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189.使者

 『世界の声』による精霊王国エレメンティオの建国と魔族による食人の撤廃。

 世界を揺るがした発表の後、各国は大いに揺れていた。

 新たな国を認めるべきか。

 国交は?暗黒の森にすむような人種だ。安全が保障されるとは限らない。

 では手っ取り早く侵攻するか。国としての体裁もまだ整っていないこの時期なら少しつつけば混乱にのまれ、簡単に破綻するやもしれぬ。

 しかしながら、魔王が後ろ盾についている。国家の樹立と共に魔王が承認したというのがまぎれもない証拠。

 魔王軍と全面戦争をして勝利する確率は低い。

 しかも最悪の場合、エレメンティオ自身も魔王に匹敵するだけの軍を持っているかもしれないのだ。

 でなければあの魔王が人間を認め、食人をやめるなどと言うはずがない。

 とにもかくにも、実態を把握すべく使者を送らねば。

 できればどこの国よりも早く。

 どこの国よりも心証を良くして。

 可能ならばエレメンティオを懐柔し、魔族領を含めた他国からの防波堤とするのだ。

 いや、敵対しないのが一番。強欲は身を亡ぼす。

 ここは静観の一手。

 

 意見は様々あったが、どの国も共通していることは一つ。

 精霊王国エレメンティオの、正体を見極める――。







 


 魔王城での建国宣言からひと月近くたったある日。

 オルテア王国の使者がやって来た。

 立派な二頭立て馬車に護衛が十数名。いかにも高貴な人物が乗っていますという雰囲気を出している。

 屋敷に案内されてはいって来たのは、上質な厚手の衣服を身にまとった紳士とズラリと後ろに並ぶお揃いの鎧を身にまとった騎士のような者たち。そしてよく知る顔が二人。


「オルディス氏、それにヘイディスさんも。」

「こんにちは。本日はオルテア王国の使者として参りました。まずはご紹介させてください。こちらが、ラムゼイ公爵です。」

「お初にお目にかかります。ラムゼイです。」


 真っ直ぐに目を見ながら快活に挨拶をする彼は壮年の美丈夫で、若いころはさぞ女性にモテただろう、そんな面影が残る。

 現オルテア王国の国王の弟らしい。いわば超偉い立場の人だ。

 後ろに並んでいる人たちは王国騎士団か。道理でピシッとしていると思ったよ。


「それは遠いところからようこそ。本日はどういったご用件で?」

「いえ、この度めでたく新たに国を興したということで挨拶にと。」

「それはそれは、ありがとうございます。」

「このオルディスから話を聞きました。あなたは以前からオルテア王国にたびたびいらしていたとか。」

「ええ、まあ。オルディス商会には良くしていただきました。豊かな良い国ですね。」


 あれ、勝手に行って商売したり買い物したりって、実はまずかった?

 行くのは自由だよな?通行税はきっちり払ったし。(何度か転移魔法ですっ飛ばしたけど)


「そういっていただけると王も喜びます。とはいえ、私どもも驚いたのですよ。まさかこの”暗黒の森”に踏み入って無傷な人間がいるだなんて。そしてこんな立派な国を興すとは……どういう経緯かお聞きしても?」

「まあ、色々あったんですけど……」


 俺はかいつまんで説明した。

 もちろん俺が異世界から転移したことは伏せているが、龍族や大精霊に関してはここに来たものからしたら周知の事実だろうし、おそらくオルディス氏もヘイディスさんも吐かされているだろうと思ったのでこの際話しておく。

 そして魔王との取り決めのことも。


「と、いうわけでいつの間にか国が出来ちゃいました、なんて……」


 目の前のラムゼイ公爵は真剣な顔で考え込んでいる。どうやら軽い感じで話す雰囲気ではないらしい。

 仕方ない、お堅いモードで行くか。

 堅苦しいのは苦手なんだけどなぁ。


 しばしの沈黙の後、ラムゼイ公爵は口を開いた。


「では、あなたは少なくとも人族に害をなそうとは考えていないのですね?」

「勿論ですよ。」


 害?害なんてなすわけないだろ。俺だって人間なんだから。

 ラムゼイ公爵はふっと自嘲気味に笑うと話をつづけた。


「話をお聞きして確信いたしました。あなた方は我々がどうこうできる相手ではありません。正直、この国を認めるかどうかも話を聞いてじっくりと判断する予定でしたが、もはや認める認めないの次元ではありません。私はこの度王より精霊王国エレメンティオに関する全権委任状を受け取っています。我らオルテア王国は精霊王国エレメンティオを国家として認め、国交を結びたく存じます。」


 ……急にどうした?

 今まで探るような慎重な態度だったのが、いきなりあけっぴろげになった感じだ。


「急な方針転換の理由をお聞きしても?」

「ははは、私から言わせるとはお人が悪い。十分お分かりのはずです。この国の軍事力は一国が相手にできるようなそれではない。国と認めず敵対するなどという選択肢はあってないようなものです。我が国をはじめほとんどの国はまともな頭があれば友好を選ぶでしょう。仮に戦争となれば、瞬く間に滅ぼされるのは目に見えております。」


「あなた方の前評判は、そこにいる商人二人から聞いておりますしね」と付け加えるラムゼイ公爵。

 まあ、魔王城の幹部たちを一瞬で倒すほどの力だ。しかもそれが四人。人間の国相手には負ける気がしない。

 オルテア王国としては一刻も早く友誼を結び、相互の利益を少しでも得ようというところなのだろう。

 はじめましての挨拶に全権委任状をしっかり持ってくるあたり初めからある程度決まっていたみたいだな。


 その後も話し合いはスムーズに進み、オルテア王国とは相互不可侵条約と通商条約を結んだ。

 できればオルテア王国側は軍事同盟を結びたいようだったが、魔王にも言った通りうちは中立だ。

 他国の戦争に駆り出されるのはごめんだからな。丁重にお断りしておいた。

 相互通行許可証の発行と互いの国における売買についての取り決め、街道の使用料や関税について話し合った。

 こういった交渉事は苦手だが、対人外交担当のレティシアがうまいことまとめてくれた。

 本物の貴族がいるとこういう時に頼りになるな。

 オルディス商会は準貴族に取り上げられ、オルテア王国とエレメンティオの交易の窓口となった。

 国同士で取り決めた物資の大規模な売買はオルディス商会を通して行う。

 商人が現地に行って少量仕入れる分にはオルディス商会を通さなくても問題なし。

 国外から商人がやってくることで街はますます活気づくだろう。

 気合を入れて街づくりを進めていかないとな。




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