185.祭の最中に事件は起きる
三精霊様方も揃い踏みで来てくれた。
しかも神殿にて祝福の言葉までを授けてくださったのだ。
ありがたやありがたや。
三精霊に護られた地として臣民の信仰心と俺に対する忠誠心がうなぎ登りだ。
宴の間にお通しして目一杯の酒と御馳走をお出しする。
「少し見ぬ間に、美しき村になったな。」
「子孫たちも皆息災のようじゃな。大切にしているようで何よりじゃ。」
「この前まで村だったのに、ついに国になったんだね!魔王に勝つなんてやるじゃん!やっぱうちの国が最強だよ。」
「いや、別に勝ったわけでは……」
「王が細かくて小心者なところが玉に傷だよねぇ。それより、ボクの好きなアレ出してよ。」
ボクの好きなアレ、スイカのことだな。
ちょうど今が旬の時期、たんとお召し上がりください。
その後は御三方と龍族三人組の給仕、そしていつの間にか集まった下級精霊たちで宴の間は盛り上がっていた。
隣の広間では精霊の像に祈りに来る者がひっきりなしに現れてるんだけど宴会の声聞こえてないよな?
そんなことを考えながら広場の祭り会場へ戻る。
俺への挨拶対応とかで、こちらもなかなか忙しい。
「ケイ様!緊急事態です!至急神殿へ!」
突然耳に直接入ってきたのはイリューシャの声だった。
緊急事態?神殿?
わけが分からないまま神殿を見ると、チラチラと見える赤いもの。
火事か!!
まじかよ。神殿に火の手が上がるものなんて置いてないぞ!
とにかく一目散に神殿に向かう。
後のことはレティシアとダンタリオン、サラに任せ、神殿に人を近づけさせないよう指示しておく。
”風移動”で神殿の入口に到着すると、数人の人間が避難するのが見えた。
「みんな、こっちだ!」
火の手の届かない所へ誘導する。
アヤナミがやってきたのを見てバトンタッチする。
煙を吸い込んでいないか、ケガをしていないかを見てもらい、俺はまだ残っている者がいないか神殿の広間へ。
炎は瞬く間に神殿全体に走り、燃え上がる。
明らかに普通じゃないスピードだ。
「なっ!?なんだよこれ!?」
せっかくの彫刻が!みんなで苦労して運んだ柱が!!
いやそれよりも、大精霊たちは……?
結界の加護で怪我をすることがないとはいえ、俺も正直体が熱いし、気のせいか息が苦しい……でも……
そう思った瞬間、どこからか大量の水が湧き出し、神殿を覆うように噴出した。
ばっしゃあああああぁぁぁぁん!!!!!
滝に打たれたかのような大量の水。当然俺はびしょぬれだ。おまけに鼻や気管にまで水が入ってきて思わずむせ返った。
「げほっげほっ!なんだっ!?」
せき込みながらあたりを見渡す。
炎に包まれていた神殿は静まり返り、屋根の先から雫を落としている。
俺は広間から出ると、火が消えていることを確認しながら宴の間へと急いだ。
こんな乱暴な鎮火の仕方、あの人しかいないだろう。
「アクエラ様!!」
バンッ!と扉を開けて宴の間に入ると、やっぱりそうだ、アクエラ様が部屋の真ん中に立っていた。
しかし様子がおかしい。その目は怒りがにじみ出ているし、おそらくアクエラ様の殺気だろう。肌がピリピリして目眩と吐き気がしてくる。
「人間、下がっていろ。この不届き者は妾が始末してやる。」
「ケイよ。今はここへきてはならぬ。出ていくのじゃ。」
ピリついた空間で、アクエラ様とガイアス様が同時に語り掛けてきた。
え、ここへきてはならぬって、不届き者って……?
状況がわからずアクエラ様の視線をたどると、そこにいたのは知っている人物だった。
「イフリート様!?」
間違いない、デスマウンテンで会ったイフリート様だ。
あの時と比べると何分の一かコンパクトになっているけれど、真っ赤に燃える髪と筋骨隆々な朱色の肌、そして何より全身から放たれる熱気は炎の大精霊そのものだった。
「イフリート様!どうしてここに!?まさか……」
「ふん、知り合いだったのか、ますます許せぬわ。この男、妾が加護を与えしこの地に火を放ちおった。」
「そんな……どうして……」
まさかと思ったけど、神殿を燃やしたのがイフリート様だなんて。
俺がなにか失礼なことをしただろうか。
サラマンダーたちともうまくやっていたし、デスマウンテンにはあれ以来近づいていない。
眠りを妨げることもなかったはずだ。
「人間!貴様!忘れたとは言わせぬぞ!吾輩を侮辱しおって!」
「侮辱なんて……」
「抜かせ!建国祭などと言う名目で大精霊を呼びながら、吾輩だけを除外したな!見ていたぞ、魔族領との問題が解決したのは、吾輩が遣わせたサラマンダーの力あってこそ!貴様、利用するだけしておきながら当てつけのように招待状も寄越さぬとは!これが侮辱でなくてなんと言う!!!」
どうやらイフリート様は、サラマンダーを利用しておきながらなんの礼も無かったことを怒っているようだ。
言われてみれば確かに。近づくなと言われてはいたが、一度関わった以上招待のポーズくらいは取るべきだったかもしれない。
どうやってコンタクトを取るかはさておき、全く素振りを見せないのは確かに失礼だったかも。
さて、どうやって謝る?
神殿に火を放つくらいだ。ちょっとやそっとの謝罪で許しては貰えないだろう。
神の怒りを鎮めるためには……一体どうしたら……?
怒りで肌を赤くするイフリート様と、殺気をまき散らすアクエラ様。
まさに一触即発。
そんな状況で言葉を発したのはあの人だった。




