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198.交通ビジネス

「不躾なお願いかもしれませんが……」


 取引もひと段落したころ、スコットリーさんに突然そう切り出される。

 何事かと身構えたら、グルファクシを売ってくれないかということだった。

 この世界の飛行技術は生き物に頼っている。しかし、空を飛べる従順な生き物は意外と少ない。

 トリノ公国のペガサスも国に十頭ほどしかいない超希少な馬。本来は王や公爵たちの外遊などにしか使用できないものらしい。

 これから商取引の規模を大きくし、一般の商人たちにも取引を推奨していきたいが、空路の問題で頭を悩ませているということだ。


「残念だけど、グルファクシは魔王からの贈り物なんだ。それを人にあげてしまうのは流石に良くないと思う。」

「左様でございますか。おっしゃることはごもっともです。」


 魔王からの贈り物を他の国に売ったりなんかしたら、それこそ失礼の極みだ。

 国家の関係が破綻してもおかしくない。

 俺だって魔王国と敵対はしたくないからな。これは売れない。

 そもそも、売るほどの数はいないしな。

 繁殖させて数を増やそうとしたのだが、それは無理だった。

 ダンタリオンに聞いたところ、グルファクシは全員メスで、単一生殖だ。

 自らの寿命を悟った時に一頭だけ、ごく稀に双子の子を宿し、出産し子が生まれたのを見届けて死んでいく。だから繁殖はできない。

 もちろん殺すなどして寿命を無理に早めても子を宿すことは無い。

 グルファクシが「滅びの馬」 と呼ばれるのは、数が増えることが無いという理由かららしい。

 間違っても死なせないように大事にしなくちゃな。


「うちではヒッポグリフにお願いしようと思っているんですが、魔物がそっちに行っても大丈夫ですか?もちろん暴れることが無いように言いつけてはいますけど。」

「ヒッポグリフですか!彼らは理性的で知能も高いと言われていますし、大丈夫でしょう。」


 ヒッポグリフはグリフォンと馬を掛け合わせた魔物で、理性的だがグリフォン程の知能はなく人語も話せないためギリ魔物という分類になっている。

 多くは魔族領にいるが、魔族領との国境付近に生息していた一族が彼らだ。

 建国祭に来てくれて、フランカの通訳によると強き者(俺)に従うとの事だったので空路での荷運びや移動の手伝いをしてもらうことになった。今回のトリノ公国への荷運びも彼らにお願いする。

 連絡を取るために王都にいてもらいたいが、住処は森の中が良いと言うので王都に程近い森の中に住んでもらう。ついでに森の管理や魔物避けもお願いする。

 魔物の中でもかなり強いみたいで、ヒッポグリフがいるだけでそこそこ威嚇になる。

 動物の内蔵などを好んで食べるらしく、食肉加工や解体の際に出た内蔵を食べてくれた。

 俺達はゴミとして処分してしまうからちょうど良かったよ。


「それにしても、羨ましいですなぁ。うちにもそのような魔物が生息していれば良いのですが、未だに見つかっていないのですよ。何頭かお譲りしていただくことは……?」

「魔物とはいえ、一応意思の疎通もとれるうちの臣民なので……彼らに移住を打診してみましょうか?」


「ぜひ!!!」と食い気味で来た。

 フランカとヒッポグリフたちを呼んで聞いてみる。

 結果は「NO」。環境の急変を嫌うらしい。せっかく心地よいこの森に越してきたのだからここにおいてほしいとのことだった。

 あとは、強き者(俺)に従うと決めたものの、他の人間に従うとは言っていないとのこと。

 となると、トリノ公国へ移住したところで荷運びを引き受けてくれる保証はないということだ。

 しかし、トリノ公国側に空便ができないとなると貿易がめちゃめちゃ滞る。

 何とかならないものか。


 俺、スコットリーさん、ヒッポグリフたちで色々考え話し合った結果、ヒッポグリフたちには定期的にエレメンティオ~トリノ間を往復してもらうことになった。

 その往復の際に馬車を引き、商人や荷物を載せるという形だ。

 俺らの都合に合わせてヒッポグリフたちが飛ぶんじゃなくて、決まった日程で飛ぶのに合わせて俺たちが動く。

 地球の飛行機みたいな感じだな。

 御用商人であるスコットリーさんとの大取引は通常の定期便とは別に四頭のヒッポグリフを派遣する。

 これも定期的にスコットリーさんの元へ行き、送迎をする形だ。

 もちろん送迎費用はきっちりもらう。一般商人たちの送迎費用もね。

 そういうことで双方に同意してもらえた。

 街道の使用料に加えて空路の使用料もか。つくづく俺たちは「交通ビジネス」が得意らしい。

 優秀な人材のおかげだな。感謝感謝。

 

 造船技術者たちは陸路で来ている途中らしい。

 たくさんの道具を運ばなければならないのと、技術者は庶民なためペガサスを使えないという理由からだった。

 陸路って、何か国も通過しなきゃいけないだろうし、大変だな。

 到着したら労ってやろう。







 楽器は大人気だった。

 みんな時間を作っては楽器の演奏に勤しむ。

 最初は音を鳴らすだけだったのが、音階を見つける者、強弱をつける者、緩急をつける者など技巧を凝らす者たちが出てきた。

 今では異なる楽器が寄り集まって合奏をしたりもしている。

 周りで見ている人も手を叩いたり歌を歌ったりと楽しそうだ。

 街にもこれまで以上に活気が出てきたように思う。やはり音楽の力は偉大だ。


 そして同じく購入品で言うと、酒類も人気だった。

 正直ワイン以外はうちの方が美味いと言っていたが、ワインの濃厚でどっしりとした味わいは衝撃だったらしい。

 うちのワインとどちらが美味いかをよく議論していた。

 うちの酒も輸出できるまでに製造量が増えたし、街のみんなも酒を楽しめる機会が増えるな。

 というか、酒の製造量が増加してくるにつれて、祭りや宴会以外でも酒を求めるものが増えた。

 酒造場に出入りしている人をよく見かけるし、出てくる者はだいたい手に酒瓶を大事に抱えている。


 それなら、と、酒場を作ってみた。

 みんな、大興奮。開店式なるものを行った。

 ……他の店ができた時、そんなのしなかったけどな?

 ただし好きなだけ飲める訳では無い。

 何でもない日は一日一人一杯まで。じゃないと街の酒がすぐに枯渇するからな。

 ビールならビール用の大きめグラス一杯。

 ワインならワイン用の小さめグラス一杯。

 ウイスキーや日本酒も決められたグラスに一杯だ。

 それでもいつでも好きな時に飲めるというのは嬉しいらしく、「仕事の後の一杯」のためにさらに精を出して頑張っている。


 村ではビール流し込み派か、ワインなどをじっくり味わう派かで別れ、酒場に行くとよく議論している姿が見られる。


「カーッ!この流し込んだ時の喉越しがたまんねぇ!」

「香りや深みをじっくり味わいながら飲むのも良いものですよ。」

「このトリノ公国産のワインの豊潤さは何にも勝ります。」

「僕は日によって変えるのが楽しみだワン!」


 まあケンカにならない程度にな。

 何にせよ、村にとってプラスになったのなら良かった。

 音楽もそうだが、こういう娯楽や息抜きって大事だ。




 魚は大好評だった。

 今まで食べたことのない海の魚だ。干物にして旨味の濃縮された魚は街の人々を感動させた。

 トリノ公国は距離がありすぎて、生魚や貝を輸入できないのが残念だ。

 これは是が非でも造船技術を手に入れて、漁に出なければ。

 海に対する俺たちの熱量が上がった。


 果物も甘くて質が良かった。

 特にマンゴーは濃厚な甘さと香りで女性を中心に人気が高かった。

 オレンジはうちで作っている物より酸味が強く果汁が多かった。ジュースにするとおいしそうだな。

 南国系の果物たちは、物は試しと畑に区画を作って植えてみた。

 気候が全く違うが、果たしてどこまで育ってくれるやら。

 ……育ちすぎて果樹園の一角がジャングルみたいになったらどうしよう。

 一抹の不安を覚えたが、植えてしまったものはしょうがない。

 実りが多くあることを祈ろう。



 



 


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