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204.王女とイケメン

「それで、レティシア、話ってなんだ?」

「先程は彼女達の手前口にしませんでしたが、シュタイル国王には抗議の手紙を書くべきです。」


 レティシアが厳しい顔で言う。

 まあ、確かにいきなり妃なんて送り付けられて困ったもんな。


「でも、せっかく送ってくれたのに抗議の手紙なんて、それこそ失礼じゃないか?」

「力関係的には問題ないかと。あの国は戦争で疲弊しているようですし、さらに敵を増やすことはないと思われます。陛下は少々へりくだり過ぎる傾向があるかと。あなた様は魔王が認めし御方です。本来であればこの程度の小国の王は格下、中規模、大国辺りにも対等で良いはずです。」

「その通りです。本来であれば敬語も不要ですわ。丁寧に接するのは良いことですが、あまり下手に出すぎると国としての威厳を感じられなくなり、いいように利用されてしまいますわよ。」


 ダンタリオンが冷静に分析する。レティシアもそれに続いた。

 うう、厳しいお言葉。でも二人の言うことも正しい。

 魔王国と人間の国、二つの場所の高貴な立場に居た二人だからこその忠告なのだろう。

 

「彼女達は別に陛下のためを思って送られたのではありません。向こうの国の都合で送られたのです。多少の失礼は目を瞑るはずですわ。それよりもすぐに抗議の手紙を送らねばシュタイル王国はエレメンティオと婚姻関係を結んだと大々的に報じてしまうかもしれません。」

「確かに、中立を謳っておいて婚姻はちょっと周りの反応が怖いな。」

「それだけではありません。小国であるシュタイル王国が婚姻を結べるなら、我も我もと他の国も次々と妃を送ってくることでしょう。」

「既に妃がいるのに??」

「多くの国では王侯貴族は一夫多妻制ですわ。そうなればここの王城が非常にドロドロしますし、陛下も相当気を使って面倒なことになりかねません。私も女性関係の面倒事は近寄りたくないんですの。」

「た、確かに……!」


 同じ城の中に複数の妃候補。

 しかもそれぞれが違う国の出身で国の命運を担っている。

 ドロドロ所の話じゃないな。

 下手したら殺し合いとかの謀略が……うわぁ、嫌だ嫌だ!

 ただでさえ俺は女性関係に免疫ないんだから、平和に生きていきたい。

 女のドロドロとか見たくないよ。


「よ、よし!すぐに手紙を書こう。」


 そして俺はレティシア監督の元、シュタイル王国国王に講義の手紙を書いた。

 これは国としての立場ではなく俺個人としての非公式なものとする代わりに、二度と一方的な人員の送り付けはしないこと、今回の王女二人の婚姻は見送りとし、あくまで妃候補として滞在を許可すること。

 そしてこの一連のことを他言しないということを取り付ける内容だ。


 ダンタリオンに頼んで届けてもらう。

 すぐに返事を受け取って帰ってきた。

 懇切丁寧な謝罪の言葉が並べられていると共に、娘の体裁を考えどうかエレメンティオに住むことを許可して欲しいと言うものだった。


 こうして小国の王女という高貴な二人が俺たちの仲間になった。


 その後、お詫びの品として送られた国宝の魔術書や学術書を写本することにした。

 ちなみに写本自体は俺じゃなくてダンタリオンがやっている。

 事務職の才を余すことなく発揮し、素晴らしいスピードで転写機にかけ製本していく。何なら魔法を使い何冊も同時進行で行っている。

 一文字一文字書いてたら大変だった。改めてエルフ研究者集団に感謝である。


 二人の王女を迎え、ひと冬を過ごした。

 一応、俺の妃候補ということで屋敷に一緒に住んでいる。

 屋敷の二階にある来客用の寝室をそれぞれあてがった。

 姉のクローディアは俺を完全にロックオンしたようで、どこにでも着いてこようとする。

 ただ、王女として色々と教えこまれているのだろう。何も考えず付きまとっている訳ではなく、引くべきところはちゃんと引く。

 そして政治、特に対外政策に詳しく時に俺に助言をしてくれる。

 態度も「自立した強い女」タイプのレティシアと比べて控えめで前に出るタイプでは無いが、賢く教養があり相手を立てながら自分の意見も言う。

 弱いだけのお姫様でないことが分かる。

 何より驚いたのは、彼女は風魔法の祝福者だった。しかもかなりの使い手だ。

 様々な風を起こすことはもちろん、範囲は狭いが『対物理結界』を張ることが出来る。さらにどこでもという訳では無いが『風移動』もできるらしい。

 あまりに自分の位置から離れた場所には行けない、一度行ったことのある場所でないと『風移動』出来ないなどの制約があるものの、シルフ無しで『風移動』はかなりすごいと思う。

 色んな意味で、さすが第一王女、なのである。


 妹のアリエルは、清廉な姉に比べて華やかな雰囲気を持っており、性格の方も姉より社交的だった。俺を始め街の住人によく話しかけ、獣人やエルフとも仲良くやっている。

 王女だが気取った様子はなく、街のインフラや公共事業について質問しては勉強しているようだ。そのうち外交とか特使とかにしたら活躍しそうだな。

 そしてアリエルは火魔法の祝福者だ。

 こちらもかなりの使い手で、様々な火魔法を放てる。

 戦闘力においてはうちの防衛隊に入っても遜色ない程度には強い。

 うちの防衛隊はミアガリア以外物理特化だからな。魔法を使うスタイルには苦戦するみたいだ。

 魔物の中には魔法を使うものもいるし、対魔法攻撃の方も強化しておくか。

 そしてこのアリエルだが、どうもゼノに気があるようだ。

 ゼノと同じ空間にいるとチラチラと目で追っているし、たまに話す機会があるとなんとも嬉しそうだ。

 正直、婚約者であるはずの俺と話す時より嬉しそうだ。

 ……これは断じて嫉妬では無いからな。

 まあ、全く悔しくないと言えば嘘になるが、好きなもんはしょうがない。

 俺との婚約も正式なものじゃないし。

 というか、そんなにゼノのことが好きならいっそ婚約解消してゼノにくっつけるとかは?

 婚約者が二人、しかも姉妹でなんてなっても拗れるだけだ。

 他に好きなやつがいるなら喜んで引き渡そう。

 あ、でも、ゼノはアリエルのことどう思っているんだろう?

 これはちょっと聞いてみるか。


 ゼノにも相談した結果、アリエルはゼノに下賜することになった。

 ゼノは俺の提案に対して、「陛下の命であれば慎んでお受けする」とのこと。

 ゼノ本人の気持ちはどうなのか気になったが、「今は恋愛感情は生まれていないが、結婚する以上は大切にするし、好きになれるよう努力する」との事だった。

 こいつ、俺なんかよりずっと大人で男前じゃねぇか!!!

 なんだその包容力。どっから湧き出てくるんだ!?

 腹をくくれない俺が小さい男に見えてくる。

 でも仕方ないだろ、結婚だぞ。

 彼女さえいたことがない俺がいきなり結婚なんて。

 そりゃ慎重にもなるさ。

 まあ、クローディアのことは嫌いでは無いし、クローディアも国のためにという下心はあるかもしれないが俺をしたってくれている。

 ひょっとしたら、いつかは、結婚、する、のかな?

 あ、なんか恥ずかしくなってきた。

 一旦忘れよう。


 ゼノと晴れて婚約することになったアリエルは幸せいっぱいの顔をしていた。

 でも、このことはまだ秘密だ。

 ゼノはモテる。街の中でもトップクラスにモテる。

 そんなゼノが他国から来た女にいきなり横取りされたと知ったら女達のバトルが勃発しかねない。

 互いの恋愛結婚ではなく政略結婚だと知ったらなおのこと。

 アリエルが国に居られないように嫌がらせをすることだって考えられる。

 だから二人にはしばらく結婚は待ってもらい、あくまでお互いが惹かれあって結婚に至ったように見せてもらう。

 その頃にはアリエルもエレメンティオの仲間として受け入れられていることだろう。

 二人ともその提案を受け入れた。

 アリエルはゼノと結婚できるならなんでもいいそうだ。


「ゼノもそれで良いな?」

「はい。あ、もちろん秘密の婚約者であっても大切に致しますのでご安心くださいね、アリエル様。」


 ……何だこのイケメンは。


 俺がゼノのようになれる日は遠そうである。

 

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