちに叩き込んで行ったんだろう。

 そもそもはシルクの「糸」を欲していたのに、こんな上質な布をしつらえてくれるとは嬉しい誤算である。

 パーシヴァル曰く、夏頃にまたヘルスパイダーが卵を産み付けにやってくるらしい。

 最近は金糸や銀糸に始まる色付きの糸が増えてきた。

 衣服を作る際に染める必要がなく、また色落ちの心配もないとの事でなかなか重宝している。

 次はどんな糸が見つかるだろう。

 今では一部の国民もお祭りなどの特別な日用にシルクのワンピースやドレスを持っている。

 他国からしたらとんでもないことなんだろうな。

 クローディアも、「ここのシルクの服はリンメル王国のものよりもはるかに質が良いです。そしてデザインが斬新で可愛いですね。」と太鼓判を押していた。

 リンメル王国、確か世界で唯一のシルク生産国として名高い大国だな。

 これからは競合していくからお互い頑張っていこう。


 エレメンティオとオルテア王国の境にある宿場町の宿も完成した。

 宿場町の名前は『宿場町カーライル』。

 冒険者や商人など、旅人がゆっくり休める宿ができ、ついでに馬宿や食堂、保存食などを取り揃える食料品店も作った。

 移住者の中に料理の得意な者がいたので色々な料理を仕込んで食堂を任せた。

 マクシムの人を見る目は本当に確かなようで、元々農民だったこの男はみるみるうちに名コックへと進化を遂げた。

 これで国外から来る旅人が一息つけるだろう。

 

 三国街道は盛況だ。

 カーライルが出来てきたことで利用者はさらに増えるだろう。

 ちなみにこの街、住人は人間が多いが防衛部隊はケンタウロス達だ。

 国境に一番近いということもありできるだけ強い奴を常駐させている。

 それに、三国街道の料金所もあるからな。防犯はしっかりしておくべきだろう。

 ケンタウロス族は魔族領でも魔王軍の軍団にあげられるほどの強さを誇る。

 身体能力に加え、強力な土魔法をガンガン使って来るのが特徴だ。

 森で見つけてスカウトしたところ、「首領同士での一騎打ちを望む!」と言われ何故か戦うことに。

 相手はケンタウロス族の首領、ケイロン。

 俺の攻撃などかすりもせず、突進や槍での攻撃、土魔法などやられたい放題だった。

 しかし、俺には『結界』の加護と龍の魔力があるため物理攻撃も魔法攻撃も効かない。

 これ以上攻撃しても意味が無いと悟ったケイロンは自ら跪いて配下になることを誓った。

 そんなわけで、攻撃さえ通れば彼らは滅茶苦茶強い。

 他国の諸君、くれぐれも変なことは考えないようにな。


 他にもミアガリア率いる調査隊に不毛の大地の調査に行かせたり、開拓中に襲ってきた魔物たちの討伐をしたり。

 あちらこちらで人も魔物も動き出す。

 慌ただしい春の到来である。

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