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184.建国祭

「建国祭を行いましょう!」


 突然、レティシアが提案してきた。


「なんだ、その建国祭って?」

「精霊王国エレメンティオが新たに誕生したことを祝い、祭りを執り行うのです。招待客も呼んで。」

「いや……そんなに仰々しい感じにするつもりはないんだけど……」


 国家が誕生したのは確かにめでたいことだし、みんなの力添えのおかげでもある。

 祭りを執り行ってねぎらうというのも良い手だと思う。

 ただ、「招待客」は正直どうなんだ。いつもの宴会みたいに内輪だけで細々とやった方がお互い楽なのでは?

 というか、この村(今はもう街か)以外で呼べる人って誰だよ。

 自慢じゃないけど、知り合いはめちゃめちゃ少ないぞ。

 ヘイディスさんにオルディス氏、『暁』の皆さん。オットー氏とマクシム。

 あと魔王くらいか?ベリアルと試食審査員もギリ知り合いと呼べるだろう。

 わざわざ来てもらうのも申し訳ないような。

 そんな俺に一歩も引かずレティシアは説明する。


「招待客というのは、もちろん国外から呼んでも良いですが、今回は国内向けに行うのです。いわばひっきりなしに訪れる国民にこちらから日付を指定し招待するというものですわ。建国祭に来る来ないは自由ですが、来た者と来なかった者で容易に(ふるい)にかけられますし、全員同じタイミングで挨拶するのですからいちいち来た順番などを覚えなくてもよくなります。」


 なるほど、その手があったか。

 毎日数組ずつやってくる客の相手も楽じゃない。日時を指定して全員一斉に終わらせるというのは良いアイディアだ。

 篩にかける云々は置いといて、どの種族が何番目に来て~なんて覚えなくて良いのは楽だな。

 さすがレティシア、俺にはそこまでの考えは及ばなかった。

 レティシアの案に了承し、早速招待状を出す。

 建国祭は二週間後。招待者はこの国に住む部族の長全員。

 イリューシャとシルフの連携で、誰がどこにいるのかを調べ上げ招待状を届けてもらう。

 暗黒の森内はライアがすべて把握しているし、デスマウンテン付近はシルフ達の情報伝達に任せる。

 そして、この街に加護を下さったアクエラ様とガイアス様、エアリス様にも招待状を書く。

 俺たちがここまで発展させてこれたのもお三方のお力あってのことだもんな。

 是非とも今の発展した街の様子を見ていただきたい。

 大精霊への招待状は龍族三人組に任せた。


 その後もやれ国王の服装だ、祭りの料理だ、式典の形式に、招待客の席は、王へのお目通り希望者は……などなど、あらゆることを決めまくった。

 そして二週間後、精霊王国エレメンティオの建国祭が執り行われた。


 祭りには想像以上にたくさんの人が来た。

 街の人々は勿論、周辺の種族の長や同伴者も。


 俺は基本的に豪華な装飾のされたやぐらの上にいて、挨拶の言葉を述べたり、手を振ったりするだけだ。

 さすがに国王になった今みんなと一緒になって屋台で買い食いして騒ぐことはできないらしい。

 まぁ、今回みたいな”ちゃんとした”お祭りだけだけどな。いつもの宴会は普通に一緒に混ざろうと思う。

 だってその方が楽しいし。


「久しいな、人間の長よ。」

「……ドワーフの長!来てくれたのか。」


 やぐらを上って来たのは、ドワーフの里を統べる長だった。

 「誰の配下にもならない」が生きざまのドワーフの長が来てくれるとは意外だ。


「無理に来ることはなかったのに。誰かに庇護してもらうのは嫌いなんだろ?」

「無論そうだが、魔王が認めるほどの相手だ。敵対して滅ぼされる方がよほど本位でない。……王よ、我らドワーフの力、必要とあらば喜んで捧げましょうぞ。」

「……ありがとな。これからもどんどん発展させるつもりだから、頼りにしてるよ。ドワーフの里はどうだ?困っていることとか助けてほしいことはない?」

「おかげさまで皆健康であります。……強いて言えば酒の流通をもう少し増やしてもよろしいかと。」

「ははっ。まったく相変わらずだな。今日はたくさん飲んで行ってよ。お土産も用意してある。」

「有難きお言葉。そしてこれを献上すべく此度は参った次第。」


 そういうと、長は大小さまざまな三つのものを俺にさし出した。

 大剣に指輪に、これは……角笛か?


「以前、水神の遣いたる水龍様に『水神の眠り(トライデント)』を渡したことを覚えていらっしゃるかな?」

「ああ、ちょくちょく使わせてもらっているよ。」

「これはそれと同じもの。炎の神へ捧げる『炎神の怒り(フレアソード)』。炎の魔力を纏った大剣で、使い手の魔法適正の有無にかかわらず炎の魔法を使用できる。次に風の神へ捧げる『風の隠れ蓑(シグネット)』この指輪を身に着ければたちまちその姿を見えなくさせる。そして最後に大地の神へ捧げる『大地の呼び声(ホーン)』この角笛を吹けば、どんな状況下にあっても契約者を召喚することができる。王よ、あなた様に捧げます。どうか大事に使っていただきたい。」


 朱色に輝く俺の背ほどもある大剣に、複雑な刻印の入った銀の指輪、そしてどんな動物の角だろうか、純白に輝く角笛。

 どれも素晴らしく繊細なつくりをしている。

 きっと『水神の眠り(トライデント)』と同様、すごい力を秘めているんだろう。

 俺が預かって、龍族三人組に届けてやろう。火龍は……二度と近づくなって言われたし、保管かな。


「わかった。龍たちに渡しておこう。」

「有難き幸せ。ではこれにて失礼。」

「ああ、たっぷり酒飲んで行きなよ。」

 

 力強く、どことなく上機嫌な足取りで長は去っていった。








 ドワーフの長だけでなく、レティシアの目論見通りたくさんの部族が挨拶にやって来た。

 様子見のつもりで祭に参加した者もいたが、俺と魔王が親しげに会話して酒を飲んでいるのを見て血相を変えてやって来たらしい。虎の威を借る狐じゃないが、魔王の威光と影響力は抜群である。

 ダメもとで呼んでみたオルディス氏とヘイディスさんも来てくれた。護衛の『暁』の皆さんも一緒だ。

 開催が二週間後ということで日程的に無理だろうと思ったが、大急ぎで馬を飛ばして駆け付けてくれたらしい。

 なんだか申し訳なかったな。

 俺の即位を喜んでくれる一方で、魔王に認められ肩を並べた(ように見えたらしい)俺にどう接すればよいかわからないようだった。

 俺としては、今まで通り親しくさせてもらいたい。まだまだ人間の国についてはオルディス商会頼みだしね。

 一緒に酒を飲みながら、これからもいろいろと買取や商業のご教授を願いたいと言うと二つ返事でOKしてくれた。

 ついでにオルディス氏の口車に乗せられ、あれよあれよという間にオルディス商会は対オルテア王国における御用商会になっていた。

 くっ、さすが百戦錬磨の商人オルディス氏。親切と抜け目のなさが絶妙なバランスである。

 まあ、もともとオルテア王国への足掛かりとしてオルディス商会を頼る予定だったし、何なら御用商人のこともチラッと考えてはいた。信用できる人に頼むのが一番だからな。

 だからまあ順調に話がまとまったということで、これでいいのだ。うん。

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