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202.才能の塊

 俺はイリューシャと共にオルテア王国へやって来た。

 転移で一気にキークスの町へ。

 完全なお忍びだ。用事を済ませてサッと帰ろう。

 やって来たのは『オットー人材斡旋所』。

 ゴツいガードマンに案内され中に入る。


「ケイ殿……!いえ、陛下!」


 奥からやって来たオットー氏が俺に気付いて驚きの声をあげる。

 そして深々とお辞儀をした。

 あ、そうか。今は国王だからただのお客じゃなくなったんだな。

 部屋に通される。マクシムも一緒にやって来た。

 二人とも緊張した面持ちで背筋を伸ばしている。


「そんなにかしこまらないでください。いきなり押しかけてすみません。」

「驚きましたよ。して、本日はどのような奴隷をお探しで?」

「奴隷じゃなくて、オットー氏に折り入って相談があるんです。」


 そう言って俺は、テーブルにドンと金貨の入った袋を置く。


「金貨千枚あります。これでマクシムを売ってください。」

「はぁ?」


 思わず間の抜けた声が出るマクシム。

 そう、今日の俺の目的はマクシムだ。

 難民を受け入れることになったが、変なやつを国に入れないように審査をする人間が必要だ。

 それ以外にも人口が増え仕事が増えた今、適材適所を見極める才能が欲しかった。

 それに関してはマクシムは折り紙付きだ。

 是非ともエレメンティオに迎え入れたい。


 マクシムもオットー氏もしばしぽかんとしていたが、静かに口を開いた。


「……お金はいりませんよ。マクシムはあなた様への献上品といたしましょう。」

「いや、オットーさん!」

「お前の他にも目利きはいる。奴隷達の教育係もな。お前は陛下の元でお役に立て。」

「良いんですか?俺が引き抜いてしまっても?」

「人間を売る奴隷商の献上品もまた人間。実にらしいではありませんか。あなた様のお役に立てるのであれば私としても本望です。」

「マクシムは?それでいいか?」

「いや、俺は別に……王様にゃ逆らえねぇし……」


 決まりだな。これからはエレメンティオでその才をふるってもらおう。


「ありがとうマクシム。そしてオットー氏もありがとうございます。」

「もったいないお言葉です陛下。……つきましては、うちの店に『エレメンティオ国王陛下御用達』の看板を掲げてもよろしいですかな?」


 ……さすがオットー氏。ちゃっかりしてやがるぜ。

 そうして俺はマクシムを、オットー氏は『国王陛下御用達』の看板をゲットした。





 ついでに、マクシムの身請け記念として(?)斡旋所の在庫奴隷をほぼ全て買い取ることにした。

 その数およそ百五十人。

 何人かは小国群の『人族至上主義』が根付いているらしく、「下等なエルフや魔族と人間が同じ立場だなんてゾッとする!!」と、喚いていた。

 あ、そう。別に無理強いはしない。というか、奴隷の中には獣人もいるし、既に立場は同じだろ?

 こういうのは他人がとやかく言って考えが変わる訳でもないし、関わらないに限る。

 喚いていた一部の奴隷以外の契約を済ませ、鎖を外し、うちの国での扱いを説明する。

 奴隷身分解放や家屋の提供、税率など、その待遇を聞いて顔色が変わる売れ残り。


「あ、あの、やっぱ俺も……」

「失礼ですがオットー氏、この店では契約も済んでいない奴隷が客に気安く話しかけるのですか?」

「いいえ、陛下。大変失礼致しました。この売れ残り共を連れて行け。」

「へ、陛下!?」

「このお方こそ精霊王国エレメンティオの国王陛下だ。首が飛ばなかっただけありがたいと思え。陛下の慈悲に感謝しろ。」


 強面の斡旋係が売れ残り奴隷たちを連れていく。

 俺達も奴隷達を連れて移動する。

 奴隷たちの移動はイリューシャに任せ、俺はオルディス商会に。

 ヘイディスさんへの挨拶と、セシルの様子を見に行くためだ。


「ケイ殿!いえ陛下!」

「こんにちは、オルディス氏。近くまで来たので挨拶にと。お邪魔でしたらすみません。」

「とんでもない!陛下にお越しいただくとは光栄の極みです。」

「『陛下』はなんだかくすぐったいので今まで通り『ケイ』でお願いします。」

「かしこまりました、ケイ様。」

「セシルは元気ですか?」

「つつがないですよ。それどころか、彼は本当にただの農民の子どもだったんですか?覚えが非常に早く、こちらに来てまだ二月ほどですが下働きの仕事をほとんど身につけてしまいましたよ。」

「昔から器用で賢い子だったんです。」

「賢いでは済まされませんよ。読み書きは完璧、金勘定も速く利に聡い一面もある。それでいて人当たりがよくきめ細やかな気遣いが出来ます。ヘイディスによると彼はまだ下働きですが、彼の人柄に惚れた固定客もポツポツと出てきているとか。更には力も強く、賊が出た際にはあっという間に倒してしまったんですよ、それも素手だけで。」


 あー、確かに昔から鬼人族の体術を教わるべく、ゼノと取っ組みあって稽古をしていた。

 普段から身体能力が抜群に高い鬼人を相手に戦ってたんだ。人間の賊なんか相手にならんわな。

 その後もオルディス氏から、セシルがいかに才能があるかについて聞かされた。

 自分の事じゃないのに、なんだかこそばゆい気分になる。これが親心と言うやつか。


「ケイ様は、セシルの将来についてどうお考えで?やはり私共と同じようにエレメンティオの商人たちの代表にするおつもりですか?」


オルディス氏の問いに、俺は言葉につまる。

セシルの将来。そう言えば具体的なことはなんにも考えていなかった。オルディス商会に弟子入りしたからには商人になるんだろうけど、エレメンティオの商人代表か。


「正直どのようにするかは決めていないんですが、オルディス氏から見てセシルは商人代表としてやって行けると思いますか?」

「勿論ですよ。と言いますか、あれほどの才能を持ちながらそうしないのは宝の持ち腐れ以外の何者でもありません。正直、ケイ様に近しい子でなかったらうちの養子にして後継として育てたいくらいですよ。」


え、そんなにか。

大商人のオルディス氏がそこまで言うんだから、セシルの商人としての才能は本物なんだろう。

だったら、オルディス氏の言う通り商人代表にするのも悪くないかもな。

セシルがトップになれば貿易でのうちの利益もきっと上がっていくはずだ。


「オルディス氏がそこまで期待する子なのであれば、セシルを将来の商人代表にしようと思います。それまでご指導の程、よろしくお願いします。」

「で、あるならば、あと数ヶ月はうちで預かり、その後はエレメンティオで商人としての実戦経験を積んだ方がよろしいですな。」

「数ヶ月で……大丈夫ですかね?」

「仕事内容については申し分ありません。行商の経験も既に何度かさせております。あとは大きな取引を経験した方が良いですな。今後、エレメンティオをはじめとする大きな取引の際には同行させます。」

「ありがとうございます。そこまで面倒を見ていただけるとは。」

「こちらとしても元弟子としてうちに縁のある人間が商業のトップである方が色々とやり易いですからね。お互い様ということにしておきましょう。」


先を見据えての選択だったか。

これはセシルが代表になった暁にはオルディス商会にサービスしとかないとな。


その後、若干照れくさそうなセシルと少し話して俺はエレメンティオへと戻った。

セシルはちょっと背が伸びて、顔つきもちょっと大人っぽくなっていた。

子どもの成長は早いな。

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