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2.未来の母との出会い

 エルネアに転移するに当たり、ディミトリオス様と相談し、3つの能力をもらった。


 一つは、どんなときにも病気にならない丈夫な体。

 二つ目は、世界間の転移の際に手に持っていたものを持ち込む『転送』の能力。

 三つ目は、ディミトリオス様との通信手段である『天啓』の能力。


 そちらの不備ということもあって、だいぶ融通してくれたみたいだ。

 さらに、「餞別じゃ、拠点ができたら植えると良い。きっと役に立つじゃろう。」と、なんだかわからないけどアボカドの種くらいの大きさの種をもらった。


 「では、圭よ。心の準備はできたか?」

 「はい、大丈夫です。」

 「何でもかんでも助けてやる訳にはいかぬが、本当に困った時にはわしを呼ぶが良い。そのための『天啓』じゃ。そなたが良い人生を迎えられるよう、見守っておこう。」

 

 「色々とありがとうございます。がんばります。」 

 「では、行くが良い。」


 再び白い光に包まれ、俺は意識を手放した。








 気がつくと、森の中にいた。

 どうやら無事に転移したみたいだ。立ち上がり、土を踏みしめる。

 土の感触、草の匂い、木々のざわめき。こんな感覚は何年ぶりだろうか。

 体が軽い、息苦しくもない、ずっと続いていた体の痛みも、すっかり消えている。

 とりあえず、持ち物の確認。服装はラフなシャツにこげ茶のマント、ズボンに革製のブーツ。

 この世界での典型的なファッションだろうか。

 布製の肩掛けカバンには、ナイフと火打ち石、木製のコップと器、スプーン、水を入れる革袋、少量の食料。

 これも典型的な旅人の荷物って感じだ。

 とりあえず、着の身着のまま放り出されなかったことに感謝。空に向かって手を合わせて祈る。


 「神様、ありがとうございます!」


 (ほっほっほ、よいよい。)


 「うわっ」


 普通に頭の中で返事があった。完全に独り言のつもりだから驚いたぜ。


 (これが『天啓』じゃ、実際に声に出さずとも、心のなかでわしを呼べばつながるようになっておる。もちろん、呼ばれぬときは、そなたの心を覗いたりはせんから安心するがよい。) 

 (あ、ありがとうございます!) 

 (いい忘れておったが、南の方向に行くと川があるぞい。そなたが立っている位置の左手側じゃ。その方向に行くと、未来の母親たちにも会えるじゃろうて)

 (わかりました。行ってみます。いろいろとありがとうございました。)


 心のなかでお礼をいい、ついでに誰もいないからとペコリと頭も下げ、俺は南に進むことにした。



 

 太陽がすっかり真上に登った頃、川が見えてきた。

 軽く三時間以上歩いたはずだが、全く疲れない。前世(まだ死んでないけど)では考えられないほど体力も付き、体が丈夫になっている。

 川は透き通っていて、時折魚が跳ねるのがみえる。うん、きれいな川のようだ。

 革袋に水を足し、木陰にすわって一休みする。

 腹も減ってきたし、魚でも獲って食事にしよう。

 釣り竿など持っていないので、丈夫そうな蔦の先に持っていた干し肉(貴重な食料だからごく少量だ)をくくりつけ、川に投げ込む。

 うまくかかるといいが……


 一時間ほどねばったが、全く掛かる気配がない。どうしよう。ディミトリオス様……に頼るのは良くないな。できることは自分でしていかないと。

 とりあえず、水につけてすっかりふやけた干し肉を食べた。あまり美味しくはなかったけれど、しょうがない。

 一休みしたらもう一度挑戦しよう、今度は石を積んで追い込み漁でもやってみるか。


 そろそろ二回戦と行くかと思った頃、ガサガサと茂みが揺れた。

 野生の動物?まさか、魔物?ナイフを手に身構える。

 いや、ナイフを持ったところで、戦ったこともない俺じゃどうにかなるとは思えないけど。

 小さいうさぎとかでお願いします!

 そう願ったのと同時に飛び出してきたのは

_____子どもだった。


 「え?」

 「あっ」


 俺と少年、二人同時に素っ頓狂な声を上げる。そりゃお互いこんなところに人間がいるなんて思ってなかったしな。

 とりあえず構えていたナイフを一旦下ろすが、警戒は怠らない。


 「お兄さん、誰?」


 「あ、俺は……」

 「こらセシル、どんどん先に行くと危ないって何度も言っているでしょう?」

 「お兄ちゃんたら、すぐ先に行っちゃうんだからーーー!」


 同じく茂みから出てきたのは小さな女の子と、その母親らしき女性。

 少し遅れて、荷車を引いた老夫婦がやってきた。


 「あら?こんなところに人がいるなんて……」

 「黒髪のお兄ちゃん、だあれ?」


 五人の視線が集中する。ここは怪しい者じゃないことをアピールしておかねば。

  

 「はじめまして、俺は圭といいます。驚かせてしまってすみません。この川辺で一休みしていたところで……」

 「あら御丁寧に。こちらこそ驚かせてしまったわね。私はテレサ。こっちは私の子どもたちで、セシルとフランカよ。」

 「セシル……です。」

 「フランカはね、フランカっていうの!」

 「こちらは旅仲間のロベルトとマリアよ」

 「わしはロベルト、もとは農夫をしておった者だ。」

 「マリアよ。ロベルトの妻なの。」

 「あなたも旅の途中なの?その、あまり見かけない顔立ちだけど。」


 テレサの物言いは優しいが、まだ完全に警戒は解かない。母親という立場がそうさせているのだろう。

 

 「はい、特に目的地とかは決めていないんですが。その、記憶が曖昧で…………」


 これは一人で歩いているときに考えた設定だ。記憶をなくして宛もなく旅をする青年。

 こうすれば出自を根掘り葉掘り聞かれることもないし、この世界の常識を知らなくてもなんとかごまかせるだろう。


 「あらあら、それはお気の毒に。よかったら、私達と一緒に行かないかい?」


 マリアが心配そうな顔で提案してきた。

 ロベルトを始め、他のみんなにも、「悪い人じゃなさそうだし、どうかしら?」と尋ねている。


 「そうね、こちらとしても男手があると何かと助かるし、いいと思うわ。」

 「旅は道連れと言うからのう。」

 「俺も別にいいよ。」 

 「黒髪のお兄ちゃんも一緒に来てくれるの?やったあ!」


 他の面々も賛成してくれたようだ。

 

 「ありがとうございます。ではお言葉に甘えてお世話になります。」

 「ああ、ああ、いいわよ。そんな畏まらなくても。一緒に旅をする以上、家族も同然なんだから。その代わり、しっかり働いてもらうけどね!」

 「は、はい……じゃなくて、ああ、わかった。」


 テレサはどうやら面倒見のいい姉御肌って感じの女性だ。

 年齢は二十代後半から三十歳ってところだろう。あれ?そういえば神様は「未来の母親に会える」って言ってたよな?ってことはこの人が俺の母親?

 いや、確かこっちの世界では十年後に転生するんだろ?だとしたらちょっと年が行き過ぎな気がしなくもない。十歳前後の子どもが二人ってことは、結婚もそれなりに早いんだろうし。

 じゃあ十年後の俺の母親は…………


 俺は目の前でニコニコはしゃいでいる女の子、フランカを見た。

 おそらくだけど、こっち、だよな・・・


 よく考えれば当たり前のことだったのだが、まさか未来の母親が子どもとは思わず、大いに動揺する俺だった。





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